情報資源センターだより

18 5年目を迎えた実業史研究情報センター

『青淵』No.710 2008年5月号掲載|実業史研究情報センター長 小出いずみ

 2003年11月に設置された実業史研究情報センターは、2008年で活動開始から5年目を迎えています。渋沢敬三のアイデアをもとに、竜門社の事業として開始された「青淵翁記念日本実業史博物館」の構想は、資料蒐集、飛鳥山における博物館建物の地鎮祭などの後に、戦争により中断し、結局未完に終わりました。展示ケースまでを含む残された資料は、戦後、国に寄贈され、この春立川に移転した、大学共同利用機関法人人間文化研究機構国文学研究資料館で大切に保存されています。未完に終わったこの構想の意図したところ、すなわち栄一の活動を本人のみに注目するのではなく時代背景となった実業史の文脈においてみることが出来るようにする、という目的を実現する使命を与えられて、実業史研究情報センターは出発しました。
 とはいうものの、栄一の日記を始め、栄一や実業史に関する文書、書籍、錦絵や写真、各種道具類などの膨大な資料は、すべて国文学研究資料館にあり、同じものを今から集めることはできません。そこで、渋沢敬三の方法論に倣い、資料の情報資源化という手法を用いることを軸にすえて、この構想の意図を実現することにしました。資料を集約してデータ化し、利用しやすい形にして提供することを目標に、事業を展開しています。
 以下に、設立から5年目を迎えた今年度の重点目標をご紹介します。

渋沢栄一関連会社社名変遷図

 渋沢栄一は500に上る企業の設立に関係した、と言われていますが、それらの会社がどうなったのか、今のどの会社につながるかについて、確認するのは容易ではありません。合併や社名変更によって会社の名称は時代に沿って変わっていきますが、社名の変遷がわからなければ、現在のある会社、あるいはある時期のある会社が渋沢に関係するのかどうか、判断できません。そこでセンターでは、『渋沢栄一伝記資料』に掲載されている会社について各社の有価証券報告書や社史などに基づき、合併などにより社名がどのように変遷したかを調査してきました。その結果を業種ごとの社名変遷図としてまとめ、ウェブ上に掲載を開始しました。昨年度末には8業種9図を掲載しましたが、今年度は残りの業種について順次掲載していきます。この図では、いつからいつまでその社名が使われたか、その社名がどのように変わったか、ということがわかり、現存している会社にもつながっています。個々の会社の詳細については、まだ調査が行き届いていませんので、今後の課題です。変遷図は、『青淵』読者の皆様にもご覧いただけるように、少しずつ連載していく予定です。

デジタル伝記資料データベース

 『渋沢栄一伝記資料』をデータベース化する作業は、着々と進んでいます。今年度は、固有名データ集作成に着手します。これは、伝記資料の中で使われている固有名のうち、同じものを示す異なる語をまとめる機能を開発するための基礎データとなるものです。例えば、栄一、青淵、篤太夫は同一人物を指しますので、「渋沢栄一」という検索語を指定すると、「『篤太夫』も検索しますか?」「『青淵』も検索しますか?」と聞いてくるようなアシスタント・システム、あるいは、数多く含まれている、外国人名のカタカナ表記のゆれなどについて、効率的な検索ができるような仕組みを作るために必要なデータ集です。このようなデータ集を補助的に使うことによって、あの膨大な伝記資料の中を自由に検索することが可能になります。

実業史錦絵 絵引

 実業史博物館構想で蒐集された幕末から明治にかけての錦絵は、当時の様子を映し出しています。実業史を描いた錦絵の絵引きを作成しようという計画は、遅れていましたが、漸く今年度デジタル・コンテンツとしての制作が実現します。情報学の研究者も関心を示しているので、思いがけない発展も期待されます。

情報発信の強化

 今年の2月から、メールマガジンブログによる情報発信を始めました。週5日発信するブログでは、「今日の栄一」というコラムを設け、その日に栄一が何をしていたかを伝記資料の中から選んでお伝えし、「今日の社史年表」というコラムでは、さまざまな社史に含まれている年表からその日にあった出来事を取り上げています。本誌『青淵』でも「今月の栄一」「今月の社史年表」というような連載ができないか、編集と相談しているところです。
 また、よく寄せられる栄一についての質問と回答を、「渋沢栄一Q&A」としてウェブページに掲載しました。今後も質問数を増やして充実を図っていく予定です。

(実業史研究情報センター長 小出いずみ)


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