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研究センターだより

32 欧州経営史学会・日本経営史学会合同会議(パリ)/東日本復興のための日米企業家交流促進プロジェクト(ニューヨーク・ニューオリンズ)

『青淵』No.765 2012(平成24)年12月号

今回は、最近のパリでの学会活動と東日本復興のための日米企業家交流促進プロジェクトについてご紹介します。

1. 欧州経営史学会・日本経営史学会合同会議(パリ)

2012年8月30日(木)から9月1日(土)までの3日間、欧州経営史学会・日本経営史学会の初めての合同年次大会が、パリのフランス社会科学高等学院(大会本部長パトリック・フリデンソン同学院教授)で開催され、日本から約80名、フランスから85名を含む合計300名以上の研究者が参加しました。渋沢栄一の経営思想と行動について、4つの部会で10の報告がなされ、ヨーロッパの経営史研究者の間で、渋沢栄一は一躍有名になりました。

まず、「経営システムと道徳との緊張関係−渋沢栄一の視点」という部会では、島田昌和氏(文京学院大学教授)が渋沢の創りだした「オープンマーケット・システム」と「合本資本主義(gappon capitalism)」について、田中一弘氏(一橋大学教授)が道徳経済合一説について、キム・ミョンス氏(啓明大学校助教授・韓国)が、韓国の渋沢栄一と呼ばれ漢城銀行を創設した韓相龍と渋沢栄一との関係について、ジョン・セイガーズ氏(リンフィールド大学准教授・米国)が渋沢栄一の活動を欧米の経営者と比較しながら、渋沢の企業家としての特色を論じました。その後、報告者と討論者のジャネット・ハンター氏(ロンドン大学教授)や参加者との間で、合本(gappon)とは何か、資本主義の概念とどこが違うのかなどについて、白熱した議論が展開されました。まだまだ解明しつくされたとは言えず、今後の研究課題となりました。

次に一橋大学と当財団の共同プロジェクトで2年間研究を進めてきた「渋沢栄一と人材育成」のチームからは、鈴木良隆教授が、緻密な実証分析に基づいて、竜門社が経営者育成に果たした役割について報告しました。橘川武郎氏(一橋大学教授)は、島田昌和氏の研究成果に基づき、渋沢を、岩崎彌太郎、中上川彦次郎、安田善次郎など同時代の経営者と比較し、人材と資本を重視する「出資者経営者」としての渋沢の特色を明らかにしました。山藤竜太郎氏(横浜市立大学准教授)は、商業教育の普及と地方財界の育成への渋沢の貢献を横浜の事例で説明しました。飯塚陽介氏(帝京大学専任講師)は、商議員としての渋沢が文部省・財界・一橋大学の関係を調整することにより、一橋大学の経営と教育に深くかかわったことについて報告しました。

いずれの報告も、企業家・経営者・実業教育推進者としての渋沢栄一研究の奥行きを広げ、大きな貢献をしただけでなく、新たな研究課題も数多く提示しました。また内外の新進気鋭の渋沢研究者が一堂に会し、交流を深めることができたことも大きな成果でした。

この他、第4回合本主義研究会が9月2日(日)にパリで行われ、前日までの学会での議論を踏まえ、充実した議論を行うことができました。内容につきましては次回[平成25年3月号]で詳しくお知らせいたします。

2. 東日本復興のための日米企業家交流促進プロジェクト(ニューヨーク・ニューオリンズ)

東日本大震災からの復興において、地域の経済活動の活性化は不可欠です。そこで研究部では特別プロジェクトとして、被災地の一つである釜石市で震災後にいち早く活動を再開した企業家を中心とする小グループを米国へ派遣しました。ニューヨークでは、被災地への支援者に対して、復興状況についての報告を行うとともに、ニューオリンズで、2005年8月のハリケーン・カトリーナからの災害復興に尽力してきた企業家やNPO関係者などとの意見交換を行い、被災地における経済活動の活性化についての経験、情報を共有しました。

今回の訪米団の概要は次の通りです。
参加者:
 岩崎昭子(有限会社宝来館代表取締役)
 小野昭男(小野食品株式会社代表取締役社長)
 佐々隆裕(釜石市産業振興部次長)
 橘川武郎(一橋大学大学院商学研究科教授)
 加藤晶(渋沢栄一記念財団職員)
訪問地: アメリカ合衆国ニューヨーク、ニューオリンズ 2都市
日程: 9月16日(日)〜9月22日(土) 7日間

各地でのプログラム
ニューヨーク
 ・ニューヨーク日本クラブ・ニューヨーク日本商工会議所との懇談会(非公開)
 ・一般公開報告会(ジャパン・ソサエティ・ニューヨーク)
ニューオリンズ
 ・ルイジアナ州水産物宣伝促進委員会、セント・バーナード・プロジェクト等NPO訪問と市内見学。
 ・一般公開報告会と企業家懇談会(非公開)
  (会場:ニューオリンズ・バイオイノベーション・センター)

訪米団参加者からは、今後の東北の復興に向けて多くの励ましとヒントを得ることができた1週間であったとの評価をいただきました。平成25年夏以降にニューオリンズから企業家、行政担当者、NPOリーダー、ジャーナリスト等数名を日本へ招へいし、釜石を視察するとともに、シンポジウムを開催する予定です。

(研究部長・木村昌人)


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