史料館だより

32 2009年度の渋沢史料館事業

『青淵』No.721 2009(平成21)年4月号

 今年度は、重点目標として、(1)資料整備事業の強化、(2)教育普及事業の強化、(3)国際化の推進、(4)博物館関係諸機関とのネットワーク強化(5)常設展示のリニューアル計画の検討を掲げ、以下に示すような事業を展開させます。

展示

 現在、春季企画展として「渋沢家の雛祭り」(2月21日〜5月6日)を開催中ですが、それ以降も様々なテーマで企画展・テーマ展を開催します。まずは、特別展「日中米の近代化と実業家」(6月7日〜7月31日)です。日中米三国の近代化・産業化の歴史を比較しながら新たな角度から見つめ直す展覧会です。
 政治の動きも視野にいれながら、交通・通信・生産・消費といったその時代に生きた人々の生活に影響を与えた変化に重点を置いて近代化の意味を考えていくと同時に、近代化・産業化の担い手となった主な実業家の役割を明確にします。
 次は、平和を考えるシリーズの一環で開催するテーマ展「渡米実業団(仮題)」 (8月15日〜9月23日)です。ちょうど百年前に渋沢栄一が団長となってアメリカに赴いた渡米実業団の意義、実態を、新出資料を織り交ぜながら紹介しようとするものです。
 秋季企画展は「皿田一郎コレクション 絵皿は語る 陶磁器で楽しむ明治・大正・昭和の世相と風俗」(10月3日〜11月23日)です。時代を物語る絵柄が描かれた絵皿から、市井の人々の目線で近代日本の歩みをたどるという展覧会です。
 そして来年春季の企画展として「日仏の平和の使者 渋沢栄一とアルベール・カーン(仮題)」を予定しています。渋沢栄一、アルベール・カーンという日仏の実業家の交流を示す資料から近代日仏交流史の一端を、そしてカーンが残した「地球文書館」の写真と映像のなかから、渋沢栄一とアルベール・カーンの生きた時代の「世界」、そして「日本の姿」を紹介します。
 その他に常設展示・書簡コーナー・書画コーナーの展示替えや来年度の秋季企画展〔埼玉学生誘掖会〕、テーマ展〔関東大震災復興〕の準備を同時並行して進めていくことにしています。

資料整備

 より一層の資料整備の強化をはかることとし、資料の保存という観点からと活用という観点から、具体的に次のような作業を行うことにしています。
 虫・黴対策としての収蔵庫及び書庫の除塵・防黴作業、資料のくん蒸、劣化した資料の修復、写真・映像フィルムの整理・保存処置、資料活用に向けての一次資料のマイクロフィルム・デジタル画像への代替化、複製資料の作製および製本などの調整作業等を行います。
 また、屋外資料として旧渋沢邸内の晩香廬、青淵文庫の保存処置ならびに兜稲荷社の石造狐の保存処置にも取り組む予定です。

教育普及(コミュニケーション)事業

 東京都教育庁が主催する「文化財ウィーク」に合わせた企画として、重要文化財の晩香廬・青淵文庫に関連させた建築関係の講演会や写真展、青淵文庫でのコンサートを行います。また、毎年好評を博している渋沢栄一命日記念の企画(入館無料デー、生前の栄一を映す映像の上映、展示の特別解説、クイズラリー)、学校単位での来館対応や依頼を受けての出張授業、教材開発といった学習支援事業、閲覧コーナーでの企画(近隣小学生の写生作品展示など)などを行います。
 新たな試みとして、当館ホームページ上でのプログラムを用意したり、一般市民向けのレクチャー形式の講座を開催します。また、これまでに文京学院大学・高校と開発してきた教育プログラム「企業シミュレーション講座」の地方(今年度は長岡)での開催も予定しています。
 年齢など対象者別に様々なプログラムを開発・実施し、より深く、広く渋沢栄一の事績・思想を伝えると同時に、史料館と来館者、また来館者同士のコミュニーケーションの場となることも期待しています。

図書等の刊行

 今年度は、昨年度実施した文化財関連の講演会等の講演集、3年に一度史料館の事業報告をまとめ刊行している渋沢史料館館報、毎年継続して発行している『渋沢研究』22号、国際化の推進の一環で進めている常設展示図録の英語版を刊行します。

資料収集

 例年通り、国内・外における渋沢関係及び実業史関係資料(原資料だけでなく、二次的媒体に変換されたものも含む)・情報(関係資料の所蔵先、関係の出版物、研究発表、聞き取り情報等)の集積を行います。

調査・研究

 今年度も、記憶を記録に残すオーラルヒストリーを渋沢家の方を中心に行いますが、特に今年度は渋沢雅英理事長のオーラルを行います。また、穂積歌子日記を読み解いていく研究会、象徴的な画像を元にバリエーションをもったストーリーを書き、近代化・産業化の様子そして渋沢栄一の事績を紹介するツール開発の調査・研究を進めます。
 また、調査・研究の一環として、資質の向上を含めた意味で博物館等の視察、各種研究会、学会、研修会へも従来通り積極的に参加します。

その他

 国指定重要文化財である青淵文庫・晩香廬の内部公開、ミュージアム・グッズの製作、防災対策事業、常設展示リニューアルにむけての準備・検討他に着手したいと考えています。
 すべての事業を通して、館の立つ地域にしっかり根ざしつつ、グローバルな視野に立った活動を目指します。これも渋沢栄一の事績に重なるところなのです。
 最後に、今年度も史料館の活動を暖かく見守り続けていただきますようお願い申し上げます。

(館長 井上 潤)


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