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研究センターだより

31 早稲田・ポートランド両大学合同寄付講座「トランス-パシフィック」記念シンポジウム「近代日本社会のリーダー 渋沢栄一、福沢諭吉、大隈重信」/第16回国際経済史学会に参加して/平成24年度新渡戸塾の公開講座から/第5回ヘボン-渋沢記念講座シンポジウム

『青淵』No.762 2012(平成24)年9月号

今回は、今年度前期の研究部活動の一端をご紹介します。

1. 早稲田・ポートランド両大学合同寄付講座「トランス-パシフィック」記念シンポジウム「近代日本社会のリーダー 渋沢栄一、福沢諭吉、大隈重信」

近代日本社会を形成に大きな役割を果たした渋沢、福沢、大隈の3人に焦点を当てたシンポジウムは、2006年7月、世界政治学会福岡大会で初めて開催して以来、長岡、宇和島、宇都宮の各商工会議所や国際文化会館で実施し、好評を博してきました。今回は初めて大隈重信が創設した早稲田大学大隈小講堂で開催しました。平日の昼間にもかかわらず、約200名の参加者があり、混迷する世界の中で日本社会をどのように再生させるかについて、明治のリーダーの精神や行動に学びたいと考える方が実に多いことを痛感しました。詳細は、『青淵』平成24年8月号「せいえんひろば」42頁をご参照ください。

2. 第16回国際経済史学会に参加して

合本主義プロジェクト(研究部主催)のコアメンバーのジャネット・ハンター先生(ロンドン大学教授)から誘われ、第16回国際経済史学会に参加しました。今年の会議は7月8日から13日まで、南アフリカ、ケープタウン近くのステレンボッシュ大学で開催されました。ステレンボッシュは、オランダ人が入植した南アフリカで二番目に古い町で、のちにイギリス領になったため、18世紀オランダと19世紀ビクトリア朝時代の雰囲気が混じりあい、不思議な空間を醸し出していました。

7月10日(火)午後1時から4時30分までの「自然災害の経済的影響」という部会で、関東大震災に関する5つの報告がなされ、私は「財界人が関東大震災(1923年)からの復興に果たした役割」というテーマで、渋沢栄一、三井家、岩崎家などの事例を報告しました。聴講者からは、関東大震災時と現在とでは、危機における財界人に対する期待度がかなり違っていたのではないか。統計数字には表れない震災当時の人々の受けた衝撃を、国際経済史のなかでどのように分析していけばよいかなどの議論がなされました。

いくつかの部会で渋沢栄一に関する報告がなされました。たとえば「資本主義はもはや時代遅れの概念か」という部会では、フランスの比較経済史の大家、パトリック・フリデンソン教授が、経営史の観点から、今までの資本主義は欧米モデルに偏っていたが、今後はそれぞれの地域の歴史や文化に根差した資本主義の研究が必要であり、渋沢栄一の合本主義に注目していると発言しました。また、華中師範大学学長の馬敏教授は、グローバル化の中の日米中実業家交流研究の意義について報告し、19世紀末から20世紀初頭にかけて、大型実業団相互訪問や中国における商務商会(日本では商業会議所、欧米ではチェンバー・オブ・コマース)の発足とその発展を、グローバル化という視座から研究することの重要性を強調されました。そのなかで、渋沢栄一、張謇にも言及しました。このほか保険に関する比較研究の部会では、一橋大学の米山高生教授が、東京海上保険会社について報告される際、渋沢栄一の写真を紹介し、同社設立の経緯を説明されたと、友人が教えてくれました。このように、3年に一度、全世界から800名近くの国際経済史の研究者が集まる会議で、渋沢栄一が様々な視点から注目されていることを知り、いささか驚きました。

3. 平成24年度新渡戸塾の公開講座から

5年目を迎えました新渡戸塾(国際文化会館主催、財団法人MRAハウスと当財団が助成)には、今年度は14人の多彩な顔触れの塾生が選ばれました。7月21日(土)は、猪木武徳(青山学院大学特任教授)氏が、「デモクラシーをどう擁護するか」という演題で講演しました。ギリシャ時代にさかのぼり、民主主義が抱えるいくつかの問題を概観したのち、(1)民主主義を支えるのは、単なる個人ではなく、公徳を有し公益を考えることのできる市民でなければならない、(2)米国は小さな政府といわれるが、中間組織である多数の結社(Association)が、準公共的存在として重要な役割を果たしている、ことを指摘しました。それに比べると現在の日本には、公徳を備えた市民が少なく、渋沢栄一の説く「公益を追求する民」をいかにして育てていくかが急務であることを感じました。

4. 第5回ヘボン-渋沢記念講座シンポジウム

7月26日(木)に、東京大学本郷キャンパスの伊藤謝恩ホールで、「オバマ大統領の分析と評価」というテーマでシンポジウムを行いました。アラン・ブリンクリー(コロンビア大学教授)氏が内政(政党対立と景気後退)から、チャールズ・クプチャン(ジョージタウン大学教授)氏が、内政と外交の側面から、古矢旬(北海商科大学教授)氏が米国のリベラリズムの視点から分析と評価を加えました。米国でも「決められない政治」状況になり、4年前に比べ、オバマ大統領が就任時に掲げた理想をなかなか実現できず、現実主義になっている。そのなかで、国民のオバマ大統領への期待度は下がり、今秋の大統領選挙の行方も不透明になっていることがよくわかりました。

(研究部・木村昌人)

合本主義プロジェクトにつきましては、9月にパリで欧州経営史学会・日本経営史学会の合同会議で、渋沢栄一についてパネル報告を行い、合わせて合本主義研究会を開催しますので、その内容を踏まえて12月号でご紹介します。


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