情報資源センターだより

48 アーカイブズ国際会議で「企業の原点を探る」シリーズを紹介

『青淵』No.800 2015年11月号|情報資源センター 企業史料プロジェクト担当 松崎裕子

 情報資源センターでは2008年よりアーカイブズとアーキビストに関する国際的な団体である国際アーカイブズ評議会(ICA)の企業資料関係の専門部会ビジネス・アーカイブズ部会(SBA)の運営に関わっています。ICA/SBAは、ビジネス・アーカイブズのベストプラクティスを紹介し、企業における資料管理の振興を図り、資料管理の担当者であるビジネス・アーキビストの交流と情報交換を促進するために、毎年世界各地で国際シンポジウムを開催しています。

 今年(2015年)は6月15日~16日の2日間、イタリアのミラノ市内にあるタイヤ製造の有力メーカー・ピレリ社のアーカイブズと企業文化に関する事業部門、ピレリ財団を会場に開催されました。テーマは「最良のビジネス・アーカイブズを作り上げる」。会議にはヨーロッパ各国、アフリカ(ケニア、ガーナ)、中東(サウジアラビア、アラブ首長国連邦)、アジア(日本、中国、インド)、北米から約140名が参加、29の発表・講演が行われました。

連携によるビジネス・アーカイブズの展示のベストプラクティス紹介:森永製菓とたばこと塩の博物館、澁澤倉庫と渋沢史料館の事例

 筆者は「りゅうごと天使:日本での産業間・セクター間連携によるビジネス・アーカイブズ展示」と題した発表を2日目の午前中のセッションで行いました。この発表では森永製菓株式会社史料室とたばこと塩の博物館の連携展示である特別展「森永のお菓子箱 エンゼルからの贈り物」(2011年11月~2012年1月)と、渋沢史料館の展示「企業の原点を探る」シリーズ第一弾である澁澤倉庫株式会社と渋沢史料館の連携による企画展「澁澤倉庫株式会社と渋沢栄一:信ヲ万事ノ本ト為ス」(2012年3月~5月)を取り上げました。

 企業資料はながらく社史編纂のための原資料として保存管理されてきました。しかし、近年は社史編纂のみならず、さらに多様な活用方法への関心が高まっています。その一つが実業の歴史に関する展示です。二つの連携による展示事例はいずれも営利企業と非営利団体間、相違する産業間の連携という、これまでにない試みです。二つの企業資料展示は、企業の事業活動がデザイン文化の発展に貢献してきたこと(森永製菓とたばこと塩の博物館の連携事例)、企業が地域社会のさまざまな発展に寄与してきたこと(澁澤倉庫と渋沢史料館の連携事例)、さらに企業の経営理念、企業文化・企業倫理は企業資料を通じて継承されてゆくこと(森永製菓のエンゼルマーク、澁澤倉庫のりゅうごの印)といった点を多くの人々に伝えることに成功しました。

 企業資料の展示活動がCSR活動の一環として、企業価値向上にもつながる可能性を持つ点に対して、「このような連携にとっての鍵は何か」といった質問が発表直後、英国の金融機関のグローバル・アーキビストから飛び出しました。また会議終了数日後にはドイツの化学メーカーのアーキビストから、今年度アーカイブズとして初めて企業内で展示を企画しているが、この発表に刺激を受け、早速外部の博物館との連携の道を探り、社外でも展示が実現することになった、という知らせが届きました。ICA/SBAが日本と世界の企業アーカイブズの知的交流の場であることを深く実感しました。

「企業の原点を探る」シリーズ紹介

 さて、発表では上の二つの事例をさらに展開させた渋沢史料館の展示「企業の原点を探る」シリーズ(「渋沢栄一と王子製紙株式会社:国家社会の為に此の事業を起す」、「実業家たちのおもてなし:渋沢栄一と帝国ホテル」、東京商工会議所との「商人の輿論をつくる!:渋沢栄一と東京商法会議所」、「近代紡績のススメ:渋沢栄一と東洋紡」)も紹介いたしました。

発表スライドより発表スライドより
発表スライドより

ミラノ会議での発表成果物は財団ウェブサイトから発信

 ミラノの国際会議での発表内容は8月21日に、財団ウェブサイト内「世界/日本のビジネス・アーカイブズ─世界と日本の優良事例集」で公開しました。
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/index.html

これに先立ち、ICA/SBAのウェブサイトにて発表時のスライドも公開されております。
http://www.ica.org/download.php?id=3804(PDF 1,816KB)

どうぞご活用ください。


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