史料館だより

6 史料館展示の新たな試み

『青淵』No.664 2004年(平成16)7月号

「新収資料」と「ミニ収蔵品展示」

 展示は博物館の主要な活動の1つであり、博物館を最も特徴づけるものです。展示は博物館の「顔」と言っても過言ではないでしょう。
 当館の常設展示では、渋沢栄一の91年に及ぶ生涯と、携わったさまざまな事業、多くの人びととの交流を、当館所蔵の諸資料、説明パネル・図表や、館外機関から利用させていただいて作製した複製資料を活用して紹介しています。
 常設展示では、当館所蔵の資料を用いながら、さまざまな情報を発信していますが、所蔵資料のすべてを展示しているわけではありません。博物館の「心臓部」である収蔵庫には、その何倍もの資料が保存されているのです。このような収蔵庫に保存されている資料が「死蔵資料」とならないための活動を行なうことも、私たち学芸員の大切な仕事です。
 資料の活用にはさまざまな方法がありますが、一般的には常設展示の展示替えや、企画展、特別展、収蔵品展など、展示という形で活用することが多いのではないでしょうか。
新収・事業史
「新収資料 ―実業史資料―」

 当館では、企画展を除けば、通年の活動として、これまでも「手紙にみる幅広い交流」、「書画コーナー」の資料について随時展示替えを行ない、多くの渋沢栄一宛書翰、掛軸・扁額をご紹介しています。ただ、コーナーの性格上、書翰・書蹟資料という限定された資料をご紹介するにとどまっていました(もちろん、多くの書翰・書蹟資料をご紹介することには、ちゃんとした意味があります)。
 そこで、当館が2004年春から初めて行なっているのが、「新収資料」のご紹介と「ミニ収蔵品展示」です。これらは、「書画コーナー」のスペースを使用して、当館が新たに収蔵した資料をご紹介したり、常設展示では展示していない、さまざまな所蔵資料を展示するもので、もともと「書画コーナー」の使用方法として構想に含まれていたものですが、これまでは行なわれてきませんでした。

肖像
「ミニ収蔵品展示 肖像にみる渋沢栄一」

 まず、3月28日から5月5日まで、「新収資料―実業史資料―」と題して、当館が新たに収集した「実業史」に関する資料をご紹介しました。「実業史」については、これまでも「史料館だより」で述べられていますが、この展示では、「引札」、「鑑札」などの商業史資料、「モノつくり」・「職人」の錦絵、明治初年の物産取調べに関する物産図絵といった、渋沢栄一が経済・産業界で活躍した同時代の「実業史資料」をご紹介しました。
 文書資料が比較的多い当館の展示のなかで、特に錦絵資料は迫力あるものとなりました。今後はさらに「実業史」に関する資料の充実に努めるとともに、これらを当館の活動のなかで活用していきたいと考えています。
 次に、5月7日から(7月29日まで)は、「肖像にみる渋沢栄一」と題した「ミニ収蔵品展示」を行なっています。当館には文書資料のほかにも、渋沢栄一の肖像資料が収蔵されています。これまでも渋沢栄一の写真・銅像などを、常設展示等で見学された方もいらっしゃるかと思います。
 しかしながら、当館ではこれまで、肖像資料を集めた展示を行なったことはありませんでした。この展示では、渋沢栄一の銅像、木像、レリーフ、絵画を展示して、さまざまな材質、かたち、表情で表現された渋沢栄一をご覧いただくこととしています。また、あわせて肖像にまつわる写真資料を数点展示して、渋沢と肖像との関わりもご紹介しています。
 銅像・木像などの立体資料は、文書資料とは違った魅力・迫力をみせてくれます。渋沢栄一の銅像といっても、胸像や座像があり、また木像にも胸像と全身像があり、表情やかたちなど表現方法はさまざまです。
 私たち学芸員も、楽しみながら展示の準備を行なうことができ、また新たな発見も多くありました。今後は、この「肖像資料」についても、制作された歴史的背景や、制作者についての詳細な調査研究を行なっていきたいと思います。 
 以上のような「新収資料展示」や「収蔵品展示」は、すでに通年の活動として位置づけられている博物館も多いと思いますが、当館にとってはまだ、試行錯誤の状態です。これからも、当館の所蔵資料をさまざまなかたちでご紹介できるよう、努めていきたいと思います。今後も当館の活動にご期待ください。

(学芸員 関根 仁)


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