情報資源センターだより

46 実業史研究情報センターから情報資源センターへ

『青淵』No.794 2015年5月号|主幹(情報資源) 小出いずみ

 2003年10月の当財団理事会で承認され、三番目の事業部として発足した実業史研究情報センター。この4月、総務部と事業部の二部体制とする財団の組織改編により、事業部の中の一部署「情報資源センター」となりました。ここで実業史研究情報センターの10年余を振り返り、その到達点を確認するとともに次のステージの課題と期待について記しておきたいと思います。

実業史研究情報センターの到達点

 実業史研究情報センターは、竜門社の事業であった、渋沢敬三による「青淵翁記念日本実業史博物館」構想を現代的に実現する、という使命のもとに設置されました。事業計画を立てるにあたって敬三の目指したものについて概念整理をおこなうと、(1)時代背景・社会的文脈の中に渋沢栄一をおき、(2)栄一研究に対する資料的基盤の提供を志向していたことがわかりました。実業史博物館のために収集した資料は国文学研究資料館に寄贈されてしまったので、現代的実現の観点から、「情報資源(文化資源)」を作り出すことによって構想を実現することになりました。

財団初の統合ウェブサイト(2004年)
財団初の統合ウェブサイト(2004年)

 最初の仕事はウェブサイトの改良で、それまでバラバラだったアドレスを整理し、統合された財団全体のサイトは洗練されたデザインに統一されました。ウェブサイトは情報資源を提供する窓口として業務の中に位置づけられ、運用についても分担が決まりました。

 センターの業務は、実業史の代表的な資料である社史、実業史博物館構想で特徴的な資料だった錦絵、そして情報化が必要な渋沢栄一関係資料に照準を合わせることになりました。

 社史関係の領域での成果は、まず、「渋沢栄一関連会社社名変遷図」の作成が挙げられます。これにより、栄一関連の会社が現在にどうつながるかがわかり、栄一に何らかの形で関係がある会社のおよその範囲が初めて明らかになりました。「渋沢社史データベース」公開により、社史の有効活用が可能になりました。そして何より、企業アーカイブズは栄一の道徳経済合一説に沿うものであり、企業の社会貢献の一手段たりうることが明らかになりました。さらに、海外の企業アーカイブズの事例を日本に広めることができ、企業史料の国際ネットワークを構築しました。

 錦絵を巡る成果としては、「実業史錦絵絵引」の制作を通して実業史錦絵の資料的価値を再評価でき、また他の博物館などでも利用可能な絵引システムを共同開発したことが挙げられます。

 『渋沢栄一伝記資料』のデジタル化を進め、活用の利便性を格段に向上させました。これは財団内部では調べものの基軸となっています。また目次(綱文)を中心に、「事業一覧」「詳細年譜」「ゆかりの地」、また「渡米実業団」など、「調べ型」と「展示型」の栄一関連情報源を開発してインターネット上に提供し、いつでも世界中どこからでも利用できる情報資源を飛躍的に増加させました。

 その他の代表的な成果として、海外の日本資料利用者とのネットワークを構築し、視野を国際的に広げたこと、書庫所蔵資料の目録データベースを完成させたことにより、日常業務が円滑化されたことなどが挙げられます。2009年には絵引に対する「グッドデザイン賞」とセンターの活動に関する「Library of the Year優秀賞」を受賞しました。この間の歩みについては、この夏刊行予定の財団史『渋沢栄一記念財団の挑戦』(不二出版)をご参照ください。

情報資源センターの課題と期待

 そしてこの春、実業史研究情報センターは、情報資源センターとなりました。渋沢栄一の事績を顕彰し思想を広める財団の事業にとって「情報資源化」は重要なカギとなることが改めて確認された結果といえます。これまで閉じ込められていた資料・情報を、利用出来る資源として一般に提供していくことによって、財団自体が新たな文化機関へと脱皮していくことでしょう。その変化の要を担う部署として、これからも様々な活動を展開していく計画です。

 2015年度には、これまで積み上げて作られた栄一に関する情報源を再編し、新たに、使い易い「渋沢栄一情報プラットフォーム」の構築に着手します。そこで『伝記資料』の全文が公開されます。著作権保護期間が満了した資料から掲載していきます。誰でも、どこにいても『伝記資料』を紐解くことができるようになります。『伝記資料』の綱文の英訳も進められており、やがてはウェブ上で栄一に関する信頼性の高い英文情報資源となります。そして栄一が関連した会社をはじめとする企業が、史料をどのように活用しているかを国内外で紹介します。

 バトンは新しいリーダーに渡されました。情報資源センターは、渋沢敬三のビジョンに導かれ、渋沢栄一の事績と思想を現代に生かすための素材を作り続けていきます。

*今も「インターネットアーカイブ」で保存されており、見ることができます。
http://web.archive.org/web/20040518190523/https://www.shibusawa.or.jp/

(主幹(情報資源) 小出いずみ)


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