情報資源センターだより

60 情報資源の公開と活用 ~よりよい相互関係を築くために~

『青淵』No.836 2018年11月号|情報資源センター 専門司書 井上さやか

 情報資源センターは、(1)社史プロジェクト、(2)実業史錦絵プロジェクト、(3)「渋沢関連情報資源の開発」を柱として、「渋沢栄一」「実業史」に関する情報資源の開発・公開に取り組んでいます。レファレンス対応など利用者サービスを提供することは、重要な役割の一つなのですが、当センターには閲覧室がありません。それに代わる方法としてインターネットを通じてデジタル情報資源を公開しています。

 当センターでは、これまでも図書館やアーカイブズ関連分野を中心とした、国内外の様々な学会や団体が主催する大会などに参加し、前掲の取り組みについて紹介してきました。これは、当センターが公開する情報資源の活用促進のためだけではなく、開発・公開に役立つ情報を収集し、進化し続けるデジタル社会で必要とされる「情報資源のあり方」とはなにかを検討していくことを目的としています。

 今回は、当センターが2018年の秋に行う/行った活動について紹介します。(2018年9月末日時点での情報です)

1. 公開中の情報資源 活用促進のための取り組み

第29回 EAJRS(日本資料専門家欧州協会)カンファレンス 2018年9月12日~15日、カウナス(リトアニア)/ヴィータウタス・マグヌス大学
http://www.eajrs.net/

 EAJRSは、欧州において日本資料に携わる司書・学芸員・研究者などの専門家が参加する団体で、毎年、研究発表や情報交換を行う年次大会を開催します。当センターは、2004年よりこの大会にほぼ毎回参加し、事例発表等で財団の活動を紹介しています。本年はリソース・プロバイダー・ワークショップにおいて、欧州では初めて「デジタル版『実験論語処世談』」を紹介いたしました。ワークショップでは、実際のデジタル情報資源(コンテンツ)をご覧いただきながら、参加者からのフィードバックもいただきました。

第3回 東アジア日本研究者協議会国際研究大会 2018年10月26日~28日、京都/国際日本文化研究センターおよび京都リサーチパーク
http://eacjs.rspace.nichibun.ac.jp/

 本協議会は「東アジア各国・地域を拠点とする日本研究者が集う国際的な学術交流組織」です。研究大会では、超領域的な人文・社会科学分野の日本研究について、数々の発表が行われます。当センターは展示コーナーにおいて、「渋沢栄一」を中心とした情報資源群とその活用の可能性をポスターで紹介します。本大会への参加が、当財団の事業を紹介する良い機会となるだけではなく、東アジアの中の日本という観点から、渋沢栄一がどのように捉えられ研究されているかに関しての情報収集の場となることも期待しています。

第20回 図書館総合展 2018年10月30日~11月1日、神奈川/パシフィコ横浜
https://www.libraryfair.jp/

 図書館総合展は、その名の通り「図書館、読書・出版、学術情報、資料保存・保管等に関する総合展示会」です。図書・情報分野に関係するフォーラムや出展ブースを目的に、毎年のべ約3万人の来場者があります。当センターでは、2015年にNPO法人連想出版とフォーラムを共催し、情報資源とその活用技術が組み合うことにより、初めて可能となったデジタル情報資源の公開・流通について議論しました。本年はポスターセッションにおいて、渋沢栄一関連会社を中心とした社史のレファレンスツールである「渋沢社史データベース(略称:SSD)」を取り上げ、その利活用について紹介する予定です。「東京オリンピック」などの意外なキーワードから、社史に収載される企業活動の一面を読み解きます。

2. 情報資源の開発・公開のための取り組み

TEI(Text Encoding Initiative)2018カンファレンス 2018年9月9日~13日、東京/一橋講堂
https://tei2018.dhii.asia/

 当センターでは、発信する情報資源の信頼性を上げ、より長く・より活用しやすくすることを目的に、テキスト(文章)の公開には「TEI (Text Encoding Initiative)」という国際的な枠組みを取り入れることを計画しています。これは、当財団のデジタル・キュレーター金甫榮の協力のもと、若手歴史研究者の学際コミュニティであるToDH (Tokyo Digital History)とのコラボレーションによる取り組みです。

 本カンファレンスは、TEIガイドラインを策定する国際的なコンソーシアムが主催する年次大会で、日本では初の開催となりました。日本におけるTEIを活用したデジタル資源の普及促進というテーマでToDHが主催したパネル・セッションにおいて、金甫榮が、「実業史錦絵絵引」「デジタル版『実験論語処世談』」を事例に、日本におけるTEIベースのデジタル情報資源構築の問題点や活用の可能性について発表しました。

政治経済学・経済史学会2018年度秋季学術大会 2018年10月20日~21日、東京/一橋大学
http://seikeisi.ssoj.info/program_2018.pdf

 パネル・ディスカッション「情報技術の活用と研究基盤の拡充による新たな日本経済史研究の可能性」で、当センター長の茂原暢が、「デジタル版『実験論語処世談』」のTEI化とデジタル情報資源提供側の課題について発表します。政治・経済史の研究者の集まりである学会において、「情報技術を利用した研究手法」や「情報資源を提供する側」というテーマを掲げた発表は特異であるかもしれません。当センターの前身である実業史研究情報センターが発足した2003年に比べると、社会におけるデジタル化の進展はすさまじく、いまやデジタル技術やインターネットは生活や研究活動に欠かせないものとなっています。本テーマは、今後の研究を見据えてのものと期待しています。

 情報資源センターでは、情報資源の開発と公開について様々な面から検討し、より多くの方々に情報資源を活用していただけるよう、取り組みを続けています。ご意見ご要望など、お寄せいただけると幸いに存じます。


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