情報資源センターだより

11 実業史勉強会

『青淵』No.689 2006年8月号掲載|実業史研究情報センター長 小出いずみ

 実業史研究情報センターでは、年に数回、実業史勉強会を開催しています。主として財団の職員始め関係者を対象に、実業史には、どんな広がりがあるのか、どんな可能性があるのか、その研究にはどんなことが必要なのか、とくに実業史に関する資料整備にも目配りをしつつ、お互いに学びあう手がかりにしようと始めました。センターが発足した2003年秋に第1回が行われ、それから数えて、今年の8月までに17回が行われることになります。講師はその時々で財団職員、来日中の研究者や若手研究者、大学で教えている方にもお願いしています。

 今まで勉強会ではどんなことを話題にとりあげてきたか、ページ下に一覧表を掲載しました。これを見ると、「実業史」は様々な切り口で研究されうることが浮かび上がってきます。当財団の使命からいうと、渋沢栄一とその時代や社会的背景は核になるわけですが、経済史、産業史、企業、企業家、社史、近代化、万国博覧会、消費文化、大衆文化、人類学、学術資料、錦絵、実業教育、経済観、など多岐に亘る領域で、その上空間的な広がりから見ても、日本に止まらずアジアや欧米、また国際的な関係にも関連しています。これはそのまま実業史研究の広がりを示唆するもののように思えます。

 『青淵』今月号の記事、ハーバード大学アンドルー・ゴードン教授による「日本の中のアメリカ」(p.22〜p.26ご参照)は、今年3月に行われた勉強会でのお話をまとめたものです。この中には、企業戦略、輸入、販売網、機械化、消費文化、ファッション、家計、女性の経済的自立など、実業史の更なるキーワードが隠れています。また、研究に用いられている資料は、単に営業報告書など従来の経済資料だけでなく、新聞広告や販売促進用のカタログなど、図像資料がモノをいうことも、この記事にはよく表れています。
 渋沢敬三の日本実業史博物館構想では、明治生まれの言葉「実業」に「史」がつけられ、経済的活動である「実業」が歴史的文脈におかれて客観化されました。そのことによって、上に述べたような多面性と豊かさを獲得したともいえるでしょう。実業史勉強会は文字通り、実業史の探検隊です。

回次テーマ講演者開催年月日
1 実業と博覧会―明治期を中心に― 関根仁 2003.10.23
2 銀行図書館における実業史資料 田辺則明 2003.11.27
3 「社史」に見る実業家、創業 村橋勝子 2003.12.16
4 Engineers vs Captains of Industry Richard Dyck 2004.02.04
5 Kao Soap and Japanese Modern Commercial Design Gennifer Weisenfeld 2004.07.01
6 セントルイス万博と日本美術 志邨匠子 2004.08.13
7 大日本物産図会について 小出いずみ 2005.01.12
8 ある米国企業家の軌跡:100年前、朝鮮で 松崎裕子 2005.03.16
9 渋沢栄一の真骨頂 木村昌人 2005.07.15
10 文化人類学から見た「実業史」 楠本和佳子 2005.09.12
11 明治初期の文部省発行教育錦絵について 古屋貴子 2005.10.20
12 ハワイ大学図書館社史コレクション:社史文献の学術利用をめざして バゼル山本登紀子 2005.12.08
13 「一つの提案」について 関根仁、永井美穂、
川上恵
2006.01.26
14 日本近代の中のアメリカ:機械が変える消費と文化 Andrew Gordon 2006.03.30
15 経済人としての渋沢栄一
(1)渋沢を中心とした経営者ネットワーク:龍門社を含めて
島田昌和 2006.05.30
16 経済人としての渋沢栄一
(2)渋沢家の財務分析:渋沢史料館資料を活用して
島田昌和 2006.06.29
17 経済人としての渋沢栄一
(3)渋沢の経済政策構想に基づく経済観
島田昌和 2006.07.26
18 経済人としての渋沢栄一
(4)渋沢の学術認識と『論語』
島田昌和 2006.09.21

(実業史研究情報センター長 小出いずみ)


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