史料館だより

12 館長からのメッセージ −渋沢史料館ミッションステートメント−

『青淵』No.670 2005年(平成17)1月号

  明けましておめでとうございます。昨年11月に館長に就任いたしました井上です。新しい年を迎え、これから目指すべき渋沢史料館像を発表したいと思います。

1.目的

 渋沢史料館(以下、史料館という)は、「実業史」という概念を通して日本の近代化・産業化を明らかにさせつつ、その時代に生きた渋沢栄一の91年に及ぶ生涯をより広く伝える「場」である。博物館としての機能を十分に発揮し、調査・研究を基盤におきつつ資料の収集・保存、展示を含めた様々な教育事業を行う。とりわけ、資料・情報の集積・活用については、リソースセンター(リサーチセンター)と位置づける「実業史研究情報センター」との連携を密にはかりつつ、特徴ある博物館として活動する。

2.目指すべき事業

(1)資料の収集
 現在の史料館では、渋沢栄一の事績を示す資料群として『渋沢栄一伝記資料』の編纂を通じて収集されたものをはじめ、様々な経緯を経て収集されたもので一定の到達度を示すコレクション形成がなされている。今後は、これに加え渋沢栄一が生きた時代背景を示す資料も収集対象とする。また、これまで積極的には収集してこなかった海外の資料や、国内における各企業・事業体の経営資料等(原資料だけでなく、二次的媒体に変換されたものも含む)をも収集する。さらに、関係資料の所蔵先、渋沢関連の出版物、研究発表、聞き取り調査で得られた情報も可能な限り収集していく。

(2)資料の保存・活用
 収集された資料を半永久的に維持し続け、さらにいつでも活用できるよう整備を行う。これには、保存科学に関する知識や経験をもとに適切な処置を施す必要がある。具体的には破損資料の修復、酸性劣化対策(中性紙封筒・保存箱への収納、脱酸処理など)、虫・カビ対策(IPM、くん蒸など)、代替資料の作製(マイクロ化など)を行う。そして個別資料のデータ整備を行い、様々な角度から検索可能なデータベースの構築を図っていくのである。

(3)展示
 以前、渋沢敬三によって構想された「日本実業史博物館」の展示手法を現代のIT技術を駆使して再現する。単なる事実の説明に終始するのではなく、床・壁・天井をフルに活用した演出効果によって、歴史的背景、変化の要因といったものを考えさせる、探ろうとする気にさせる工夫を凝らす。
 また、フロアにはフロアスタッフを配置し、展示資料と来館者をつないでいく。所蔵する映像資料を自由に選択して観ることができたり、収蔵庫に収められている資料をも画像検索できるようにする。
 旧渋沢庭園も視野にいれ、残存する晩香廬・青淵文庫も展示資料として、有効活用する。
 日本の近代化・産業化を紹介したり、日本と諸外国との近代化・産業化を比較する展覧会を巡回させる。

(4)教育普及
 固定化した常設展示を補完したり一定のテーマをもって開催される企画展示に関連させて様々な教育プログラムを立ち上げる。たとえば、子ども向け対応ソフトを作製するなど各年齢層別に対応できるようにする。
 近年、「総合的な学習の時間」の導入など学校の利用が増加傾向にある。学校対応として、学校と協議した上で、様々なプログラムの構築、出張授業、貸出しキットの作製等を行う。
 また、史料館の所在地である東京都北区をはじめとして、渋沢所縁(例えば深谷、海外も視野にいれる)の各地域との交流や個人の記念館、企業博物館をはじめ渋沢と関連のある各機関との様々な交流計画(共同事業の開催、姉妹館の提携等)を実現させる。
 最後に、図録やガイドブック、ミュージアム・グッズ等、様々な情報発信手段の作製をする。

(5)調査・研究
 博物館活動の基底部分をなす活動であり、不断の綿密な調査・研究の成果を蓄積し、それを利用者の参考に供し、指針を与えられねばならない。そのためにも科学的・学術的根拠を持ち、確固たる責任を負わなければならないのである。
 渋沢の事績から史料館が対象とする研究分野として想定される、実業史・経営史・国際政治史・外交史、社会福祉史、教育史、思想史(儒教が中心か)、人物・生活史等の、それぞれの領域において個別テーマを設定し、学芸職員(学芸員・専門調査員)が中心となり、調査・研究を継続する。
 調査・研究を進めるにあたっては、学芸職員の個別研究はもとより、テーマによっては学芸職員間の共同研究、さらには他機関、外部研究者との共同プロジェクト(一定期間を設定)等最もふさわしい形で行う。
 また、極めて博物館学的な調査・研究も行う。例えば、保存科学、展示技術、教育装置に関してなどがそれであるが、これには、業者との密な情報交換も必要であり、できれば新たな展示技術なりが、史料館から発信出来ればと考える。
 調査・研究の成果は、研究紀要での発表をはじめ、展示、教育事業での実践を通じて公表する。さらに、先に述べたデータベースに組み込み、「渋沢事典」というべきものをつくる。

 以上、これから目指すべき姿をここに紹介しました。当面は各地で予定している実業史関連の展覧会を開催させることと、2008年4月を目標に据えてリニューアルを実行します。そのためにもスタッフの充実も図っていくこととします。

(館長 井上 潤)


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