情報資源センターだより

14 企業史料ディレクトリ 日米アーカイブセミナー

『青淵』No.698 2007年5月号掲載|実業史研究情報センター 企業史料プロジェクト担当 松崎裕子/実業史研究情報センター長 小出いずみ

企業史料ディレクトリ

 『青淵』2005年8月号「渋沢財団実業史センターだより」でお知らせしておりました「企業史料ディレクトリ」のパイロット版が今年3月、当センターのウェブに掲載されました。
 「企業史料」は企業など私的な経営事業体の記録史料(アーカイブズ)ですが、現在は企業、大学などの研究機関、企業博物館などに散在して保存されています。「企業史料ディレクトリ」は、企業史料がどこにどれほどの規模で保存されているのかといった情報を集約して一覧化したものです。
 今回はパイロット版作成のためのアンケートやインタビュー調査にご協力いただいた企業・団体の情報を掲載しております。調査概要は公開していますが、個々の機関の情報については協力機関だけがIDとパスワードで閲覧できる仕様となっております。ご協力いただいたのは以下の会社・団体です。

◆事業会社・団体のアーカイブズ(In-house archives 自組織の資料を保存)
 味の素、伊勢丹、花王、キヤノン、共同印刷、清水建設、ダイキン工業、大日本印刷、竹中工務店、帝国データバンク、東京海上日動火災保険、トヨタ自動車、虎屋、ナカバヤシ、日本銀行、日本工業倶楽部、日本郵船、富士写真フイルム、松下電器産業、三井住友海上火災保険、森永製菓、山口銀行、ライオン、立正佼成会、和光堂

◆史料保存・学術研究機関(Repositories 組織外部に移管された資料を保存)
 神戸大学経済経営研究所、渋沢栄一記念財団付属渋沢史料館、住友史料館、東京経済大学図書館、東京大学経済学部図書館、一橋大学附属図書館、三井文庫、三菱経済研究所付属三菱史料館
 経営史研究には欠かせない企業史料は、企業のものであるとともに社会的にも貴重な遺産でもあります。企業がアーカイブズを適切に管理し、資料に基づき透明性を確保して説明責任を果たすことによって、経営的観点のみならず組織的観点や社会的役割といった観点から、企業活動を検証することが可能になるでしょう。企業の社会的責任が問われている昨今、アーカイブズを大切にすることで社会的責任の一端が果たせると考えられます。渋沢栄一は「仁義道徳と生産利殖は元来共に進むべきもの」として経済道徳合一説を主張しました。企業史料ディレクトリの編纂は、この栄一の主張を現代的に実践しようとするものです。
 今後はディレクトリに資料情報を掲載協力していただける企業・団体を増やしてゆき、将来的にはアクセス制限のない一般公開をめざしています。

(実業史研究情報センター企業史料プロジェクト担当 松崎裕子)

日米アーカイブセミナー

  5月9日から11日まで東京大学山上会館を会場に、「日米アーカイブセミナー」が開かれます。最初の2日間では、日米のアーキビストなど専門家が集まり、アクセスを手がかりに、両国の現状と課題を論じ合う予定です。3日目には公開フォーラム「アーカイブの公共性とアクセス:アメリカの経験、日本の経験」が開催されます。実業史研究情報センターは、この会議の実行委員会に協力する形で参画しています。
 この会議には、米国アーキビスト協会元会長トルディ・ハスカンプ・ピーターソンさんをはじめ米国アーカイブズ界のリーダーたちが参加します。日本からも各種のアーカイブズを代表する人々が講演しますが、企業史料については当センターの松崎裕子がスピーカーをつとめます。
 来日する講師のひとり、クラフト・フーズ社のグローバル・アーカイブズ部長ベッキー・H・タウズィさんは今回の講演で、アメリカには企業が記録史料を保存する義務を定めた法律はないが、「北米企業史料ディレクトリ」に掲載されているうちの多くの会社が、フォーチュン誌の「フォーチュン500アメリカの優良企業リスト」に入っている、と指摘しています。また、企業がアーカイブズを設置するのは、自らの遺産とブランドの歴史がもつ影響力や、長期的なビジネス価値のある記録を保存しアクセスを維持することによって得られる利点を理解しているからである、と語っています。多くの会社は、特許など知的財産問題の訴訟支援、商標保護、メディア対応、マーケティング、内部コミュニケーション、社内外に対するスピーチ原稿やプレゼンテーション資料の作成などにおいて、アーカイブズの機能に明確なビジネス利益を見ている、アーカイブズ設置の目的は、ビジネス目標達成を支援することである、とも述べています。
 資料を保存する目的が将来の利用にあることはいうまでもありません。資料が適切に保存され、きちんと整理されて利用できるようになっていなければ、アクセスは実現しません。その意味では、アクセスはアーカイブズを評価する究極の物指しであるということがいえるでしょう。アーカイブズは、組織や社会の記録を公共知として伝えてゆく仕組みです。社会に大きな影響を与える行政や企業などのアーカイブズの公共性は、組織運営や事業に関する資料の適切な保存と情報アクセスの提供によって、支えられます。
 歴史と記憶をめぐる文化が大きく異なる日米での経験を共有する今回の会議をとおして、アーカイブズが果たすべき社会的役割がより明確になると期待されます。

(実業史研究情報センター長 小出いずみ)


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