情報資源センターだより

12 IFLA:図書館の国際ネットワーク

『青淵』No.691 2006年11月号掲載|実業史研究情報センター長 小出いずみ

会議の巨大なバナーがかかる主会場
会議の巨大なバナーがかかる主会場
 ソウルで開催された「世界図書館情報会議:国際図書館連盟(IFLA)第72回年次大会」に参加しました。1927年に創立されたIFLAは現在150カ国、1700の会員機関を擁する国際団体で、図書館・情報サービスの水準を高めることを目的とし、世界における図書館・情報・文化関連の活動に重要な役割を果たしています。世界人権宣言第19条に謳われている「すべて人は、意見及び表現の自由に対する権利を有する。この権利は、干渉を受けることなく自己の意見をもつ自由並びにあらゆる手段により、また、国境を越えると否とにかかわりなく、情報及び思想を求め、受け、及び伝える自由を含む。」を基本的な価値として支持し、質の高い図書館・情報サービスは、これを保障するものと位置づけています。ユネスコの関連団体でもあります。

 今回のソウル大会には、140カ国から5,000人近い参加者があり、委員会を含めると本会議では200以上の会合がもたれました。また、開催国の韓国に加え日本や中国でも特色ある7つのプレカンファレンスが開催されました。今回の大会テーマは「図書館:知識・情報社会のダイナミック・エンジン」で、情報技術やデジタル・コミュニケーションが急速に発展する社会にあって、ライブラリアンも図書館学研究者も共に社会の牽引的役割を担っていこう、という主旨で設定されました。

 日本からは登録参加者が約150名、プレカンファレンスも含めて34件、40名の発表者がありました。多くの開催国でIFLAは国をあげての行事ですが、とりわけ今回は韓国の威信をかけた国家的行事の色彩が強く出ていました。オリンピックを連想するような大掛かりなショー形式の開会式、組織委員会名誉会長はノ・ムヒョン大統領夫人シン・キナムさん、開会式の基調講演はキム・デジュン前大統領でした。昼間の会議やセッションの後、夜には、歌や踊りのパフォーマンスが繰り広げられた文化大臣主催の晩餐会、ソウル市長主催のレセプション、また、参加者のために特別にセジョン文化会館で催された文化の夕べなど、盛りだくさんのプログラムがありました。

 実業史研究情報センターからは、「21世紀東アジアにおける学術情報」という衛星会議の「学術情報出版トレンド」セッションで、松崎裕子が「東アジアの経済経験を共有する:社史と企業の国際的活動」と題し、センターの社史プロジェクトの成果を含んだペーパー発表を行いました1)。活発な質問があったそうです。また、本会議では、稀覯書・稿本分科会主催のセッション「東洋による西洋、西洋による東洋:文化と技術の交流-古い技術、新技術、稀覯資料を蒐集する、記述する」で、筆者が「西洋化・近代化を描く-19世紀後半の日本の木版画コレクション」と題して、実業史錦絵コレクションの紹介を行いました2)。聴衆は200人近くいたのではないかと思われますが、熱心に聴いていただきました。

 世界各国から集った人々との交流も楽しいものでした。会議場を歩いていると「あなたの発表、面白かった」「渋沢財団の社史プロジェクトの発表、よかったですよ」「世界デジタル・プロジェクトに参加しませんか」「同じようなプロジェクトをやりたいと思っている」などと、発表を聞いてくれた、知っている人知らない人、アメリカの人、ヨーロッパの人、日本の人から声をかけられました。晩餐会のテーブルでは、フィンランドやアフリカからの参加者と一緒になり、話がはずみました。

 IFLAは世界の図書館のネットワークとして、目録の標準化、図書館政策を始めさまざまな課題に取り組んできました。核にすえてきた活動は時代環境によって異なりますが、図書館を通した知識や情報へのアクセスの保障、出版情報の自由な流通、資料保存のための技術開発や普及など、どれをとっても、資料という媒体に載せられている知識と文化を、蓄積し、提供し、未来へつないでいく使命をもつ図書館の活動を支える重要な問題です。これらの活動が、たとえば日本にいて外国の図書館に所蔵されている資料を使うためのインフラ整備や、何十年、何百年の間伝えられてきた資料をさらに後世に残すためのノウハウの共有などに繋がっています。間接的かもしれませんが、世界中の研究者や図書館利用者すべてが恩恵を受けている、と言うことができます。図書館は、市民生活や教育・研究活動を支援する社会基盤ですが、IFLAはその図書館をひっぱるリーダーであり、なおかつ、活動を支える強力な裏方、ということができるでしょう。

1) http://lccn.loc.gov/2008551571 に掲載(英文) (2014年8月30日リンク修正)
2) http://www.ifla.org/IV/ifla72/papers/085-Koide-en.pdf に掲載(英文)

(実業史研究情報センター長 小出いずみ)


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