ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第1号(2008年2月15日発行)

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☆       □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆        No.1 (2008年2月15日発行)

☆    発行:財団法人渋沢栄一記念財団 実業史研究情報センター

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この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズに関する情報をお届けします。

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     創刊の辞

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財団法人渋沢栄一記念財団は、2007年5月9日から11日に東京大学で開催された「日米アーカイブ・セミナー」に協力いたしました。このセミナーは政府公文書館、地方公文書館、大学文書館、そして企業アーカイブズの4つの分野における日米間の交流をはかるものでした。

同セミナーの公開フォーラムには幸いにも多くの民間の企業・団体アーカイブズ関係者のみなさまにお越しいただき、米国、ひいては海外における企業史料管理、あるいはビジネス・アーカイブズに対する関心の高さが示された機会であったと私どもは受け止めました。

このような関心の高さに応えるために、財団法人渋沢栄一記念財団の情報部門である実業史研究情報センターでは、メールマガジン「ビジネス・アーカイブズ通信」(BA通信)を創刊する運びとなりました。

財団法人渋沢栄一記念財団は、近代日本経済の父とも呼ばれる渋沢栄一が唱えた「道徳経済合一主義」に基づいて経済道義を昂揚することを目的としております。民間の企業・団体における企業史料管理、アーカイブズの適切な実践はこの目的に適うものであると私どもは考えております。

「ビジネス・アーカイブズ通信」が企業史料管理、ビジネス・アーカイブズの実務に貢献すること、またこれらを通じて経済道義の昂揚に寄与することを私どもは望みます。
創刊号ではアーカイブズと倫理に関する文献情報をお届けします。

「仁義道徳と生産殖利とは、元来ともに進むべきものであります」

これは1923年(大正12年)社団法人帝国発明協会における講演での渋沢栄一の言葉です。「道徳経済合一説」と呼ばれる栄一の考え方・生き方のバックボーンを成すものと言われています。財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センターでは、経済活動と仁義道徳を架橋する実践と考え方は、ひとつには、企業アーカイブズによって具現できるのではないか、と考えております。

それではアーカイブズの分野からみると仁義道徳はどのようにとらえられるのでしょうか?

今号と次号の2回にわたってご紹介するのは、アーカイブズと倫理(Ethics)に関する英語文献です。

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◆ 目次 ◆
[掲載事項の凡例]
■文献情報:アーカイブズと倫理 1
  □『倫理とアーカイブズ専門職─手引きと事例研究』
☆★ 編集部より ★☆
○奥付
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[掲載事項の凡例]
・ここには「タイトル・著者等の書誌事項」「編集部による簡単な紹介」「目次」を掲載します。
・タイトル、著者名、目次には、編集部による日本語訳を付します。
・日本語で読みやすいものになるように、はじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・著者名の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。

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■文献情報:アーカイブズと倫理 1
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□ 『倫理とアーカイブズ専門職─手引きと事例研究』
日本語タイトル:倫理とアーカイブズ専門職─手引きと事例研究
原題:Ethics and the archival profession: introduction and case studies
著者:カレン・ベネディクト
著者名原文:Karen Benedict
発行地:シカゴ Chicago
発行者名原文 :Society of American Archivists
発行年:2003
ページ数:91p.
ISBN:1931666059

☆★ 編集部による簡単な紹介 ★☆

編著者のカレン・ベネディクトさんは米国で活躍するアーカイブズと情報サービスのコンサルタントです。アメリカ・アーキビスト協会のフェローであるほか、国際文書館評議会企業労働アーカイブズ部会(ICA/SBL)の会員でもあります。

日本にも縁が深く、1992年7月15日には千葉県文書館にて全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)関東部会特別講演として「アメリカ合衆国のアーキビスト、レコードマネジャー、ライブラリアンの関連性」と題して講演なさったこともあります。講演記録は

全国歴史資料保存利用機関連絡協議会関東部会会報『アーキビスト』第27号(1992年8月)

に掲載されております。

本書では40の事例が考察されています。実際の経験を下敷きにしたものではありますが、文章の中では米国の架空の町を舞台としています。事例研究の大部分は蒐集アーカイブズ(collecting archives あるいは repositories)を舞台にしたもので、一つ一つの事例は1〜2頁の短いものです。

米国と日本は文化も法律も異なります。しかしながら、ある具体的な状況においてどのような判断を下すべきか、ひとつひとつの事例を通じて「この状況ならどういう行動をとるべきか」考えさせてくれます。

例をあげましょう。第10例はさる大きな銀行のアーカイブズという設定です。あなたがアーキビストとして働くこの銀行の支店がある地域には、ランドマークとなる建築物保存に関する法律があります。いったんランドマークに指定されると建物の内外装の変更にもいちいち行政からの許可を得なければなりません。銀行の役員会の決定は、ランドマーク指定に対しては反対、というものでした。ところがこの地域の景観保存グループは支店建物の一部が建築的にもたいへん意義があり、行政がこの建物をランドマーク指定することを求めています。あなたは銀行支店アーカイブズの中にこの建物に関する資料を発見しました。その資料によればこの建物は元来ランドマークとなるように計画されたものでした。もしこの資料の存在が明らかになれば、景観保存グループの主張に大いに役立つでしょう。このような状況において、あなたの倫理的責務は何でしょう?またどのような資料評価を行いますか?

もう一つの事例をあげます。第36例は大学アーカイブズという状況です。この大学の図書館では20世紀のロシアのさる有名な女流詩人の貴重書コレクションを所蔵しています。この女流詩人の生涯を通じた友人の個人文書がアーカイブズの部署にあります。この個人文書は研究者の間では非常に著名で頻繁に利用される資料でもあります。ある日、貴重書コレクション担当のライブラリアンはあなた(アーキビスト)の上司(貴重書コレクションの長でもあります)の元にやってきて、個人文書のなかから女流詩人関係の書簡を抜き出して、貴重書コレクションに加えたいといいます。ふたりはこの件についてあなたに何の相談もしません。このような状況であなたなら貴重書コレクション担当ライブラリアンに対してどのように説得すべきですか?またどのような代替策があるでしょうか?

本書の事例研究部分はこのように、状況設定→読者への問いかけ→倫理規範に照らした行動指針という構成になっています。上記の2例に関する「倫理規範に照らした行動指針」の部分は次号で紹介いたします。

☆★ 目次詳細 ★☆

はじめに(Introduction)
第1章 倫理対プロとしての振る舞い
(Chapter 1 Ethics Versus Professional Conduct)

第2章 組織の実務に対する倫理の影響
(Chapter 2 The Impact of Ethics on Institutional Practices)

第3章 法律対倫理(Chapter 3 Law Versus Ethics)

第4章 倫理的問題に関する事例研究
(Chapter 4 Case Studies of Ethical Problems)

事例研究(Case Studies)

コレクションの評価とコレクションの方針
(Appraisal of Collections and Collection Policies)
第1例 ティモシー・エリクソン(Case 1, Timothy Ericson)
第2例 ティモシー・エリクソン(Case 2, Timothy Ericson)
第3例 ティモシー・エリクソン(Case 3, Timothy Ericson)
第4例 ティモシー・エリクソン(Case 4, Timothy Ericson)
第5例 マーク・グリーン(Case 5, Mark Greene)
第6例 マーク・シェルスタッド(Case 6, Mark Shelstad)
第7例 マーク・シェルスタッド(Case 7, Mark Shelstad)
第8例 マーク・シェルスタッド(Case 8, Mark Shelstad)
第9例 ロバート・シンク(Case 9, Robert Sink)
第10例 ロバート・シンク(Case 10, Robert Sink)

勤務先組織に対するアーキビストの責務
(An Archivist's Responsibility to His or Her Employing Institution)

第11例 ティモシー・エリクソン(Case 11, Timothy Ericson)
第12例 カレン・ベネディクト(Case 12, Karen Benedict)
第13例 ティモシー・エリクソン(Case 13, Timothy Ericson)
第14例 ティモシー・エリクソン(Case 14, Timothy Ericson)
第15例 レオン・ミラー(Case 15, Leon Miller)
第16例 レオン・ミラー(Case 16, Leon Miller)

著作権(Copyright)
第17例 マーク・グリーン(Case 17, Mark Greene)

贈与証書(Deed of Gift)
第18例 ティモシー・エリクソン(Case 18, Timothy Ericson)
第19例 ティモシー・エリクソン(Case 19, Timothy Ericson)
第20例 マーク・グリーン(Case 20, Mark Greene)

記述(Description)
第21例 カレン・ベネディクト(Case 21, Karen Benedict)

寄贈者関係(Donor Relations)
第22例 カレン・ベネディクト(Case 22, Karen Benedict)

利用者の平等なアクセスならびに平等な取り扱い
(Equal Access and Equal Treatment of Users)
第23例 ティモシー・エリクソン(Case 23, Timothy Ericson)
第24例 カレン・ベネディクト(Case 24, Karen Benedict)
第25例 カレン・ベネディクト(Case 25, Karen Benedict)

研究者に関する情報(Information About Researchers)
第26例 カレン・ベネディクト(Case 26, Karen Benedict)

組織におけるベストプラクティス(Institutional Best Practices)
第27例 ティモシー・エリクソン(Case 27, Timothy Ericson)

記録の所有権(Ownership of Records)
第28例 ティモシー・エリクソン(Case 28, Timothy Ericson)

プライバシー(Privacy)
第29例 ティモシー・エリクソン(Case 29, Timothy Ericson)
第30例 マーク・グリーン(Case 30, Mark Greene)
第31例 ロバート・スピンドラー(Case 31, Robert Spindler)
第32例 ロバート・シンク(Case 32, Robert Sink)

専門職業人としての活動(Professional Activities)
第33例 カレン・ベネディクト(Case 33, Karen Benedict)

プロとしての振る舞いならびに業務からの個人的利得
(Professional Conduct and Personal Profit from Work)
第34例 カレン・ベネディクト(Case 33, Karen Benedict)

資料の全体性の保護(Protection of Integrity of Documents)
第35例 ティモシー・エリクソン(Case 35, Timothy Ericson)
第36例 レオン・ミラー(Case 36, Leon Miller)

アーキビストによる研究(Research by Archivists)
第37例 カレン・ベネディクト(Case 37, Karen Benedict)

資料へのアクセス制限(Restrictions on Access to Documents)
第38例 ロバート・シンク(Case 38, Robert Sink)

窃盗(Theft)
第39例 カレン・ベネディクト(Case 39, Karen Benedict)
第40例 カレン・ベネディクト(Case 40, Karen Benedict)

倫理に関しておすすめのその他の文献(Suggested Additional Readings on Ethics)

付録:アーキビストのための倫理規範(アメリカ・アーキビスト協会,1992)
(Appendix: Code of Ethics for Archivist(SAA, 1992))

☆★ 編集部より:アーキビストの倫理規範について ★☆

アメリカでは1980年に最初のアーキビストの倫理規範が制定され、その後1992年に改定されました。国際文書館評議会(ICA)でも1996年の北京大会にて倫理規範を定めています。このICA倫理規範の日本語訳は次のサイトで読むことができます。

ICA Ethical Principles 【アーキビストの倫理綱領】

http://www.archivists.com/ica_moral.html

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☆★ 編集部より:次号予告 ★☆

次号は引き続き「文献情報:アーカイブズと倫理」その2をお届けする予定です。配信は3月中旬頃を予定しております。どうぞお楽しみに。

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ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.1
2008年2月15日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター
【編集者】財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部
【発行地】日本/東京都/北区

【E-Mail】

【サイト】http://www.shibusawa.or.jp/center/ba/index.html

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