史料館だより

3 2004年度の史料館事業

『青淵』No.661 2004年(平成16)4月号

  昨年もご紹介しましたが、史料館の各年度の事業計画は、長期展望に基づく事業案に沿ってのものです。

  長期展望に基づいて設定した目標は、(1)綿密な調査研究活動の継続とそれに基づく積極的な資料・情報の集積、(2)専門スタッフの知恵と最新技術の結集による資料保存・活用環境の整備、(3)史料館内・外を通じてのコミュニケーション活動の充実、(4)国際化への対応、といったところを掲げています。
 さて、この目標に向うべく2004年度は次のような事業を予定しております。

【1.企画展事業】

 1つは、米国・ミズーリ大学セントルイス校マーカンタイルライブラリーにて開催する「日米実業史競(くらべ)」と題した展覧会(9月4日〜10月2日)です。9月9日にはシンポジウムも予定しています。
 他の一つは、例年秋に開催しています企画展です。こちらも今年は実業史関係のテーマで、当館企画展示室にて開催します。会期は11月以降となりますが、現在のところ未定です。

【2.教育普及(コミュニケーション)事業】

 ここ1、2年特に力をいれている同事業ですが、一つは、旧渋沢庭園も視野に入れての当館各施設を有効利用する活動です。恒例となった青淵文庫、晩香廬の内部公開(共に春3月20日〜5月5日、秋10月3日〜11月28日の土・日・祝日午後)、庭園ガイドツァー(北区飛鳥山公園整備工事の関係で、昨年度中の3月20日、3月27日に実施)などが挙げられ、また、昨年、青淵文庫の保存修理工事終了を機に実施し、好評を博したステンドグラス教室(5月29日〜6月19日の毎週土曜日午後)やミュージアム・コンサート(10月2日)を今年度も開催することとしました。
 次に、関連地域との交流計画の一環として、渋沢栄一の生地・ 深谷の見学ツァー(10月16日を予定)を計画しています。
 学校への対応という観点からは、例年行っている博物館実習生の受入れ(7月21日〜7月31日、7月26日は休館)をはじめ、総合学習の時間を利用しての学校単位での来館への対応、序々に要望が増えつつある出張授業などが挙げられます。ただ、学校への対応については、さらに多くの学校へ打診し、様々な要望に応えられるよう数種のプログラムを構築したり、貸出キットの作成を目指すこととしています。
 また、インターネットを使ったE―ラーニングの試験導入を予定している中でも、学校の授業を中心とした資料支援も考えています。
E―ラーニングについていえば、お茶の間にいながら古文書講座が受けられる「お茶の間古文書講座」も行う予定です。
 その他には、年齢層別に対応できるようなソフトの検討・開発、情報発信手段としてのミュージアム・グッズの作製、国際化対応としての英文解説作成、職員向け英語研修を考え、その他教育事業の調査・実験にも取り組む予定です。

【3.資料整備】

 1つは、保存という点から、虫・黴対策としてのくん蒸、傷みのある資料の修復、酸性劣化した資料への対策があり、利用の点からは、資料をデータ化し、検索・管理システムへの流入することや、代替資料の作成などが挙げられます。

【4.図書類の刊行】

 史料館活動を広く知らしめ、また、記録として残すために図書類を刊行します。多くは活字媒体のものですが、電子媒体のものなども視野に入れていきます。具体的には、曖依村荘小史、企画展図録、講演集、パンフレット類などです。

【5.資料収集】

 国内・外における渋沢関係及び実業史関係資料・情報の集積です。とりわけ実業史展覧会ユニット化にむけての関係資料の収集を考えています。

【6.調査研究】

 史料館活動の基底部分をなすものですが、例えば、博覧会からみた実業史。渋沢が、王子の地に製紙会社の工場を誘致したこともその一環として考えられる東京北郊地域における近代・産業化の問題。また、博物館学的研究として、写真資料の保存科学に関するテーマや、博物館資料の学習支援活動に関する事例研究等の問題について調査・研究を進め、後の活動につなげたいと思います。

【7.その他】

 現状の常設展示の修正ならびに2008年に予定している常設展示リニューアルにむけての準備などが挙げられます。
 以上、2004年度の史料館事業計画を紹介しましたが、とりわけ、重点目標として掲げているのは、海外展覧会の成功です。今後、国の内外を問わず各地で開催することを予定しているので、それにむけてのユニット展示としての確立を目指します。次に、当館としてもようやく緒についたコミュニケーション活動の内容をさらに充実させることです。インターネットを利用するなど新たな媒体を利用して、出来るだけ多くの方々とのコミュニケーションをはかりたいと考えています。また、当館所蔵資料の保存対策の本格稼動に加え、実業史研究情報センターとの連携をはかりつつ、資料を情報化させ、出来るだけ早く史料館利用者に提供可能にしていくことが当面の目標となっています。
 ※最後に、長年にわたり、史料館活動を通じて得られた情報トピックスを紹介してきました「渋沢史料館だより」ですが、今年度より、当財団の事業展開の推進を担う渋沢史料館、実業史研究情報センター、研究部のニューズレターとして各部持ち回りで様々な情報をお伝えしていくことになりました。ここにお知らせするのと同時に、今後も引き続きご愛読くださいますようお願い申し上げます。

(副館長 井上 潤)


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