史料館だより

31 周年事業に想う

『青淵』No.718 2009(平成21)年1月号

 新年明けましておめでとうございます。

 昨年は、いくつかの周年事業との関係で再認識の年、交流の輪が広がった年、館の位置づけを再考した年となりました。
 ブラジルにおける日本移民100周年では、改めて渋沢栄一のブラジル移住事業への関わりと強い想いを知ることができました。
 東京商工会議所創立130周年では、東商自身が初代会頭・渋沢栄一の「道徳経済合一説」の考えに立ち返って行動することを行動指針として謳ったことをはじめ、様々な事業展開を通じて、大いに渋沢栄一の思想普及につなげてくれました。また、渋沢栄一が望んだ民間パワーの結集の必要性を強く感じさせもしてくれました。当館としても東商の様々な事業に協力することで、多くの方々との交流の輪が広がったように思います。
そして、「飛鳥山3つの博物館」の10周年の年でもありました。
  3館が知恵を絞ってまとめた10周年事業は、3館合同のホームページを立ち上げて「飛鳥山3つの博物館」をより広く知ってもらうところからスタートしました。続いて「王子・飛鳥山」を共通テーマとする企画展他、講演会、史跡めぐり、クイズラリーにスタンプラリーと12月までを10周年イヤーとして様々な行事が目白押しでした。
  3つの博物館の連携のあり方を再考する意味でも学芸員を交えて10周年を機に事業を合わせて協議し、連携の強化をはかることとしました。その成果をこの10周年イヤーに世の中に発信し、評価を問うことにしたのです。「飛鳥山3つの博物館」の連携関係が一歩ステップアップし、次の時代につなげていくことを期したのでありました。
 そこで、10周年を終えて、自館、そして3館それぞれの立場からの考えを述べてみたいと思います。
 自館に関して想うことは、渋沢史料館が地域に根ざすことの必要性についてです。当館は、決してテーマ・対象を北区周辺に絞った博物館ではなく、渋沢栄一の事績からも広く世界に視野を広げています。ただ、ここ数年、特に史料館が存立する基盤を固める意味からも地域にとけ込み、地域の人に愛され、地域の人が誇れる存在となるように、地域の方々と積極的に交流してきました。その地域に根差す必要を改めて強く感じた次第です。
 だからこそ、渋沢栄一が地域に残した事績、地域に対しての存在意義をもっと伝えなければならないとも感じました。その時に、この地域の位置づけを、渋沢栄一の事績と絡めて「近代産業発祥の地」「民間外交の拠点」「各分野にまたがっての社交の場」としてもっと強くアピールしていくべきだと思いました。北区としても、地域をもっとアピールすべき点を模索し、観光面で力を入れているだけに、「近代産業発祥の地」「内外賓客の集まる場・交流の場」は強くアピールできる要素だと思います。今後も当館は積極的に地域への働きかけを行っていきたいと思います。
 次は、「飛鳥山3つの博物館」として思うことです。
 まずは、年間の共同事業を通して、3館の連携強化がはかられ、「飛鳥山3つの博物館」の存在意義を強くアピールできたと思われます。ただ、それぞれの館は独自の活動をする中で共同事業を加えるということですから、毎年、同じように出来るというものではありません。まさに、周年事業のなせる業だったのです。
ただ、せっかくなので、可能な範囲を見出し、連携の姿を表わし続けることを望みたいと思います。
 ところが、労力、費用の面からの考慮だけではなく、事業自体に、自館への還元が少ないからという主張などで、地域との繋がりの部分は必要なしとし、地域密着が可能な館が対応して、出来ればその恩恵を被りたいというような考えがあるとしたら、本当の意味での連携ははかれないと思います。もし、そうであるならば、敢えて「3つの博物館」を謳う必要はなく、ただ、並んで建つ博物館が、個々の力を存分に発揮し、それぞれが鎬を削る方が、お互いの競争心が相乗効果を生み出し、「飛鳥山にある3つの博物館」ということで世の中に強くアピールできるのかもしれません。
 ただ、北区においてもアピールしたい資源として「飛鳥山3つの博物館」を強く意識されているだけに、3館をして地域に根差し、地域の人々に愛され、誇りに思われる存在としていきたいではありませんか。単館では、地域とのつながりをアピールできなくても、「飛鳥山3つの博物館」としてなら、密接に関わっていけるということもあります。残すべきところは、残し、維持し続けることが良いように思います。
 今後、自館、他館のスタッフとの議論を重ね、10周年を機に「『飛鳥山3つの博物館』は大きく飛躍したね!」と言われるように形づくっていきたいと思います。
 周年、つまり節目ごとの再考、見直しは、継続事業の場合、とても重要であり、改めて言うことではないのですが、単に振り返るだけでなく、次につながるプランを構築する中で、維持すべきところは残し、その時々に応じて変化を必要とするところは、適宜ふさわしい形を見出していくことが必要です。そのためにも広い視野に立ち、幅広く耳を傾け、その時の状況をしっかりと把握しつつ、適切なプラン構築に繋がる力を養っていきたいものです。

 最後に余談ですが...、わたしも今年の4月で、渋沢史料館に勤めて丸25年となり、節目の年を迎えます。今一度、自分自身が現在の史料館に相応しい存在か否かの見直しから将来に向けて望ましきあり様を再考したいと思います。

(館長 井上 潤)


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