情報資源センターだより

59 新任の挨拶に代えて

『青淵』No.833 2018年8月号|情報資源センター 専門司書 若狭正俊

 情報資源センターの若狭正俊と申します。昨年8月に専門司書として採用されてから、間もなく1年が経過します。遅きに失した感は否めませんが、新任の挨拶に代えまして、現在私の担当している業務、「社史プロジェクト」の中の2つのコンテンツについて、ご紹介したいと思います。

 情報資源センターは、渋沢栄一の嫡孫である渋沢敬三による「日本実業史博物館」構想の現代的実現を目的として設立されました。「日本実業史博物館」は、渋沢栄一を記念する博物館で、栄一の生きた時代の社会経済を展望するための「近世経済史展観室」、栄一の生涯と事績を展示する「青淵翁記念室」、同時代の経済人たちを展示する「肖像室」の3部門から成る構想でした。残念ながら、この構想は戦争の影響で実現することはありませんでしたが、この構想を現代の技術によって、現実のものにすることが情報資源センターの事業の柱となっています。「社史プロジェクト」は、その中の「近世経済史展観室」の重要な部分を担っています。

 「社史プロジェクト」は、会社の歴史を記した出版物である「社史」および「社史」を編纂するための原史料にもなる企業の記録史料「ビジネス・アーカイブズ」の領域に焦点を当てたプロジェクトです。私はこのプロジェクトのうち、「渋沢社史データベース」と「渋沢栄一関連会社名・団体名変遷図」というコンテンツを主に担当しております。今まで触れられることが少なく、埋もれていた会社の歴史や経済・社会背景、さらには生涯約500の会社だけでなく、約600の社会公共事業に関わったとされる渋沢栄一の事績について情報資源を発掘し、研究の支援を行うことが、この2つのコンテンツの目的です。

 「渋沢社史データベース」(以下、SSD)は、情報資源センターの前身である実業史研究情報センターを2003年11月に設立して間もなくスタートした「社史索引データベース」構想を起源とし、10年の歳月を経て2014年4月23日に公開しました。渋沢栄一の関係した会社の社史を中心に、2018年3月現在で1,576冊、約243万件のデータを搭載するデータベースとなっています。利用者数も年々増え続けており、日本のみならず世界各地からアクセスがあります。

 SSDの最大の特徴は、社史単体の情報を知ることができるだけでなく、複数の社史に掲載されている情報資源を横断的に検索、比較できることです。例えば「渋沢栄一」をキーワードとして検索すると、現在搭載している社史のうち、年表で519件、索引で100件確認できます。この検索結果から関連した事柄について、一目で情報を俯瞰し、より多くの社史の情報にたどり着くことができるようになります。

 「渋沢栄一関連会社名・団体名変遷図」(以下、「変遷図」)は、渋沢栄一の関わった会社と社会公共事業が、時代とともにどのように変化し現在に至っているのかを名称の変遷によって示したコンテンツです。こちらには「実業・経済」として121図、「社会公共事業」として24図、合計145図の変遷図を掲載しています。「変遷図」はSSD構築の過程で、渋沢栄一の関わった会社がどれだけあるのか、現在どの会社につながっているのかを追跡調査し、その変遷を把握するために作成されました。当初は「実業・経済」の分野のみでしたが、その後、渋沢栄一の携わった「社会公共事業」の分野へも範囲を拡大し、SSDの補助コンテンツからひとつのレファレンスツールとして利用できるまでに成長しつつあります。2017年12月から2018年1月に行われた「証券市場の歴史展(東京証券取引所)」においては、変遷図のデータから抽出した会社名・団体名の情報を提供しました。「社会公共事業」については、2017年8月に第1弾を掲載したところでまだ十分とはいえませんが、今後情報を調査のうえ追加していく予定です。

 また国際化を視野に入れたデータベースの構築と情報発信にも努めています。SSDではこれまで英文のサポートページやユーザーガイドの制作を行いました。一方でアジア研究の国際会議であるAAS(アジア学会)やヨーロッパにおける日本資料の研究グループであるEAJRS(日本資料専門家欧州協会)で成果の発表も行っています。

 さて、ここまでSSDと「変遷図」という2つのコンテンツについてご紹介してきました。どちらも公開、利用を開始してからしばらく年月が経ちますが、コンテンツの開発は継続しています。生きた情報資源を発信し続けるためには、継続的な更新が欠かせません。定期的にデータの追加や改訂を行い、ユーザーの方々の役に立つ情報資源となるように改善を進めています。なお、コンテンツは無料で誰でもご利用いただけます。ぜひお使いいただき、ご意見、ご感想を頂けますと幸いです。

 社史を制作する目的には、経営者や社員に創業者の理念を残し伝えていくことがあげられます。また社史に記録された会社の歴史は、現在に至る自分たちの存在を確認し、今の仕事に役立てることもできます。また、社外に対しては会社のPRにもなります。翻って言えば、社史に書けないことはしないという戒めにもなるのではと思います。今後の「社史プロジェクト」では、情報資源の提供とともに、企業史資料の現在と未来に向けての必要性について訴えるような活動も増えていくと私は考えています。

 経験が浅く、未熟な面も多々ありますが、これから皆様のお役に立てるよう精進してまいる所存です。どうぞよろしくお願い申し上げます。

【参考文献】
 渋沢栄一記念財団編『渋沢栄一記念財団の挑戦』(不二出版、2015年)
 村橋勝子『社史の研究』(ダイヤモンド社、2002年)

渋沢社史データベース
https://shashi.shibusawa.or.jp/
渋沢栄一関連会社名・団体名変遷図
https://www.shibusawa.or.jp/eiichi/companyname/index.html


一覧へ戻る