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「論語とそろばん」ウィークエンド・セミナー 開催報告【レポート】

日  程 2015/12/5 開催地 日本・東京/渋沢史料館

▼ セミナー1:「論語とそろばん」と現代~長所と短所~ 講師:守屋淳(作家)
▼ セミナー2:渋沢栄一の「論語とそろばん」で未来を拓く 講師:渋澤健(コモンズ投信株式会社会長)
セミナー3:経営者インタビュー「オーガニックコットンを通して社会貢献」
 講師:渡邊智惠子(株式会社アバンティ代表取締役社長) 聞き手:守屋淳、渋澤健


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掲載日 2016年4月12日

セミナー1:「論語とそろばん」と現代~その長所と短所~
講師:守屋淳(作家)

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セミナー1では、「論語とそろばん」という考え方はすばらしいが、深堀りすると実践が難しい、ぶつかりあう価値観があるのではないかという問題提起をし、続くセミナー2、3の講師の方々にそれぞれお答えいただくこととしたい。

「信用」をベースとした資本主義

渋沢栄一が実業界を育んだ理由は、「国や社会が必要としているものを行き渡らせるため」であり、「経済力こそが、軍事力を含めた国力の大本である」と考えたからである。当時の時代背景として、(18世紀以降、)欧州において産業革命がおこり、同地域における生産性が圧倒的に高くなり、その後、その生産性を軍事力へと転用していくようになった。以降、世界の主要地域は「近代化=西欧化」せざるを得なくなる。

近代化の過程として、①欧州の力に圧倒され植民地になる、もしくは②模倣してみずから近代化する、という選択肢があった。日本は後者を選択し、近代化を成し遂げた。明治時代に近代化を支えることとなった幕末維新の志士のほとんどは、政治家や軍人として活躍したが、栄一だけは経済・実業の重要性を理解し、実業界に飛び込んだ。

実業界に飛び込んだ栄一が直面したのは、商人の倫理観の低さであった。伝統社会に近代化や資本主義が入ると、人々は「お金」というわかりやすい価値観にしがみつき、拝金主義が生まれてしまうことが一因であった。栄一は、明治35年(1902年)に英国の商工会議所を訪れた際に、日本人商人の倫理感の低さ、国際貿易における信用の低さを指摘される。以降、栄一は経済上の倫理観の低さを「論語」が説く道徳で補てんしたいと思い、「道徳経済合一」を唱えるようになった。

栄一が目指したものは、拝金主義ではない「信用」をベースとした資本主義である。「信用」がないと富(商売)は続かないし、人も集まらない。

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「成長」と「永続」は両立するか

さて、現代は、先に挙げたような近代化または資本主義導入の時代と事情が少し異なる。物が行き渡ってしまい、魅力的な違いがなければ売れない「ポスト産業資本主義」の時代と言える。いい物を作れば売れていた時代から、面白いもの、たえず新しさを求めていかなければ、どの企業も市場で生き抜いてはいけない時代になってしまった。

ここで再考すべきは、ポスト産業資本主義の時代における企業の生き残り策として、(1)市場において魅力的な違いを生み出し続け、あくまで成長や拡大を目指す方法、(2)違いも追うが、それ以上に安心や変わらぬ「信頼」に基盤を置き、「成長」よりは「継続」に価値を置く方法、これら2つの対照的な方法があるのではないかということ。そして、もしかすると後者の方が日本企業に馴染みやすいのではないかということである。

なぜなら、これまで日本企業も米国企業のように破壊的イノベーションを頼りに偉大な企業になったものの、米国企業のようにイノベーションを足掛かりに既存(親会社)市場を攻撃し、社会的流動性を確保するという「父親殺し」ができない秩序が日本企業にはあり、世代交代が起こりにくいため成長できず不況が続いていると思われるからである。

一方で、生物界において右肩上がりで成長し続けることは不可能で、質量的に最も好ましい量というものが存在するように、企業経営においても同じことが言えるのではないか。『日本でいちばん大切にしたい会社』(坂本光司、あさ出版、2008年)に挙げられている一企業の事例にあるとおり、「本当に伸びているのか」というくらいの地味な伸び方でじわじわと業績を伸ばしていくことが肝要なのではないか。

民主主義的な決定方式は、ある一定時期における現象・構造について意思決定するため、たとえば資源枯渇や環境破壊といった、時間の流れや歴史的な変化への考慮が必要な問題への意思決定ができない構造となっていると言われる。言い換えれば、現代世代は資源や環境に関する問題への対策を後回しにし、子孫へそのツケを回していると言える。こうした問題をイノベーションで乗り越えられるかどうかは、現時点ではわからないが、かといって目をつむったまま、今の繁栄を維持することは可能なのだろうか。

換言すれば、(経済・実業等において)「成長」と「永続(サステナビリティ)」は両立するのだろうか。若い世代は成長・拡大したいと思うものなので、永続を若い世代へは押し付けられない。拡大しないとモチベーションの維持が難しい。「夢」を見せるというのがモチベーションになるのではないか、という説もある。結局、人は、安定が続くとワクワクを求め、ワクワクに疲れると安定を求めるものである。冒頭で述べた、ぶつかりあう価値観、ここでは「成長」と「永続」であるが、果たして両者は両立するのだろうかということに関し、この後ご登壇の講師にお話をうかがいたい。

セミナー2:渋沢栄一の「論語とそろばん」で未来を拓く
講師:渋澤健(コモンズ投信株式会社会長)

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これからの日本、そして世界

渋沢栄一の思想が、これからの社会、未来を描く際に役立つであろうということについて言及したい。未来は一直線では到来せず、歴史はそのまま繰り返されることはないが、破壊と繁栄の周期性がある。たとえば、明治維新後のおよそ30年は江戸時代の常識が破壊され、近代経済社会を形成していく基盤づくりが始まった。その後の30年は日露戦争を経て後進国日本が先進国に追いついたことを世界に示した繁栄の時代。そして、太平洋戦争の時代に入って、再びそれまでの常識が破壊された、つまり時代のリセットがあった破壊の30年。その後、戦後の高度成長時代としてバブル期へと向かった繁栄した30年。

この周期性が正しいとすれば、私たちは、その後のバブル崩壊等の破壊期を通過する30年の26年目に入ったということになる。そして節目である2020年のオリンピックが、それ以降の時代にどう影響するのか。繁栄があるとすれば、1960年から1990年のように人と物が増えて経済成長を果たした時代とは違った時代になるはずである。従って、人口動態から予測する日本の未来に繁栄が続くとは考えにくい。ただ、2020年以降は、いわゆる団塊ジュニアの世代が最も人口の多い層で、団塊の世代から社会の主役の世代交代が起こる。団塊の世代と異なり、団塊ジュニアは一度も成長を経験していないバブル期に社会人になり、平たく言えばお金がない世代である。このような世代が、日本社会で一番数多くなることは、このままでは今後の日本において大きな社会的な課題になる。しかしながら、この世代は、過去の成功体験がない分、新しいものを生み出す可能性を秘めているということは期待できる。過去の成功体験の延長で新しい繁栄はない。

更に、世界的に見ると層の厚い世代が1982年~2000年に生まれた「ミレニアル世代」である。彼らは生まれた時からインターネットがあり、簡単につながり、共有(シェアリング)を好む。現代は既にモノがある時代なので、モノ以上に「意義」が重要となる時代が到来する。その時、散らばったものをまとめる「共感性」ということが重要となってくる。この価値観、感性に新しい繁栄の可能性が潜んでいる。とはいえ、新しい時代になっても、どのような時代で通用する普遍性も大事だ。過去の遺産である「論語と算盤」の普遍性に期待が高まる。

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鍵は「合本主義」と「論語と算盤」

ここで、栄一の唱えた「合本主義」が重要な役割を果たす。合本主義は一滴一滴の滴が集まり大河となる、いわば複数の人々の力を合わせて同じ方向に持っていくことである。他方、一般的に言われている資本主義というものは、合本主義とは若干異なり、選別能力をもった者が、極端な話、一人でも企業経営を進めていくレバッレジを活用することができるということを示す

また、合本主義に加えて栄一が重視した「論語と算盤」の考え方のうち、特に次の2点に注目したい。
(1)「合理的の経営」: 経営者一人がいかに大富豪になっても、そのことにより社会の多数が貧困に陥るようでは、その幸福は継続されない。
(2)「論語と算盤は甚だ遠くして甚だ近いもの」: 正しい道理の富でなければその富は完全に永続することができない。従って、論語と算盤という懸け離れたものを一致させる事が今日のきわめて大切な務である。
合わせて考えると、「論語と算盤」を通じて後世に伝えたかったメッセージとは、持続性、すなわちサステナビリティである。算盤勘定がないと持続性が確保できない。一方で、社会全員が論語ばかり訴えていても、新しいものが生まれず持続性が確保できない。

「と」の力

「論語と算盤」の根源に「と」の力がある。そもそも「論語」と「算盤」と一見矛盾している二者をどのように合わせることができるのだ。二者を合わせることに矛盾があるのであきらめてしまうということは、結局のところ、「と」の力がないということだ。一見矛盾しているかもしれない。しかし、角度を変えて、押したり、引いたりしたら、いずれ矛盾している二者が合う瞬間が訪れるかもしれない。つまり、今まで存在していなかった、新しいものをつくることができたということである。「と」の力とは想像を活かした創造である。

経営者は現在と未来という矛盾するものをつなげて価値を創造しなければならない。それぞれ利害や方向性が異なるステークホルダーの言い分を汲み、経営の方向性を定めていかなければならない。つまり、経営者には、一見矛盾するものを「と」の力で合わせる資質が重要となる。

では、新しい常識を想像するために何が必要になるか。栄一は「論語と算盤」で「常識とは何か」という章で、このようなことを示している。「智」「情」「意」の3点にて表されるものを常識とする。
「智」とはあることを知っているか否かということだが、知っているだけでは常識とはならない。知識や知恵を使わなければならないが、そのためには情熱、情愛といった「情」が行動を起こすために欠かせない。一方で情に流されない意志も必要。しかし意志が強すぎると偏りが起こるため、均衡が必要である。つまり「智」「情」「意」が均衡を保ち発達したものが、完全なる「常識」だと言える。

新しい時代の創造のためには、自分が置かれている社会や組織という枠の外から状況を俯瞰することが必要となる。栄一は出自が農夫であるが、その彼が国づくりへと踏み出していった。栄一はいつも枠を超えて挑戦していた人物と言える。重要なのは、枠の中を否定することではなく、枠の外から新しい価値観を取り入れて、枠自体をどんどん大きくしていくこと、多様性を重視することである。

健康、しつけ、勉強、平和といったものに関する価値観は、時代が変わっても変わらないものである。その変わらない価値観を踏まえた上で、多様性を重視し「今日よりも、良い明日へ」という考えのもと、先に述べた共感性をもって未来への大きな力としていくこと。つまり「世代を超えられる投資」を実現していくことが重要なのではないかと考え、自分は投資事業等に携わっている。

セミナー3:経営者インタビュー「オーガニックコットンを通して社会貢献」
講師:渡邊智惠子(株式会社アバンティ代表取締役社長) 聞き手:守屋淳、渋澤健

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「世界一」であることが、人々の印象に残るために重要であると感じ、オーガニックコットンと言えばアバンティ、もしくはブランド名のPRISTINEと言われることを目指してやってきた。幸いなことに、世界一を実現可能とする日本のものづくりの土壌があるということを、ここで改めて強調したい。

経営理念に、「敬天愛人」(天を敬い、天が人を愛するように人を愛する)を掲げ、30年間オーガニックコットン一筋、オーガニックコットンを通して社会貢献をしたいと思い、アバンティの経営を続けてきた。また、行動指針には、(1) 社会倫理に照らし、人として正しいと思うことを実践する、(2) 関わる全ての人々が利益を分かち合う、「四方良し」の精神を実践する、以上の2点を掲げて毎日社員と唱和してきた。

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オーガニックコットンとは

さて、ここでオーガニックコットンとは何かを紹介したい。オーガニックコットンとは、次の4点をクリアしたものである。(1)遺伝子組み換えをしていない、(2)児童労働に関わっていない、(3)労働者の人権を守る、(4)化学薬剤を使用しない。世界のコットン生産の中で、オーガニックコットンの生産はたった0.7%、吹けば飛ぶようなビジネスである。その中でも大量販売・大量消費をしているいわゆる大企業が、世界で一番オーガニックコットンを扱っているのが現実である。

こうした現状下、たとえば循環型社会の阻害要因である①遺伝子組み換えに関しては、業界内の大企業同士の結束等により、遺伝子組み換えの種子利用が払拭されない。オーガニックコットンを通して、こうした阻害要因を無くし状況を変えていきたい。

Made in Japan へのこだわり

アバンティは原綿から製品までの一貫したものづくり、あくまでMade in Japanにこだわり続ける。薬剤と水を大量に使って作られる従来の製品と異なり、オーガニックコットン製品は一色しかないため、その一色でも様々な材質の生地や製品となるよう26年間試行錯誤を続けてきた。幸い、日本国内にある協力企業195社の技術をもって多様な生地や柄になるように、もともと持っている綿の優しさと暖かさという特長、何より環境に優しいという特長を保持できるように工夫してきた。いわば弱みを売りに変えてやってきた。誰もやらないことが逆にアバンティの売りになっていると言える。

ソーシャル事業

東日本大震災を受けて、アバンティはソーシャル事業にも一層力を入れてきた。「東北グランマの仕事づくり」として、2011年6月より「被災地雇用創出」を目的に「共生」「多様性」をテーマに、他社ブランド製品(OEM)の製造・販売事業を継続している。2014年のソチ・オリンピックの日本代表選手にもグランマ製品を届けることができ、一つの成果を残すことができたと実感している。今後は、オーガニックコットンの柱にソーシャル事業部の活動を加え、社会問題をビジネスにより解決していくこと、そして100年企業となることを目指していく。

守屋氏、渋澤氏による渡邊氏へのインタビュー

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(守屋)Q. いいことをするために会社を大きくしたいとのことだったが、その場合の手段の一つとして、株式上場が挙げられる。株式を上場すれば投資家へのリターンが必要となる。一方で上場をしない場合、大きくなるには時間がかかってしまうのではないか

(渡邊)A. 身の丈という言葉が好き。他人資本が入ってきて自分の思うことができないのは困る。大事なのは、働いている社員が「アバンティが好き」と言って同じ方向性をもって働くこと。そんな人が集まって来てくれればいいと考える。先に述べたとおり、アバンティは生地屋でも糸屋でもあり、OEMとして他社ブランドの製品も作っていて、オーガニックコットンのマーケット自体の拡大に貢献している。

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(守屋)Q. 当セミナーの経営者インタビューでは渡邊氏が初めての女性講師である。政府も女性の活躍と言っているが、目標値を下方修正するなど、思うように進んでいない様子である。その理由と具体策をどう考えるか。

(渡邊)A. 日本は従来男性社会であり、女性がリーダーシップを取るという訓練がされてこなかった。女性のために責任あるポジションを作っていくには時間がかかる。また、女性の能力をどう引き上げていくかということに関しては、全て男性によるサポートが必要。「子育て」と「介護」を保育園やデイサービスなどの福祉施設がきちんと下支えしない限り、女性のキャリア形成は難しいであろう。夫、職場の上司といった男性が、女性を引き上げていくことが必要である。

(渋澤)2020年以降は、女性の活躍という言葉はもはや死語となっているはずである。

<受講者の声>
・日々の仕事に活かせる考え方、ヒントをたくさんいただきました。(40代)
・テーマが21世紀のテーマと一致している。(60代、男性)
・講師の先生方みなさん情熱を持っておられてとても良かったです。(50代、男性)

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