史料館だより

10 『日米実業史競』展 開催される

『青淵』No.668 2004年(平成16)11月号

展示会場風景
 昨年より準備を進めてきました史料館初の海外展覧会は、9月9日から10月2日まで、アメリカのミズーリ州セントルイス市で開催されました。渋沢史料館、セントルイス・マーカンタイル・ライブラリー、ミズーリ大学セントルイス校国際教育センターの共催で、国文学研究資料館の後援と国際交流基金の助成をいただきました。
この展覧会は、現代の基盤が築かれた19世紀から20世紀初めの日本および米国における近代化、産業化の時期に、それを担った人々や産業化による生活の変化などに関する日米それぞれの経験を視覚的に比較することを目的としました。西部開拓の根拠地となったセントルイス市にちなみ、西部開拓とそれに匹敵する日本の開拓、また本年はセントルイス博覧会百周年でもあるので、当時の日本の参加にも焦点をあてて、以下の6つのテーマで日米を比較しました。

テーマ1...開拓・開発

 近代化の過程で国力増強が必要になり、農業等に適する資源が潜在する原野に期待をかけて開発が行われた。アメリカにおける西部開拓、日本における北海道開拓・東北振興に焦点をあて、開拓地が都市として成り立っていく過程を比較検討する。

テーマ2...交通(鉄道・汽船・郵便)

 都市間の物資・情報の移動は、汽船航路の開設、鉄道の敷設、近代的郵便制度の確立、電信の開通などによって、ネットワーク化された。やがてスピード化が求められ、鉄道・道路網の整備とともに物資輸送は水運から陸運へ移り、都市の盛衰にも強い影響を与えることとなった。日米両国のそのような状況を比較検討する。

テーマ3...ものづくり

 日本では、完成された西洋技術の直接的な移入によって短期間で近代化・産業化できた、とされる一方、旧来の伝統的な知識と技術があって初めて達成できたとも言われている。日本のみならず実はアメリカでも、産業技術が伝統的な技術と新技術の融合によって生み出されたことを見る。

テーマ4...都市の繁栄

 近代建築が立ち並び、交通機関をはじめ諸施設が整備され、人が賑やかに行き交う街の様子が近代化の象徴として、絵画に描かれ、写真に写される。都市が繁栄する要素とは何か? 近代化・産業化と都市化との関係を検討する。

テーマ5...生活

 近代化・産業化の波は、生活環境に大きな変化をもたらした。その中で暮らす市民の日常生活にはどのような影響が及んだのかを、変化したもの、変化しないものという視点から検討する。

テーマ6...一九〇四年セントルイス博覧会における日本とアメリカの出会い>

日本政府の方針は、「日本」イメージの演出と同時に、生糸や醤油、油、素麺、菓子などを出品し、今後の輸出を期待するというものだったが、実際にどう行われたか、展示の様子を紹介するとともに、アメリカでの反応を紹介する。 
 そしてこの日米共同展には、日本からは錦絵、写真、道具類など計107点を出品、アメリカからは版画、リトグラフ、図書やパンフレットなどの印刷物や道具類合計115点が展示されました。左の写真は会場の様子です。
 この展覧会のアイデアは昨年6月に生まれました。渋沢敬三の収集による実業史関係の資料と類似のものがアメリカにあることを、研究部の主催する渋沢国際セミナーがセントルイスで行われた際に知ったことが始まりでした。それからの1年余りに、日本からもアメリカからも訪問し合い、企画を練って準備してきました。テーマを設定するうちに、敬三の旧蔵コレクションの輪郭が、今までよりずっとはっきり姿を現しました。たとえば開拓のテーマは、セントルイスがアメリカ西部開拓の東の根拠地であったこと、また渋沢栄一の三本木農場の仕事は開拓に係わるものであることから考えられたものでした。展示に備えて当館所蔵史料の中の開拓関係の文献を調査すると、なんとそこには、日本実業史博物館の蔵書印が押されていました。敬三の「実業史」の視野の中には、開拓がきちんと納まっていたことを、私たちは改めて発見したのでした。
 この展覧会の題名を英語でなんとするか決めるのも大きな問題でした。実業史錦絵の中には番付などのように一種ユーモアをもって何かを競べるものが多いので、そこから日本語の題はすんなり決まりました。それを英語にするとなると、実業という言葉もすっきり訳せず、さらに競べる、というところがどうしてもうまくいきません。優劣を決め付けることになってしまいます。そこで展覧会の趣旨にもう一度立ち返って考え、Different Lands/Shared Experiences: The Emergence of Modern Industrial Society in Japan and the United Statesという長い題に到達しました。
 展覧会の開会に合わせて同名のシンポジウムが開かれました。非常に中身の濃いものであったので、何らかの形でまとめて出版したいと考えています。
 展覧会の図録は日英両語によるもので、近代化・産業化という巨大な時のうねりが日本にもアメリカにも大きな変化をもたらしたことを、視覚的に示しています。早くも大学の教材に使いたい、という問合せもいただいています。入手ご希望の竜門社会員は切手340円分を同封の上、史料館あてにお申し込みください。

(実業史研究情報センター長 小出 いずみ)


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