情報資源センターだより

21 アーカイブズ・カレッジに参加して

『青淵』No.719 2009年2月号掲載|実業史研究情報センター 専門司書 門倉百合子

アーカイブズ・カレッジとは

 昨2008年11月に国文学研究資料館主催のアーカイブズ・カレッジ短期コースに参加しました。「アーカイブズ」とは「記録史料」そのものを表す場合と、「記録史料を保存・整理し閲覧に供する施設・システム」を表す場合があります。この「アーカイブズ」を現代と未来の社会に活かし続けていくための、理論と実務を学ぶのがアーカイブズ・カレッジです。この研修会は1952年に開始された「近世史料取扱講習会」を引き継ぎ、2002年度から名称を改めて行われているもので、毎年長期コース(8週間)と短期コース(2週間)が開催されています。今年度の短期コースは滋賀大学彦根キャンパスで開催され、全国から37人が参加しました。因みに昨年度は山口で、来年度は佐賀で開催とのことです。
 カリキュラムは、アーカイブズの歴史と現代の役割を学ぶ「アーカイブズ総論」、アーカイブズの本質を理解する「アーカイブズ論」、収集から利用までの科学的なシステムを考える「アーカイブズ管理論」、実務や見学を交えて学ぶ「アーカイブズ管理の実際」の4つの体系、12の講義から成り立っています。それぞれ国文学研究資料館と開催地滋賀大学経済学部の先生方、また京都府立総合資料館や奈良の元興寺文化財研究所の方々が講義を担当され、いずれも極めて密度の濃いお話をうかがうことができました。なお短期コースの講義は1週間で、あとの1週間は各自が修了論文をまとめる期間となっています。

近現代史料について

 日本の「記録史料」には近世(江戸時代)以前のいわゆる「古文書」はもちろん含まれますが、明治以降の近現代史料は日々生産されている「記録史料」です。渋沢栄一が活躍したのはまさにこの時代にあたり、その資料(史料)を私たちは毎日扱っています。それらの近現代史料を未来の人たちがきちんと利用できるように「残し伝える」ことが、現代に生きる私たちの使命であります。「アーカイブズ総論」では「なぜ残し伝えるか」という意義に関して、「現代では"アカウンタビリティー(拳証説明責任)の情報資源"、"人権を守る証拠資源"の宝庫としての文書館機能が重要視されている」と力強く語られました。
 近世以前は文書を書き残すのはごく限られた範囲の人たちでしたが、近代以降は教育の普及、印刷技術の発展などから、一般の人たちが大量の文書を書き残すようになりました。また現代では電子文書がまたたくまに普及し、媒体の寿命に関する知識や読み取り機器の保存など、紙の文書とは異なった側面にも配慮が必要になっています。そして大量に発生した文書を早く利用に供するために、概要をとらえた仮目録をまず作成し公開することが大切、と強調されました。こうした時代の変化に応じて、カレッジのカリキュラムも年々改訂されているそうです。

「菅浦文書」と笛吹市春日居郷土館:地域共同体の記憶

 会場の滋賀大学には、経済学部付属史料館があり、滋賀県下の歴史資料を収集しています。その中の「菅浦文書」が書庫内の金庫に納められていました。菅浦は琵琶湖北端の集落で、中世から自治共同体である惣が形成され、隣村の大浦との紛争記録をはじめとする様々な文書が作成されていました。住民の自治の歴史を記し受け継がれた文書は国の重要文化財に指定されています。そしてなんと「菅浦では現在でも若者が成人すると、村の長老に連れられてこの文書を見に来るので、その際に金庫を開き風を通します」との説明に驚きました。
 「アーカイブズの公開と普及活動」の講義で紹介された山梨県笛吹市春日居郷土館では、毎年8月から9月にかけて「わが町の八月十五日展」と題した企画展示が行われています。これは笛吹市出身の1,000人以上の戦没者の遺影と遺品を並べるもので、次世代に平和の大切さを伝える強烈なメッセージとなっています。「菅浦文書」もこの郷土館も、まさに現在に伝わる記録史料=アーカイブズを通して地域共同体の記憶を現代に伝え、未来へ活かす活動となっているのがよくわかりました。

受講を終えて

 滋賀大学の先生方からは、近江商人に関する史料や、戦前の彦根高等商業学校のアジア修学旅行に関する興味深いお話をうかがうことができました。私は日常、社史のデータベース構築に携わっておりますので、日本の商工業がこれまでにどのような発展過程をたどったか、またそれを支える教育制度がどのように発達したのか、いくらでも知りたいことがあります。その意味でも実り多いカレッジ参加でありました。
 また実業史研究情報センターの職員はこれで全員がこのアーカイブズ・カレッジを受講したことになり、共通の知識基盤にのっとった事業を推進することが可能になりました。財団内の図書・資料をどのような観点から次代へ伝えていくか、今後の方針策定にこのカレッジ受講が必ずや大きな役割を果たすことと思います。

(実業史研究情報センター 門倉百合子)


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