研究センターだより

35 岩手−ニューオリンズ交流事業/合本主義研究プロジェクト/日韓中三国関係の改善へ向けてのプロジェクト

『青淵』No.774 2013(平成25)年9月号

最近の研究部の活動から、3つのトピックを紹介します。

1. 岩手−ニューオリンズ交流事業「復興を通じた革新」

昨年秋に実施しました「東日本復興のための日米企業家交流促進プロジェクト(2012年9月16日〜22日)」では、橘川武郎氏(一橋大学教授、当財団評議員)が団長となり、3・11東日本大震災の被災地の1つ、岩手県釜石の企業家と同市職員と一緒に渡米しました。ニューヨークでは米国の支援者に復興状況を報告し、ニューオリンズではハリケーンの災害からの復興に尽力してきたルイジアナ州関係者、企業家、NPOとの意見交換を行いました。

その交流を踏まえて、今年5月17日から23日までニューオリンズの4人の専門家(災害マネジメント研究所所長、若手女性起業家、被災地域で子供たちの音楽教育を行うNPO代表、元ルイジアナ州復興局代表)を招待し、釜石市、大槌町の被災地を視察した後、20日には釜石市で「復興を通じた革新:産・官・学・NPOそれぞれの役割−ニューオリンズに学ぶ」というテーマで意見交換会を行いました。当日夜は釜石市鵜住居地区の宝来館に宿泊し、同地域に古くから伝わる「虎舞」を被災した子供たちが力強く舞うのを観賞して、地元の方々の復興へ向けての強い意志を改めて感じることができました。

21日には盛岡市でも岩手大学で同じテーマの公開討論会を開催しました。米国参加者からは、復興のためには何よりも自信と信頼を構築していくことが大切なことや、そのためには互いに協力し合い、考えを共有し、小さなグループ同士が競争するのではなく、大きな枠の中で、共同して再建プランを作ることが肝要だ、という貴重なアドバイスを受けました。

2. 合本主義研究プロジェクト

この2、3年、渋沢栄一の考えていた合本法への関心が内外で急速に高まっています。毎月といってよいほど、単行本や総合雑誌に取り上げられています。本欄でも今までその一端を紹介しましたように、2011年7月の大阪会議から開始した合本主義研究プロジェクトは、昨年9月のパリでの国際パネル発表、今年4月の東京会議などを経て、今年11月25日(月)・26日(火)に、パリで2つのシンポジウムを開催することになりました。25日にはOECD本部会議場で専門家を対象としたシンポジウム(日英同時通訳付き)を、翌26日には、パリ日本文化会館で、パリ在住日本人を対象とした日本語によるシンポジウムを行います。このシンポジウムに間に合うように、東洋経済新報社から、橘川武郎・パトリック・フリデンソン共編、『グローバル資本主義の中の渋沢栄一−合本主義とモラル』(仮題)として刊行する予定です。英語版は、その後英米の大学出版会から刊行する予定です。

さらに、来年4月18日(金)に、東京商工会議所国際会議場で、合本主義に関する公開シンポジウム(日英同時通訳付き)を開催する予定です。詳細は、後日お知らせいたします。

3. 日韓中三国関係の改善へ向けてのプロジェクト

最近の日韓中三国関係は、領土問題、歴史認識問題などにより、政治外交分野では緊張が高まっていますが、経済・文化面では企業間、地方都市、NPOレベルで地道に交流が行われています。もし渋沢栄一が生きていたら、将来を見据えて、この三国関係を改善するために、グローバルな視野から取り組んでいると思います。そこで、2つの新規プロジェクトの可能性を模索しています。

1つは、東南アジアから見た日韓中三国関係です。こうした視角から、今年6月14日に、渋沢雅英理事長と小松諄悦常務理事が中心となって財団法人MRAハウスとの共催でバンコック会議を実施しました。東南アジア、特にタイでは、なぜ1973年の田中首相訪問時の激しい反日感情がおさまり、中国や韓国とは異なり、良好な対日関係を築いてきたのか。また東南アジア諸国は、最近の日韓中三国関係についてどのように分析しているか、などを明らかにするという内容です。今後このテーマをどのように進めていくか検討中です。合本主義プロジェクトと関連付けることも考えられます。

もう1つは、儒教に焦点をあて、日韓中三国交流、とくに思想・文化交流を考えるプロジェクトです。渋沢栄一の「論語と算盤」(道徳経済合一説)を、近世・近代の東アジアにおける漢学の歴史の中で、どのように位置づければよいのかという大きなテーマです。まず、渋沢栄一の「論語と算盤」の思想に大きな影響を与えたといわれる明治の漢学者、三島中洲(みしま ちゅうしゅう)が創設した二松学舎と渋沢栄一の関係を調べることにより、分析していきたいと考えています。同大学の町(まち)先生、金城学院大学の桐原先生などとプロジェクトの内容について、今月からブレーンストーミングを開始し、今年度中に2〜3回行います。中国や韓国の研究者や留学生にも参加を呼び掛け、10人程度のグループで焦点を絞り込む予定です。

(研究部・木村昌人)


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