情報資源センターだより

77 アーカイブズの管理と活用:公益に寄与する企業文化を創出・強化する

『青淵』No.887 2023年2月号|情報資源センター 企業史料プロジェクト担当 松崎裕子

情報資源センター企業史料プロジェクトが2022年度に参加協力した二つのイベントについてご紹介します。

1. 専門図書館協議会 全国研究集会
  第3分科会「"活用"を通して組織アーカイブズの価値を探る」

 専門図書館とは、主として、組織の業務実施の支援機能を果たし、組織の構成員に対するサービスを任務とする図書館で、アーカイブズとしての役割を担うこともあります。このような性格を持つ図書館などのネットワークである専門図書館協議会が専門図書館・図書館員の質の向上のため行なっている事業のひとつに「全国研究集会」があります。7月20日に開催された2022年度全国研究集会では、センター長と企業史料プロジェクト担当が、第3分科会「"活用"を通して組織アーカイブズの価値を探る」の総論にあたる講演を担当しました。

 まず「総論1」で情報資源センターのアーカイブズ関連事業である企業史料プロジェクトを紹介し、それに続く「総論2」では、「古いもののコレクション」と誤解されがちであった「アーカイブ(ズ)」の本来の意味をレクチャーしました。そしてアーカイブズの「活用」は、記録の作成に始まる一連の流れの最後の段階に位置することから、アーカイブズの十全な「活用」を目指すならば、「活用」に至るまでの前段の準備・管理が肝要であることを、「前段なくして"活用"なし」という表現で強調しました。

 さらに、過去30年ほどの間に展開した企業におけるグローバル化とデジタル化のなかで、海外投資家による上場企業の株式保有比率の上昇、非財務情報を取り込んだ統合報告書を発行する企業数の増加、あるいはコロナ禍突入までのM&A件数および金額の増加、といったトレンドを背景に、アーカイブズによって代々継承されてきた、失敗史を含むヘリテージの役割、利用・活用の機会が増大している点を指摘しました。例えば、社内的には、組織アーカイブズは、組織を構成する人々が「われわれは何者か」「(われわれ)らしさ」といったアイデンティティを明らかにし、組織の存在意義(パーパス)を識別するための重要な手がかりを提供するものと認識されるようになってきたこと。別な言葉で言うと、インターナル・ブランディングのためのツールと位置付けられるようになってきたことが挙げられます。また対外的には、組織アーカイブズを用いた情報発信が、企業広報、さらに情報開示・透明性拡大を通じた組織ガバナンスの強化に貢献する点を指摘しました。

2. 企業史料協議会 第11回ビジネスアーカイブズの日
  シンポジウム パネルディスカッション「経営にとっての組織アーカイブズの価値と存在意義」

 もう一つのイベント協力は、11月10日に開催された企業史料協議会主催「ビジネスアーカイブズの日」シンポジウムのパネルディスカッションでのモデレータ役です。企業史料協議会は、1981年に経営史研究者、専門図書館関係者、財界の協力により、企業史料の社会的・歴史的価値の重要性を認識し、会員相互の交流を図るとともに、企業史料の収集・保存・管理についての調査研究を行い、その水準向上に資することを目的として設立された団体です。11回目を迎えた2022年の「ビジネスアーカイブズの日」の総合テーマは「企業アーカイブズの価値再発見」でした。パネルディスカッションでは、基調講演「変革期にこそアーカイブズを-組織を強くするための自己検証と社会発信」を行われた自由学園資料室主任研究員の村上民氏、株式会社資生堂アート&ヘリテージマネジメント部の小泉智佐子氏、富士通株式会社総務本部総務部アーカイブズグループの笠原正子氏の3人のパネリストと、シンポジウム冒頭で特別講演「DX時代に企業アーカイブズを経営層にどう売り込むのか」を行われた山﨑久道氏(博士[情報科学]東北大学)にご登壇いただき、「経営にとっての組織アーカイブズの価値と存在意義」をテーマに、企業と私立学校のアーカイブズの現場における最新の取り組みと知見が共有されました。

 筆者からは、専門図書館協議会での講演とは別の角度から、企業アーカイブズの活用に関わる話題を二つ提供しました。一つは新入社員として新たに組織に加わる人々がデジタル・ネイティブ世代となりつつある点、もう一つはデジタル技術の発展とデジタルを用いた情報の流れの拡大・多元化という変化です。リーマンショックが起こった2008年は、iPhoneが日本で発売開始されるとともに、Twitter、FacebookといったSNSの国内サービスの提供が始まった年でもありました。双方向的な情報の流れを利用することによって、組織の文化、歴史、価値観は、組織の構成員一人一人に働きかける方法で共有されるようになりつつあります。「アーカイブズを通じて社員一人一人が新しい価値を生み出す」(小泉氏)、「自分の興味でたどれる年表づくり」(笠原氏)は、アーカイブズの今日的な経営貢献のあり方を示しています。歴史を通じて証明されてきた組織(企業、学校)の存在意義・価値は、アーカイブズを介して、一人一人をエンパワメント(力づけ)し、新たな価値の創造をサポートし、さらにその実践がアーカイブされていく...。このような知識の循環のあり方は、一人一人を大切にする組織文化の形成にもつながるもので、組織の「強さ」を下支えするとともに、渋沢栄一が重視した「人材育成」に貢献するものと言っても過言ではありません。

 以上、二つのイベントが「組織における記録・アーカイブズの管理と活用は、公益に寄与する企業文化の創出・強化につながる」という理解を広め、アーカイブズに関わる実際の取り組みへの助けとなったならば幸いです。


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