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『青淵』No.917 2025年8月号|情報資源センター 若狭正俊
2019年4月に新1万円札発行の発表があってから6年、大河ドラマの効果も加わって、渋沢栄一とその事績や思想には多くの注目が集まり、それは今も続いています。私たち情報資源センターが公開しているデジタルアーカイブやレファレンス・ツールも栄一が話題になるたびにアクセス数が飛躍的に増えました。その中の一つ「渋沢栄一関連会社名・団体名変遷図」(以下「変遷図」)でも内容の充実を図るべく、図や掲載名称の追加・更新作業を行っています。
「変遷図」は、栄一がどのような会社・団体に関わったか、またそれが現在にどうつながっているのかが一目でわかるよう、名称の変遷をチャート図で示したレファレンス・ツールです。栄一の事績をまとめた資料集『渋沢栄一伝記資料』(以下『伝記資料』)第58巻の「総目次」に収録された会社について、その後の名称変遷を調査して2008年に公開。2017年からは対象を社会公共事業の団体に広げ、情報を更新しながら、現在162図を掲載しています。また、図に掲載しているそれぞれの名称について典拠情報を公開し、2022年からは「渋沢社史データベース」とも連携させています。
栄一が関わった会社・団体の中には創立から100年、150年を迎え、その長い歴史の間に、改組や合併、分離、グループの再編など様々な理由から名称の変更が重ねられてきたところも少なくありません。「変遷図」ではその変遷をたどり、それらについての典拠情報がわかるほか、栄一と会社・団体との関わりを「栄一が直接関わった会社・団体」、「その後身会社・団体」、「その他の会社・団体」の3種類に分けて示してきました。例を挙げると、栄一が総監役、頭取を務めた第一国立銀行は「栄一が直接関わった会社」、その組織・事業を引き継いだ株式会社みずほ銀行は「後身会社」としています。
しかし、例えば「栄一が直接関わった会社」やその「後身会社」が、栄一とはつながりのない「その他の会社」に吸収合併された場合には判断が難しくなります。栄一が関わった会社の法人格が吸収合併され消滅したことからこれを「その他」とすると、栄一が関わった会社の事業もそこで消滅してしまったような印象になりますが、実際は合併先の会社で事業が継承され、現代までつながっていることもよくあります。また、時に複数に枝分かれした会社・団体の名称の中から、どの名称のつながりを、どこまで図に示していくのかを選択していく基準についても課題となっていました。
そこでこれらの問題を解決するため、「変遷図」では、栄一が関わった事業の継承に着目し、2023年12月より「栄一が直接関わった会社・団体」から事業を引き継いだところを「後身会社・団体」とし、事業は継承していませんが組織としてつながりのあるところを「それ以外の会社・団体」とすることにしました。これにより、名称の掲載基準が明確になるとともに、その事業を追うことで、栄一が関わり、日本近代社会の基礎をつくった事業がどう継承され、どう現代に息づいているのかがはっきりわかるようになりました。
【例】銀行:帝国商業〔金融〕の改訂前(左)と改訂後(右)
「その他」としていた「(株)富士銀行」を栄一が相談役を務めた(株)帝国商業銀行等の事業を継承しているため「後身会社」に改訂。
(株)みずほ銀行へ続く事業の継承を示すことができた。
現在、新しい基準に基づき、これまでの図を更新しています。2025年8月現在、栄一の関与が強く、一般にもよく注目されることが多い主要な会社・団体の事業継承の調査は、ほぼ完了しました。今後はより小規模で、典拠となる記録や文献が少ない会社・団体を調査していく予定です。この事業継承の調査によって新たに光が当たった会社・団体もあり、そのような成果も「変遷図」に反映させています。会社・団体には、事業とともに栄一が関わった時代の記録や文献も一緒に継承されている事もあるので、その中から栄一に関わる未知の情報が発見されることが期待されます。
これまで『伝記資料』収録の会社・団体のうち「実業・経済」分野の約85%、「社会公共事業」分野の約15%の名称の変遷を図にすることができましたが、「変遷図」に掲載できていないものもまだまだあります。新規図の公開と既掲載図の改訂を並行して行い、今後も栄一の情報を求める利用者のご期待にお応えできるよう、より一層充実したリソース作りを進めてまいります。
・渋沢栄一関連会社名・団体名変遷図
https://eiichi.shibusawa.or.jp/namechangecharts/
いつでもだれでも登録不要、無料でご利用いただけます。
※本記事は『青淵』2025年8月号に掲載した記事をウェブサイト版として加筆・再構築したものです。