史料館だより

27 新年を迎えて

『青淵』No.706 2008年(平成20)1月号

 新年明けましておめでとうございます。
 本年は、「飛鳥山3つの博物館」の10周年イヤーとして幕を開けます。1998年3月27日、設立主体、館種、テーマが異なる3つの博物館が飛鳥山に結集して、企画展のような一時的な共同事業ではなく、例えば「3館共通券」の発行など常設の共同事業を行う、当時稀な博物館群として生まれて早くも10年が経ったのです。それこそ官民一体となって各々が持ち得る力以上の力を発揮し、それが功を奏してオープンした年は、ものめずらしさも手伝って、多くの人々が足を運んで下さりました。ただ、翌年以降、入館者数も半減した状態で推移してきています。毎月1回定期的に開かれる3館連絡協議会でもその打開策を討議してきましたが、今一つ大きな変化は見出せませんでした。昨年の本誌でもお知らせしましたが、3つの博物館の連携のあり方を再考する意味でも10周年を機に学芸員を交えて事業の立案から協議し、3つの博物館の連携強化をはかることとしたのです。その成果をこの10周年イヤーに世の中に発信し、評価を問うことになりますが、「飛鳥山3つの博物館」の連携関係が一歩ステップアップし、次の時代に期待を寄せていただけるようになると思います。
 3館が知恵を絞ってまとめた10周年事業は、広報事業からスタートします。asukayama.jp というドメインも取得して3館合同のホームページを立ち上げて2月より公開します。まずはぜひアクセスしてみてください。
 「王子・飛鳥山」を共通テーマとする企画展が3月にはじまる他、講演会、史跡めぐり、クイズラリーにスタンプラリーと12月までを10周年イヤーとして様々な行事が目白押しです。先に紹介したホームページをはじめ、随時ご案内してまいりますので、楽しみにしてください。
 さて、その「飛鳥山3つの博物館」を構成する一つである当史料館も次のステップを踏む段階に達しています。また、2003年以降の中期計画の総括をする時期でもあります。
 1つは、渋沢栄一の事績をより立体的に示すために生きた時代の背景として、日本の近代化・産業化の様子を「実業史」として取り上げ、その「実業史」を核とした事業を展開しました。史料館としては、実業史展覧会及びその付帯事業で「実業史」そのものの模索も行ってきましたが、確立するには至りませんでした。国際化の推進という点では、常設展示の解説や館内の案内に英文表示をするようになったことがあげられます。
 2つ目は、教育普及、コミュニケーション活動の内容をさらに充実させたことがあげられます。小・中学校の利用が増加する中で、その対応をより積極的に考えるとともに、当館の有力な資源である歴史的建造物ならびに当時の様子を伝える旧渋沢庭園のロケーションを大いに活用してまいりました。
 3つ目は、当館所蔵資料の保存対策の本格稼動に加え、実業史研究情報センターとの連携をはかりつつ、資料を情報化させ、出来るだけ早く史料館利用者に提供可能にしていくことを推進しました。
 そして最後に、出前講演会、サロン・ド・ミュゼの試みといった積極的な広報事業も展開させました。
 常設展示でのフロアガイドの設置、インターネットを利用するなど新たな媒体を利用して、出来るだけ多くの方々とのコミュニケーションをはかりたいと考えている点、そして、常設展示のリニューアルは十分な準備対応が出来ず、この期間での実行を断念せざるを得ませんでしたが、次の中期計画のなかにも組み込み、検討を重ね、実行に移せるよう努力してまいりたいと思います。
 では、次の中期計画の案を簡単に紹介したいと思います。基本的には、目標の継続です。
 最初は、前期に引き続き「実業史」とは何かを追求し、具体的に皆さんに示すことを目指します。
 次は、永遠に続く所蔵資料の整備です。仮目録化が進み、内容が少しずつ把握できるようになってきましたが、さらに未着手のものに手をつけ、少しでも多く内容把握に努めると同時に、活用できるようにすることです。これは今後も実業史研究情報センターとの連携をはかりつつ、新たな検索方法を生み出し、資料利用者のニーズに出来るだけ応えられるようにしたいと思います。
 そしてコミュニケーション活動の強化ということになります。館の立つ地元東京都北区及びその周辺との関係から国際化の推進に伴い、広く諸外国との関係も博物館活動から関係強化をはかりたいと思います。
 具体的な事業の1つ1つの紹介は、別の機会に譲るとして、大まかなところを紹介すると、2009年・2010年のフランスのアルベール・カーン博物館との共同展覧会、2009年にそれぞれの国を巡回する日米中3国での近代化・産業化比較の展覧会等の開催です。
 また、通称「紙芝居プロジェクト」として、象徴的な画像を元にバリエーションをもったストーリーを書き、近代化・産業化の様子そして渋沢栄一の事績を紹介するツールの開発といったことが挙げられます。
 ここにあげた具体的な事業はそれぞれが個別に進められるだけでなく、前期に見送りとなった常設展示のリニューアル構想にすべて結集させるようにして、できれば渋沢栄一没後80周年を迎える2011年に実行できるよう計画したいと思っています。
 会員の皆様も史料館事業を支える柱の1つとして、ご意見などもお寄せいただき、私たちとともに史料館の将来についてお考えいただければ幸いに存じます。

(館長 井上 潤)


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