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『青淵』No.786 2014(平成26)年9月号
今年(2014年)は渋沢栄一が1914年に袁世凱に招待され中国を訪問してから、ちょうど100年目に当たります。近年、日中・日韓の二つの二国間関係は領土や歴史認識をめぐり悪化し、首脳会談を開くこともできない状態が続いています。メディアの報道も感情に流れやすく、前向きな論点が提示されず、閉塞感が漂っています。もし今渋沢栄一がいれば、この状況を憂慮しているだけでなく、必ずや関係改善のために何らかの方策を考え、実現に向けて各方面に働きかけ、自らも行動することは間違いありません。そこで研究部では、次の5つの事業を開催することにいたしました。
まず5月7日(水)~9日(金)に上海復旦大学で開催された東アジア文化交渉学会に参加し、渋沢栄一の積極的な道徳活動について報告しました。陶徳民(関西大学)、町泉寿郎(二松学舎大学)、見城悌治(千葉大学)、ジャネット・ハンター(ロンドン大学)、メリサ・ウィリアムズ(トロント大学)など政治哲学、経済史、思想史の各先生方をはじめ、20人近くの各国研究者が参加して、渋沢栄一の思想や行動について議論が展開されました。
5月10日早朝、上海駅から高速鉄道にて、南京、徐州を経由して3時間で、山東省曲阜に到着しました。曲阜は古代から肥沃な土地に恵まれ、政治経済の中心地帯、中原の一角に位置しています。当日気温は20度で快適でしたが、あいにく低気圧が通過していたため、午後から雨がひどくなり、孔子研究院のみ見学し、曲阜師範大学へ移動しました。午後7時からの講演会には、約200名の学生が参加しました。陶徳民先生が、2005年以来の中国での当財団の活動や東アジア文化交渉学会の活動を解説したのち、当財団理事長渋沢雅英が20分、英語(中国語に逐次翻訳)で、渋沢栄一について講演。特に100年前、1914年の栄一の中国訪問や蒋介石との関係に関するエピソードを紹介しました。
その後、ハンター、ウィリアムズ両先生が、5分間ずつ、渋沢栄一についてコメントし、最後に金明珠(韓国啓明大学校)先生が、日本語で韓相龍(ハン サムヨン、「韓国の渋沢栄一」)について10分ほど研究のエッセンスを紹介され、渋沢栄一の影響や韓国における近代史研究の難しさについて話されました。学生からは栄一や現在の日中関係について次々に面白く、かつ難しい質問がでました。しかし日、中、韓、英の4ヵ国語が飛び交う楽しい雰囲気のなかで、将来に向けた前向きな議論ができたことは、大変有意義でした。ふと気がつくと午後9時をかなり過ぎていましたが、学生はとても熱心で、ほとんど帰らずに、討論に聞き入っていました。
翌11日は、朝食後、霧雨の煙る孔子廟を訪問しました。すっかり観光地となり、日曜日の朝から大勢の参拝者が訪れ、お伊勢参りのようでした。参拝後高速列車に乗り、2時間で北京に到着しました。北京では北京大学高等人文研究院での「儒商論域(Discourse on Confucian Entrepreneurs 2014)」討論を行いました。名だたる学者と100名を超える中国人企業家がシンポジウムに参加し、熱心に議論を聞いていました。儒商とは、儒教の精神に基づきビジネスを行う商人のことで、渋沢栄一がロールモデルとして大変注目されていることを再認識しました。
(6月13日~15日、於南京大学、内容については次回12月号で詳しく紹介いたします。)
中国から3人の研究者を招き、下記のようなシンポジウムを開催します。華中師範大学の田先生には渋沢栄一訪中時の長江(揚子江)一帯の政治経済状況についてお話しいただく予定です。
日時:10月11日(土)午後13時30分から16時30分
場所:当財団渋沢史料館会議室 (日中同時通訳あり)
パネリスト:明旭(北京大学世界倫理中心助教)―明時代の長江流域の儒商
田彤(華中師範大学歴史学部教授)―1910年代長江流域
―栄一の中国訪問―
馬学新(前上海当代研究所所長)―長江流域の現在と将来
司会兼討論者:于臣(横浜国立大学教育学部准教授)
11月24日(月)午後に当財団寄付講座「渋沢栄一1914年訪中100周年記念シンポジウム」と題して、基調講演とシンポジウムを開催することに決まりました。講師は田中一弘氏(一橋大学大学院商学研究科教授、経営哲学・企業倫理)で「渋沢栄一の道徳経済合一説」というテーマで講演を行います。その後、韓国から金明洙氏、中国からは周生春氏(浙江大学儒商東アジア文明研究中心教授)と一緒にパネル・デイスカッションを行います。テーマは、「21世紀のグローバル資本主義とモラル?儒教と企業家精神」です。
また馬敏氏(華中師範大学総長)に司会兼コメンテーターをお願いします。
渋沢栄一の行動についての深くかかわる部分を于臣氏に翻訳してもらい、今年度中に出版する予定です。
(研究部・木村昌人)