史料館だより

34 陶磁器に描かれた近代 企画展「絵皿は語る」を皿に面白く見る

『青淵』No.727 2009(平成21)年10月号

皿多一郎の絵皿コレクション

 この秋の企画展では、皿多一郎氏のコレクションから約200点の陶磁器を紹介します。皿多氏は、その名の通り、絵皿を収集して30年のコレクターです。絵皿といっても様々ですが、皿多氏のコレクションは主に明治・大正・昭和の世相や風俗が描かれた陶磁器で、時代の流行やざわめきを感じるものです。本展では、絵皿という楽しい媒体を通して、渋沢栄一が生きた時代とも重なる明治・大正・昭和の日本の歩みと暮らしの移り変わりをご覧いただきます。

時代を表す器たち

 皿多氏は、時代を表す―つまり実際に起こった出来事に起因する―絵文様が描かれた器を収集されています。皿多氏が最初に出会った絵皿は、羽突きをする少女、春駒に跨る少年、鯛車を引く少女など、女性と子どもが遊んでいる様子が数多く描かれている銅版転写の皿でした。その後、開化風俗や戦争の一場面などが描かれている小皿を目にし、集めているうちに、「お皿で近代の歴史をたどってみよう」と思うようになられました。
 数が集まってくると、「描かれているものは何か」ということに興味を持ち始めます。皿多氏は、皿に描かれた内容と錦絵、写真、新聞など、同時代の様々な資料とを比較して、画題と製作年代を推定してこられました。

時代を表す絵文様―たとえば電信線―

◎飛脚電報競争図皿
飛脚電報競争図皿
飛脚電報競争図皿
 電信を背景に飛脚が走る図柄は、新旧の情報伝達手段の競争を画題としたものだと思われます。現在では景観を損なうとして嫌われている電線や電柱も、新しい文明を表す象徴的存在でした。

◎電信線鹿図皿
電信線鹿図皿
電信線鹿図皿
 出品作品中最大の皿。凛とした表情で月を見上げる鹿の図が描かれています。この皿に描かれているものの中で皿多氏の心を捉えたのは、夜空に白く光る電信線でした。

◎雪景図重箱
雪景図重箱
雪景図重箱
 吹絵で雪景色を表現した磁器製四段重。側面には富士、雪に埋もれた民家、蓋には側面から続く松の大木と鶴が描かれています。この器が皿多コレクションに加わっている理由である電線もまた、雪を抱いて静かな趣を添えています。

皿多コレクションにみる渋沢栄一の活動

◎貨幣尽くし文皿
貨幣尽くし文皿
貨幣尽くし文皿
 見込み一面に様々な貨幣を描いた手描きの大皿。明治4年の新貨条例で明治新政府が発行した1円金貨が一際大きく描かれています。新貨条例は日本の貨幣制度を両から円に統一するもので、1円金貨を原貨とする金本位制を採用するものです。渋沢栄一は、民部省改正掛の掛長として、同条例制定に尽力しました。

◎第五回内国勧業博覧会正門図皿
第五回内国勧業博覧会正門図皿
第五回
内国勧業博覧会
正門図皿
 明治36年4月、全国銀行大会に参加するために大阪を訪れた渋沢栄一は、併せて第5回内国勧業博覧会を視察しています。会場は大阪天王寺で、外国からの出品もある日本初の万国博覧会でした。

皿なるご来館を

 関連企画として、所蔵者の皿多一郎氏と石黒敬章氏(古写真収集家)にコレクター対談を、仲野泰裕氏(愛知県陶磁資料館副館長)に時代が描かれた器のメディア性についてご講演いただきます。みなさまのご参加をお待ちしております。
 なお、展示スペースの関係で、出品作品を前後期に分けて展示します。本展では、皿なるご来館を期待して、会期中2回目以降の入館料が割引になる「リピーター割引」も設定しました。前後期併せてご覧いただきますよう、ご案内申し上げます。
 

(学芸員 永井 美穂)

 ※掲載資料はすべて皿多一郎コレクションより


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