情報資源センターだより

17 海外での日本資料調査の体験 ― パリ日本文化会館とBnF

『青淵』No.707 2008年2月号掲載|実業史研究情報センター 専門司書 山田仁美

 昨年9月、『渋沢栄一伝記資料』デジタル化プロジェクトの報告でEAJRS(日本資料専門家欧州協会)1) ローマ大会に参加、その帰路パリに立ち寄って、海外における日本資料提供の現場を見学し、利用してきました。

パリの中の日本、パリ日本文化会館へ

 訪れた施設の一つはパリ日本文化会館2) でした。同館は日仏両政府が日本の民間企業の協力を得て1997年に開館、日仏文化交流の拠点として国際交流基金によって運営されています。地上6階地下5階の会館は総ガラス張りの目を引く建物で、その4階が図書館となっています。蔵書数は約2万点、書棚には各分野の代表的な書籍が厳選され、映像資料も『プロジェクトX』から平田オリザの作品まで、幅広い分野のものが所狭しと並んでいました。特に壮観だったのは朝日新聞の縮刷版です。明治21年の創刊号から現在までほぼ全て揃っているとのこと。これだけまとまって所蔵している館は少ないらしく、わざわざ外国からこの縮刷版コレクションを調べに来る人もいるそうです。パリの中の日本として、蔵書構成、館内サービス、さまざまな面で利用者のニーズに丁寧に応えている印象でした。
 案内をしてくださった首席司書の杉田千里さんは、特にデジタル資料について「海外では環境設定や対応バージョンの問題もあり、CD-ROM版の日本語資料の扱いは難しい。紙資料の方が確実に利用できるので新聞はCD-ROMではなく冊子の縮刷版を選択した。」と現状を話してくださいました。デジタル化作業に携わる私にとって、このような海外での利用現場の生の声が伺えたのはとても有難いことでした。

『航西日記』に掲載された新聞を求めて

 もう一つの訪問先はフランス国立図書館(通称BnF=ベーエヌエフ)3)でした。
 渋沢栄一は1867年のパリ万博で徳川昭武の随員としてフランスを訪れ、1年あまりをパリで暮らし、当時の体験を『航西日記』4)に著しています。ここには140年前に栄一らが遭遇した事物が仔細に観察・記述され、更に率直な感想も述べられていて、読み物としても大変興味深いものです。『航西日記』原本は国立国会図書館の近代デジタルライブラリーで画像が公開5)されていますが、今回のBnF訪問の目的は、その本文中に翻訳が掲載されていた新聞記事の本紙コピーを手に入れることでした。

フランスの知の集積、BnF

 BnFはデジタル化が進んでいることでも有名な世界有数の図書館です。同館所蔵の新聞の中にはオンラインで画像が公開されているものもあり、例えば19世紀の『フィガロ』もインターネット経由で世界中のどこからでも読むこともできます。その他、デジタル公開されていない新聞でもオンラインで記事コピー郵送の申し込みができるなど、BnFのウェブサイトには、遠隔地からでも情報が入手できるようさまざまなサービスが用意されていました。
 目的の新聞は残念ながらオンラインで入手できないものでしたので、現地でマイクロフィルムを調べることにしました。BnFウェブサイトにはAsk a librarian (SINDBAD)という問い合わせ画面があり、メールで質問を送信すると数日の内に回答メールが返送されてきます。現地で調査をするにあたり、このSINDBADに相談し、アドバイスを頂きました。何よりも不安だった言葉の問題についても、フランス語はもとより英語も不得手である旨をメールに書き添えたところ、即座に「日本語ができるスタッフのサポートが得られるよう手配をした」との返信をいただきました。現地では、そのスタッフの手厚いガイドとフランス語翻訳ソフトを仕込んだノートパソコンの助けを借りて、無事目的の新聞コピーを入手することができました。

渋沢情報ハブの構築を目指して

 パリ日本文化会館図書館やBnFは、国や言語を越えて情報への道筋を提供してくれています。また国立国会図書館の近代デジタルライブラリーは時代を超えて明治・大正時代の書籍の利用を容易にしてくれています。
 このように世界中で公開・提供される情報を活用しながら、実業史研究情報センターでは渋沢栄一情報を網羅的に収集・蓄積しつつあります。渋沢関連情報であれば、先にあげた『航西日記』の中に引用された記事、その原典までも確認できるようにする、そんな情報ハブ6)の構築もセンターの目標の一つです。

1)EAJRS(European Association of Japanese Resource Specialists日本資料専門家欧州協会)
http://japanesestudies.arts.kuleuven.be/eajrs/about_eajrs/eajrs_background
『青淵』第695号2007年2月号「実業史センターだより」もご参照ください。
http://www.shibusawa.or.jp/center/newsletter/695.html

2)パリ日本文化会館(Maison de la culture du Japon à Paris)
http://www.jpf.go.jp/mcjp/

3)フランス国立図書館(Bibliothèque nationale de France)
http://www.bnf.fr/

4)『航西日記』全6巻/青淵漁夫(渋沢栄一)、靄山樵者(杉浦靄人)共著 耐寒同社. 1871(明治4)

5)国立国会図書館近代デジタルライブラリーでは同館所蔵の明治大正期刊行図書の目次や本文デジタル画像が公開されている。『航西日記』は全6巻中の1、2巻が見られる。
http://kindai.ndl.go.jp/ (以上URLは全て2008年1月25日閲覧)

6)情報ハブ:ハブ(hub)とは車輪の中央部。情報ハブは情報の集積点の意。

(実業史研究情報センター 専門司書 山田仁美)


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