ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第83号(2019年11月9日発行)

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☆      □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆       No.83 (2019年11月9日発行)

☆    発行:公益財団法人 渋沢栄一記念財団 情報資源センター

☆                        〔ISSN:1884-2666〕
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この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズ(BA)に関する情報をお届けします。

海外BAに関わる国内関連情報も適宜掲載しております。

今号は行事情報1件、文献情報1件です。

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◆ 目次 ◆

[掲載事項の凡例とご注意]

■行事情報:ICA/SBA主催 ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム
◎テーマ:「ビジネス・アーカイブズと次のゴールドラッシュ」レポート その1
     基調講演「ゼロに向かってデザインする」
     2019年9月17日
     リーバイ・ストラウス社(米国カリフォルニア州サンフランシスコ)

■文献情報:マイアミ大学図書館特殊コレクション パンアメリカン航空資料

☆★ 編集部より:次号予告 ★☆

・トーマス・クック・グループの破綻と企業アーカイブズ

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[掲載事項の凡例]

・欧文の場合、日本語で読みやすいものになるように、タイトルははじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・人名や固有名詞の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。
・普通名詞として資料室や文書室、物理的な記録資料を表現する際は「アーカイブズ」を用います。固有名詞の場合はこの限りではありません。また物理的およびデジタル記録資料の蓄積や組織化に関しては「アーカイブ」「アーカイブ化」「アーカイビング」などの表現を用いることもあります。

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[ご注意]
・受信時にリンク先を示すURLが途中で改行されてしまう場合があります。通常のURLクリックで表示されない場合にはお手数ですがコピー&ペーストで一行にしたものをブラウザのアドレス・バーに挿入し、リンク先をご覧ください。


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■行事情報:ICA/SBA主催 ビジネス・アーカイブズ国際シンポジウム
◎テーマ:「ビジネス・アーカイブズと次のゴールドラッシュ」レポート その1
     基調講演「ゼロに向かってデザインする」
     2019年9月17日
     リーバイ・ストラウス社(米国カリフォルニア州サンフランシスコ)

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◎ICA/SBA国際シンポジウム「ビジネス・アーカイブズと次のゴールドラッシュ」
基調講演「ゼロに向かってデザインする」
http://archivistconnection.com/icasba2019/index.php/program/

去る2019年9月17-18日にサンフランシスコのリーバイ・ストラウス社本社で開催された今年のICASBA年次会合でのプレゼンテーションの概要をレポートいたします(全3回の予定)。今回は1日目の基調講演についてです。


■9月17日(火)■
ビデオ:
https://levis.brand.live/c/business-archives-the-next-gold-rush-sept-17

基調講演タイトル:ゼロに向かってデザインする
Keynote title: Designing to Zero

講演者/所属等:ポール・ディリンジャー/リーバイ・ストラウス社グローバル・プロダクト・イノベーション ヘッド
Speaker: Paul Dillinger, Levi Strauss & Co. Head of Global Product Innovation

■講演者 ポール:ディリンジャー氏について司会からの紹介〔ビデオ 25:16-26:00〕

ディリンジャー氏はウェアラブル技術開発に関するグーグルとの共同プロジェクト「プロジェクト・ジャカード」にリーバイ・ストラウスのチームのヘッドとして参加しているほか、「アパレル製造業における倫理と持続的消費」に関する各方面との対話に積極的に関与してきた。
https://atap.google.com/jacquard/
https://www.fashion-press.net/news/54221

■「ゼロに向かってデザインする」〔ビデオ 26:00-59:00〕

この基調講演では、まずデザイナーとは「変化を意図的に作り出す」仕事であると断った上で、マリー・アントワネット(1774-1792)とジョゼフィーヌ・ボナパルト(1763-1814)の服装を対比させながら、衣料品の生産・流通・消費はそれぞれの時代における社会的、経済的、文化的、あるいは政治的状況と深く結びついていることを提示する。リーバイ・ストラウスの商品(ブルージーンズをはじめとするカジュアル衣料)は百数十年にわたって消費者から支持されてきており、デザインにおいても過去のデザインを参照することによってリーバイスらしさを保ってきていることを示す。

ただしこれはデザイナーにとってはチャレンジでもある。すでに決まった型となるデザインがあるならば、いったいデザイナーは何をすればよいというのか。さらに、現在の衣料生産は、水不足や児童労働、水質汚染などの社会的問題にもつながっており、廃棄された大量の衣料の後始末が環境や社会に大きな負荷をかけていることは各種の調査からも明らかである。消費者はこういった問題に敏感であり、環境に負荷が少なく、社会的に公正なあり方で生産された商品やブランドを求めている。そこでデザイナーとして取り組むことは、環境や社会に負荷をかけない方法や素材を用いて、リーバイスらしさである外形的デザインや質感をどのように実現するのか、というところにある。

最近の事例として提示されたのが、従来利用していた素材(綿)に比較すると、環境への負荷の面でより望ましい素材であることが判明しつつあるhemp(麻の一種。昨年米国議会で産業用に用いることを認める法案が成立した)を用いた商品の開発、デザインである。プレゼンテーションの最初で述べたように、デザインはその時代時代の社会的、経済的、文化的、あるいは政治的状況、コンテクストの中における営みである。その時代にふさわしいデザインと生産プロセスのイノベーションを生み出すために、リーバイ・ストラウスでは、社会的関心、良心、批判的思考、科学的厳密さ、意思を大切にしていると結んだ。

■質疑応答

プロダクト開発の評価や将来の新しいデザイン・イノベーションの開発のため、デザイナーたちはアーカイブズ、レコードキーピングに対して、何を期待するのか、という趣旨の質問があった。

ディリンジャー氏によると、イノベーションの開発プロセスでは、過去に作られたプロダクト(モノ)が参照できることが必要だが、モノだけではなく製品やイノベーションの開発プロセスに関する記録や、その時代の関連する統計的な数値(物価など)と共にモノを参照できることが必要である。モノとともにそれに関わる情報を記録としてキャプチャし、管理・継承することが、将来プロダクト(モノ)を参照する際に役立つ。

プロジェクト・ジャカードなど最近のイノベーション開発プロセスはとても複雑である。もちろん開発プロセス自体を記録してはいくのだが、もっともユニークな価値を持つ部分は非常にエフェメラルな特徴を持つために記録としてキャプチャするのが難しい。しかしながら、新たな工夫を、大きな産業的な文脈(broader industrial context)の中に位置づけることはとても意味のあることである。

また、リーバイ・ストラウスでは数年前にジーンズを洗濯するのに使う水の量が少なくてすむ製品の開発プロジェクトを行った。そのデザイン・イノベーション・プロジェクトのプロセスに関わる情報は競合他社を含む社外と広く共有され、その価値を発揮している。


[編集部注]

■ポール・ディリンジャー氏についての追加情報

LinkedInで公開されているプロフィールによると、ディリンジャー氏は20年を超えるファッション業界での活躍に先立ち、フルブライト・スカラーとしてイタリア・ミラノのドムス・アカデミーでクリエイティブ・アーツと舞台芸術の研究に携わるなど、幅広い学術、実務経験を持っています。「アパレル製造業における倫理と持続的消費」への関りでは、アスペン・インスティテュート(広い視野をもったリーダー養成活動を進める非営利の研究機関・シンクタンク。1949年設立)のフェローも務めています。
https://www.linkedin.com/in/paul-dillinger-08a70a1b/

http://oslomanifesto.org/paul-dillinger/
*ノルウェーのデザイン・建築センターが立ち上げた、SDGs実現の方向に適ったデザイン実践を宣言する「オスロ・マニフェスト」のウェブサイトに掲載されている、アスペン・インスティテュートでのディリンジャー氏の講演の模様。司会者による紹介では、同氏はファッション・デザイン分野での、フルブライト・スカラー第1号とのことです。

[関連記事]

「Levi'sとOuterknownはデニムに麻を使う方法を知っている」Forbs 2019年3月8日
Levi's And Outerknown Figure Out How To Use Hemp In Denim
https://www.forbes.com/sites/monazhang/2019/03/08/levis-and-outerknown-figure-out-how-to-use-hemp-in-denim/#3014a4b1710d

「マースクとワレニウム・ウィルヘルムセン、海運バイオ代替燃料検討「LEO連合」発足。BMW、H&M等も参画」Sustainable Japan 2019年11月5日
https://sustainablejapan.jp/2019/11/05/leo-coalition/43536 (日本語)
https://www.maersk.com/news/articles/2019/10/29/maersk-join-forces-with-industry-peers-and-customers-to-develop-leo (英語)
*二酸化炭素排出量低減のための燃料LEO開発プロジェクトにリーバイ・ストラウスも参加。


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■文献情報:マイアミ大学図書館特殊コレクション パンアメリカン航空資料

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◎マイアミ大学図書館特殊コレクション「着陸許可取得:パンアメリカン航空会社の記録」
"Cleared to Land: The Records of the Pan American World Airways, Inc. "

最近編集部では英国シェフィールド大学地理学部のシニア・レクチャラー ミゲル・カナイ博士(Dr Juan Miguel Kanai)からパンアメリカン航空の企業資料コレクションについてお話をうかがう機会がありました。この企業資料コレクションについてご紹介します。

◆パンアメリカン航空について◆

パンアメリカン航空は1927年に設立され、競合他社の買収や積極的な海外路線の開拓によって事業を拡大。キューバ路線を運行するなど戦略的な重要性もあり米国政府のバックアップを受け、長らく同国を代表する航空会社、すなわちナショナル・フラッグ・キャリアーというポジションにありました。日本でも「パンナム」の名称で親しまれ、大相撲千秋楽の表彰式での「ヒョー、ショー、ジョー!」という、同社幹部によるパンアメリカン航空賞受賞力士への賞状読み上げの場面は、ある年代以上の人々にとっては懐かしい思い出ではないでしょうか。

同社は、1970年代の石油危機や競合他社との激しい低価格競争、あるいはスコットランド上空における爆破事件など、様々な要因から経営が悪化し、1991年12月4日に破産してしまいました。


◆マイアミ大学図書館 パンアメリカン航空資料コレクションについて◆

現在、同社の経営記録を中心とした企業資料の大部分は、米国マイアミ大学図書館の特殊コレクションの一部です。マイアミはキューバ路線発着地であり、キューバ革命などによって米国に移民したキューバ系住民が人口の3割程度を占めています。マイアミにとってパンアメリカン航空が歴史的に重要な所以です。

同大学図書館へのリサーチ・リクエストの50パーセントはパンアメリカン航空の会社資料に関連しています。("As our most used collection, fifty percent of research requests pertained to Pan Am, yet the collection's only access tool was an unwieldy 938-page folder inventory. ")
https://scholar.library.miami.edu/digital/exhibits/show/panamerican/credits

マイアミ大学図書館のパンアメリカン航空記録資料コレクションの概要
https://atom.library.miami.edu/asm0341

本特殊コレクション紹介ページ
https://merrick.library.miami.edu/specialCollections/asm0341/

図書館のリサーチガイドページでの紹介
https://sp.library.miami.edu/subjects/PanAM

記録の作成年代は1902年から2005年(中心となるのは1937年から1982年)に及び、分量は書架延長で1,500フィート(約457メートル。これは約2,000の写真フォルダを含む)。前述の地理学の研究者がマイアミ大学で教鞭をとっていた10年ほど前は、目録が不完全で利用しづらかったといいます。しかし近年、連邦政府からの助成によって整理とデジタル化が進み、資料へのアクセスが容易になりました。この助成は米国国立公文書館(NARA)の一部門である米国歴史的出版物及び記録委員会(NHPRC)によるもので、米国の民間に所在する資料の整理と公開を促進のために、審査によって必要性が認められた取り組みに支給されるものです。

★米国歴史的出版物及び記録委員会
National Historical Publications and Records Commission: NHPRC
https://www.archives.gov/nhprc

そして、NHPRCの助成を受けた、パンアメリカン航空会社資料の整理とデジタル化によるアクセス向上の成果は「着陸許可取得:パンアメリカン航空会社の記録」"Cleared to Land: The Records of the Pan American World Airways, Inc. "と名付けられ、同大学図書館ウェブサイトから利用できます。
https://scholar.library.miami.edu/digital/exhibits/show/panamerican

同大学はNHPRCから2回の助成を受けました。最初は2012年から2年間で、この間特任アーキビストひとり、15人以上の学生、ボランティア、図書館職員とライブラリアン(専門職)が5,000時間以上をかけて、1,500箱に積められた30,000を超える文書フォルダを整理しました。図書館サイトによるとNHPRCによる助成プロジェクト以前は、とても扱いにくい938ページのフォルダに関する冊子目録があったのみでした。アーカイブズの記録の価値を最大限に引き出すためには、記録が会社内でどのような状況の下で作成されたのかというコンテクストを知る必要があり、これは記録の「原秩序」によって知ることができます。しかし残念なことに、コンテクストを理解するのに必須の「原秩序」は、パンアメリカン航空の破産からマイアミ大学に記録が移されるプロセスで失われてしまった状態でした。そこでアーキビストは(現用記録作成時のコンテクストではなく)主題を軸に整理を行いました。

プロジェクトでは、修復や長期保存のための手当てを施し、ウェブベースの検索手段も作成しました。これらの作業は、米国におけるアーカイブズ整理方法のイノベーションとしてよく知られるMPLP (More Product Less Process)の考え方を用い、文書ファイル1フィート(約30センチ)あたり平均4時間で行ったということです。ウェブサイトの公開は2014年秋です。

マイアミ大学図書館ではさらに、2016年から18カ月間をカバーする、2回目のNHPRC助成をうけることができました。2回目は社内で刊行された逐次刊行物資料(社内報など)のデジタル化を内容とするものです。分量は資料60箱、100,000ページをデジタル化し、全文検索が可能な一般公開を目的としたプロジェクトでした。資料デジタル化の3/4は外部の会社にアウトソースして、図書館内部でデジタル化を行ったのは全体の1/4でした。またこの2回目のNHPRC助成プロジェクトによって、デジタル化した資料から重要テーマを選んでキュレーションしたページも作成されています。この2回目のプロジェクトで作成したウェブページの部分を"Digital Exhibits"と名付けています。
https://scholar.library.miami.edu/digital/exhibits/show/panamerican/credits

★検索手段のページ
https://scholar.library.miami.edu/digital/exhibits/show/panamerican/findingaid

★デジタル化されたパンアメリカン航空発行の各種刊行物リストとリンク
https://scholar.library.miami.edu/digital/exhibits/show/panamerican/digitization

★会社の略史(キュレーション展示)
https://scholar.library.miami.edu/digital/exhibits/show/panamerican/history

★本資料の来歴のページ(会社破産からマイアミ大学図書館が所蔵するまで。詳しくは後述)
https://scholar.library.miami.edu/digital/exhibits/show/panamerican/custody

(*このページの右下のビートルズの画像はとても魅力的ですね。高精細画像。)
https://scholar.library.miami.edu/digital/exhibits/show/panamerican/item/669

★パンアメリカン航空のレガシー(展示)
https://scholar.library.miami.edu/digital/exhibits/show/panamerican/legacy

★米国が関わった戦争とパンアメリカン航空(展示)
https://scholar.library.miami.edu/digital/exhibits/show/panamerican/legacy

★パンアメリカン航空のサービスに焦点を当てたページ(展示)
https://scholar.library.miami.edu/digital/exhibits/show/panamerican/service

★関連コレクションのリストとその概要へのリンクのページ
https://scholar.library.miami.edu/digital/exhibits/show/panamerican/resources

★参考・推薦文献
https://scholar.library.miami.edu/digital/exhibits/show/panamerican/books


◆パンナム歴史財団の功績◆

以上のような経緯で現在パンアメリカン航空の経営記録をはじめとする大量の会社資料が利用可能になっています。同社の企業資料は20世紀の航空産業、航空産業と米国政府の関係、あるいは旅行産業、それらに関わる文化、同社従業員の歴史・・・といったものの確固とした証しであり、現在および未来世代が過去から学ぶための信頼できる資料です。

この現在の状況を作り出したものは、少し昔の、すなわちパンアメリカン航空が破産した時期の、未来志向の人々の存在にほかなりません。1991年12月に同社が破産してすぐ、同社の従業員だった何名かが動き出し、翌年にはアメリカ合衆国内国歳入法(USC 26)第501条C項3号の適用を受け課税を免除される非営利団体「パンナム歴史財団」Pan Am Historical Foundationを立ち上げています。

★パンナム歴史財団ウェブサイト 沿革のページ
https://www.panam.org/about-pahf/foundation-history

上にあげた図書館サイトの来歴のページ https://scholar.library.miami.edu/digital/exhibits/show/panamerican/custody によれば、1992年10月6日にパンアメリカン航空は裁判所に対して、記録保管コスト削減のため、法的手続きその他に不必要な記録の廃棄を認めてくれるよう申請を行っています。この申請によって、廃棄に該当する記録はオークションにかけることが可能となりました。そして、この破産オークションにおいて、パンナム歴史財団とマイアミ大学はタッグを組んで臨み、「歴史的資料と定型的なアーカイブズ(記録資料)」"historical materials and routine archives"85,000箱を落札、評価選別の結果7,385箱を長期保存価値のあるものとしました。さらにパンナム歴史財団は元従業員100人ほどを集め、図書館特殊コレクションチームの指導のもと、これを2,000箱に精選しています。

最初の選別で選んだ資料の出所(部門)と、2段階目の選別の際の重点項目、また最初の段階で法的な必要性からオークションの対象とならなかった記録の種別などの詳細は下記のページをご確認ください。
https://scholar.library.miami.edu/digital/exhibits/show/panamerican/custody

またモノ資料はマイアミ大学ではなく、マイアミ歴史博物館(HistoryMiami Museum)とスミソニアンに収蔵されることとなり、今日に至っています。

最後になりましたが、「マイアミ大学図書館特殊コレクション パンアメリカン航空会社資料コレクション」(1,600箱分の文書、写真、視聴覚資料)を基にした"Digital Exhibits: Cleared to Land: The Records of the Pan American World Airways, Inc. "(「デジタル展示:着陸許可取得:パンアメリカン航空会社の記録」)は日本で言うところの「デジタルアーカイブ」に相当するでしょう。


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[略称一覧]
ACA: Association of Canadian Archivists(カナダ・アーキビスト協会)
ARA: Archives and Records Association(アーカイブズとレコード協会)
ASA: Australian Society of Archivists(オーストラリア・アーキビスト協会)
BAC: Business Archives Council(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BACS: Business Archives Council in Scotland(スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BAS: Business Archives Section(ビジネス・アーカイブズ部会:SAA内の部会)
CoSA:Council of State Archivists(米国・州文書館長評議会)
DCC: Digital Curation Center(英国デジタル・キュレーション・センター)
EDRMS:Electronic Document and Record Management System(電子文書記録管理システム)
ERM:Electronic Record Management(電子記録管理)
ICA: International Council on Archives(国際文書館評議会)
NAGARA: National Association of Government Archives and Records Administrators(米国・全国政府アーカイブズ記録管理者協会)
NARA: National Archives and Records Administration(米国 国立公文書館記録管理庁)
RIKAR: Research Institute of Korean Archives and Records(韓国国家記録研究院)
RMS:Record Management System(記録管理システム)
SAA: Society of American Archivists(アメリカ・アーキビスト協会)
SBA: Section for Business Archives(企業アーカイブズ部会、ICA内の部会)
TNA: The National Archives(英国国立公文書館)


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☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

企業アーカイブズをめぐる最近のニュースをひとつご紹介しておきます。

世界最初の旅行代理店と言われるトーマス・クック・グループのアーカイブズ遺産に関わる情報です。同グループに対しては、去る9月23日ロンドンの裁判所から会社清算(liquidation)命令が下され、清算手続きが開始されました。

「老舗旅行会社のトーマス・クックが破産申請-英観光客足止め」Broomberg
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-09-23/PY9HSO6TTDS001

「英旅行大手トーマス・クック、破産申請 旅行者15万人の帰国作戦が開始」BBC
https://www.bbc.com/japanese/49792020

「『世界最古の旅行会社』が破産申請 ネット時代に苦戦」朝日新聞Digital
https://digital.asahi.com/articles/ASM9R5HG3M9RUHBI01K.html

「トーマス・クック破産 英老舗旅行会社、EU離脱も影」日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50113150T20C19A9FF8000/

「トーマス・クック・グループ」ウィキペディア日本語版
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%97

この日、ビジネス・アーカイブズ・カウンシル(BAC)関係者を中心として、同社の企業アーカイブズ(資料)の保全を懸念した情報発信がSNS上で活発化しました。

BAC議長Mike AnsonのTweet(英語)
https://twitter.com/BAC_Chair/status/1176031469963231233

本年5月の段階で同グループのアーキビストが解雇されたのが判明して以来、BACはトーマス・クック・グループの経営動向をモニターしてきました。アーキビストの解雇が最初に公に知られることになったのは、エジプト旅行に関する著作を多数持つジャーナリスト アンドリュー・ハンフリーズ氏の2019年5月15日付ブログ記事によるものでしょう。

Goodby Paul Smith(英語)
http://grandhotelsegypt.com/?p=3014

また、9月23日のSNS上での企業アーカイブズ関係者の活発なやりとりを促したのは、エジプト人海洋考古学者のジアード・モージー氏です。上のハンフリー氏の記事へのリンクをツイートしたのもモージー氏でした。モージー氏による、トーマス・クック・アーカイブズ(収蔵庫の様子と何点かの資料)画像(撮影は2019年前半、日時詳細は不明)入りの一連のツイートからは、トーマス・クックがこれまで蓄積してきた記録遺産としての同社アーカイブズの規模や内容がうかがわれます。
https://twitter.com/ziad_morsy/status/1175998560178974720

BACは「トーマス・クック・アーカイブズがどのような価値を持っているのかを証言する記録利用者からの連絡」と「レスキューされた場合に資料のホーム(家)となりうる機関」を募る一方、清算人 (liquidator)と直接コンタクトをとり、企業資料保全に関して今後の戦略についてアドバイスを得るアクションを起こしています。企業破産と企業資料救出の進め方という点で注目されます。
https://www.jiscmail.ac.uk/cgi-bin/webadmin?A2=ind1909&L=ARCHIVES-NRA&O=D&P=117746
https://twitter.com/Ricshire/status/1176112720632078337
https://twitter.com/Ricshire/status/1185263174007824384

"users please email evidence of the archive value to ..." という呼びかけを読んで、編集部では、かつて参加したことのある米国カリフォルニア州オークランドのアフリカ系アメリカ人博物館・図書館のアーキビストの言葉を思い出しました。この博物館・図書館はアフリカ系アメリカ人というテーマによる収集型アーカイブズ機能を持つパブリックな施設です。アーキビストによると、同館の収集対象に該当する資料であったとしても、公開できないものは受け入れない。なぜなら、その施設は税金でまかなわれており、ただ保管するだけでもそこには費用が発生するため、公開しないことをアカウント(説明)することができないから、ということでした。

そして、11月1日現在、トーマス・クック・アーカイブズの価値に関する証言とアーカイブズ受け入れ申し出に関して130を超える連絡がBAC議長の元に届いています。

「トーマス・クック・アーカイブの将来」Managing Business Archives 2019年11月1日
The Future of the Thomas Cook Archive
https://managingbusinessarchives.co.uk/news/2019/11/the-future-of-the-thomas-cook-archive/
*英国のビジネス・アーカイブズ支援のためのサイト。イギリス国立公文書館、ビジネス・アーカイブズ・カウンシルなどが共同運営。

トーマス・クック・アーカイブズのレスキューの取り組みでは、まずレスキューするに値するものであるか、どういう価値を持つものか、すなわちアーカイブズとして価値に関わる証拠を研究者、一般の利用者、あるいは各種資料を保存提供する機関から収集することに着手しています。何をどのような理由で保全していくのか、それをきちんと証拠を持ってアカウント(説明)できるよう整えておくことが重要であることが分かります。こういった証拠集めによって、今後予想される様々なステークホールダーとのやり取りがよい方向に導かれてほしいと思います。


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ポール・ディリンジャー氏によるICA/SBAシンポジウムの基調講演からは、デザイン・イノベーションとは外形的な意匠の設計にとどまるものではなく、サステナビリティを実現する意思を持って生産プロセス、サプライチェーン全体を設計するところから生まれる、というメッセージが伝わってきました。

今日問われているのは、マテリアル(素材)とプロダクト(モノ)の生産・流通・消費全体を視野に入れたイノベーションであり、価値の創造である、と言えます。高齢化への対応、環境保護、多様性推進、災害対応...。社会的課題には事欠きません。今日的な、つまり現代という時代に適ったイノベーションとは、社会的課題の解決につながる(すなわち公益にかなう)プロダクトやビジネスモデルを追及することの中から生まれてくるものなのだ、という思いを編集部では強めました。

そして、イノベーションの探究過程において、アーカイブズは、過去の業務やプロジェクトに関わる記録情報資源を提供するという重要な役割を担っています。講演では記録を確実に補足していくことの困難さも指摘されていました。イノベーションを追い求めるビジネスそのものと同様に、アーカイブズ、アーキビストあるいはレコード・マネージャーの挑戦にも終わりがありません。


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次号は2019年11月下旬発行の予定です。どうぞお楽しみに。

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◆◇◆バックナンバーもご活用ください◆◇◆

https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bn/index.html

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ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.83
2019年11月9日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】公益財団法人渋沢栄一記念財団事業部情報資源センター
【編集者】公益財団法人渋沢栄一記念財団事業部情報資源センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部/
      株式会社アーカイブズ工房
【発行地】日本/東京都/北区
【ISSN】1884-2666
【E-Mail】
【サイト】https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/index.html

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