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「論語とそろばん」セミナー2012 開催報告【レポート】

日  程 2012/10/6〜12/10 開催地 日本・東京/東京商工会議所

▼ 第1回 今、渋沢栄一について考える 10月24日(水)
▼ 第2回 渋沢栄一の「論語とそろばん」思想と実践を読み解く 11月8日(木)
▼ 第3回 渋沢栄一と経営理念 11月20日(火)
▼ 第4回 経営者インタビュー「論語とそろばん」と現代の経営 12月10日(月)

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掲載日 2013年1月23日


【 第1回 】 今、渋沢栄一について考える 10月24日(水)

講師:渋沢雅英氏(渋沢栄一記念財団理事長) 聞き手:守屋淳氏(作家)

多数決ではなく全員合意を目指した渋沢栄一

渋沢栄一(1840-1931)の人生の各ステージを紹介しながら、作家の守屋淳氏が栄一のひ孫である渋沢雅英氏にインタビューをする形で行われた。

雅英氏は、栄一は閉塞感の漂う幕末の日本からフランスへ渡航し、良い点を進んで日本に取り入れた非常に前向きな人物だったと思うと話した。明治時代、日本の近代化が可能になった要因については、明治政府が「創造的破壊」を勇敢に行った結果ではないかと語った。また、栄一が独裁ではなく合本主義を貫いて約470社の企業の設立と経営に携わると同時に、多くの業界団体や社会事業にも関与できたのは、時間を割いてひとつひとつ丁寧に説明し相手を説得する力、粘り強さが要因であり、多数決ではなく全員合意を目指す姿勢を貫いたことで周囲の人々の信頼を得ることができたと指摘した。

インタビュー後半は栄一の嫡孫で雅英氏の父である渋沢敬三(1896-1963)を紹介した。敬三が経済界で活躍し、日本銀行総裁、大蔵大臣を務める一方、民俗学者としても活躍し、研究者の支援にも力を注いだエピソードなどを語った。敬三は2013年、没後50年を迎える。

また、雅英氏は関心がある『論語』の言葉として、「その以(な)す所を見、その由る所を観、その安んずる所を察すれば、人焉んぞ捜さんや」と「忠恕(ちゅうじょ)」(良心的で、思いやりがある)の二つをあげた。後者は、蒋介石が栄一を訪問した際に「日中関係は忠恕でなければならない」と栄一が説いたというエピソードも併せて紹介した。

会場との質疑応答では、栄一の価値観の原点と多くの社会的な難題に取り組めた理由について質問があり、雅英氏は「若い時から四書五経などを読んではいたが、民間経済人になると決心した時にプリンシプル(原理・原則)の必要性を強く感じ、『論語』を用いたのではないか。また、常に『日本の国』のためを考えて様々な活動をしていた」と話した。

<受講者の声>
渋沢理事長の実体験の話、ご家族としての話で、栄一の人物像に迫った興味深い話だった。(30代男性)
栄一の事だけでなく、敬三についても知ることができ、大変興味深かった。(50代女性)
同じ時代のかわり目である今のヒントを得られそうで、これから楽しみです。(20代女性)

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【 第2回 】 渋沢栄一の「論語とそろばん」思想と実践を読み解く 11月8日(木)

講師:田中一弘氏(一橋大学大学院商学研究科教授)

君子は義に喩り、小人は利に喩る

経営倫理と企業統治を専門とする田中氏が渋沢栄一の活動の根底にあった思想について講義した。田中氏の所属する一橋大学は、渋沢栄一、東京商工会議所とゆかりが深く、前身の商法講習所の設立やその後の様々な局面で東京商法会議所との関わりが深かったこと、また、渋沢が生涯にわたって同校の支援に力を入れたことなどが冒頭に紹介された。

田中氏は、渋沢の「論語と算盤(そろばん)」「道徳経済合一」「義利両全」などは「道徳と経済は本質的に一致する」と考える思想だと説明し、その内容について分析をした。

経済は、事業活動とその結果たる富・利益との二つに分けて考えることができ、富・利益それ自体は道徳的悪ではなく、むしろ道徳的善の促進に不可欠であり、また事業活動こそが道徳実現の道だと渋沢は説いており、究極の善とは「人々の生活を豊かにすること」すなわち公益だと考えていた。渋沢は、『論語』の「博施済衆」こそ仁の極致だとして、合本法による会社の普及・育成によって社会全体を富ますことでその実現を図っていた。道徳の面から考えても、誠実にふるまうことで事業活動を円滑に進めることができ、また他者の利益を第一、自己利益を第二におくことで自分も真の利益を得られることから、道徳は事業活動・利益と矛盾しないことを、渋沢の言葉や『論語』の引用とともに説明した。

ただし、渋沢は「儲かるから道徳的であれ」と言ったのではない。『論語』に「君子は義に喩り、小人は利に喩る」とある。人は本来誠実であるべきだから誠実にふるまうべきなのであって、「しかしそれで(こそ)十分、事業活動もでき、利益も上がるから、安心してそうせよ」というのが渋沢の本意だった。この点が重要なことだと田中氏は最後に強調した。

参加者からは、「昨今、資本主義の限界が語られる中で合本主義の何が注目されているか」との質問があり、田中氏は「集まった金の力だけでなく、経営に関与する人の力に注目するところが最も特徴的だ」と回答した。

<受講者の声>
「道徳経済合一説」の内容について、わかり易く解説して頂き、大変参考になりました。(40代男性)
アダム・スミスとの対比で、生身の人と人との関係を重んじる温厚な渋沢の道徳観がよくわかった。(60代)
経営の根本を考えるいい機会でした。(20代男性)

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【 第3回 】 渋沢栄一と経営理念 11月20日(火)

講師:守屋洋氏(中国文学者) 聞き手:田中一弘氏(一橋大学大学院商学研究科教授)

徳は事業の基なり

中国古典研究の第一人者の守屋洋氏が、渋沢栄一を支えたものとして、当時の日本人が学んだ『論語』を含む中国古典について講演し、続いて田中一弘氏との対談形式で渋沢の思想について議論をした。

守屋氏は、日本では江戸時代に武士が戦闘集団から統治へと変化する中で中国古典の政治論を「和魂漢才」で取捨選択しながら取り入れた歴史を説明した。日本人が学んだ大きなポイントは、(1)修己治人(与えられた場で与えられた責任を果たすべく己を磨く。リーダー論)、(2)経世済民(世を治め民を救う。政治論)、(3)応対辞令(人間関係や外交関係の対処法。人間関係論)の3つをあげた。

また、道徳経済合一説について、『菜根譚』の「徳は事業の基なり」との言葉を紹介し、「徳」の重要性を説明した。「徳」は複数の要素からなり、(1)「知(智)」は洞察力、深い理解であり、先人の知恵を古典、歴史から学び、事上磨練(仕事を通じて磨く)するもの、(2)「仁」は心の温かさ、思いやり、相手の立場になって考えるコミュニケーションのあり方で、日本人は赤の他人に対しても仁で接することができる、「結束力」が強みだと解説した。(3)「勇」は勇気、判断力で、日本人は前進できるが撤退の決断が不得意な一方、中国人は撤退と前進を同じウェイトで考えていると紹介した。(4)「義」は人としての正しい道、(5)「謙」は自分の地位や能力を鼻にかけない、人を見下さないことであり、その反対の傲慢は周りの反発を買うだけでなく、自分の進歩を止めると説明した。(6)「寛」は包容力、(7)「信」は嘘をつかない、責任を自覚し安請け合いをしないこと、などが必要だとした。

会場からは「孔子や孟子の生きた春秋戦国時代の中国と同じように、現在は複雑な国際関係にある。現代に生きるアドバイスは」との問いに、「力によって制圧しようとする覇道政治ではなく、困難であっても、徳によって感化する王道政治を掲げねば堕落する」と守屋氏は答えた。

<受講者の声>
守屋洋先生の人間味あふれる話に感動した。(50代男性)
中国古典の伝えようとする事と渋沢栄一流の考え方の繋がりが分かり易く説明された。(50代男性)
古典をわかり易く読み説いていただけたのが初心者の私にはよかった。(30代女性)

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【 第4回 】 経営者インタビュー「論語とそろばん」と現代の経営 12月10日(月)

講師:和田洋一氏(スクウェア・エニックス・ホールディングス代表取締役社長)
聞き手:守屋淳氏(作家)

グローバル化の時代だからこそ『論語』が使える

最終回は実践編として、現代のゲーム業界の最先端でさまざまな経営課題や新たな取り組みをしているスクウェア・エニックス・ホールディングス社長の和田洋一氏と作家の守屋淳氏との対談形式で、企業を経営する中での「論語とそろばん」の考え方について議論された。

和田氏は、現代においてこそ『論語』を重視すべき理由として、まず法の支配と法治主義の問題点について指摘した。政治で言えば政策を実行する際の正当性の議論が重要であるにも関わらず、法律が通りさえすればよい、という思考停止になりがちだ。そのため、決定プロセスが不透明になり、細かい儀礼的な手続きばかり要求するようになってしまっている。経営やコンプライアンスについても同様の問題があるため『論語』で語られている道理が必要だと感じていると話した。

また今回改めて『論語』を読み返し、『論語』は行動的でありまた現実的である点に共感を覚えたことなどを紹介した。そして、現代はグローバル化、インターネットの時代になり、フェイスブックを始めとするSNSなどによって、従来に比べ圧倒的な人数と相対で接することができるようになった。だからこそ、信用がより重要性を増しており、それを培うために『論語』が使えると説明した。そして、社会環境が急速に変化する中でも企業が信用やブランドを保つためには、過ちを直ちに正すことを徹底する必要があるとした。

<受講者の声>
実際の日本、世界の大きな流れを考えられる素晴らしいセミナーでした。(20代女性)
「信頼」「人を信じる」という渋沢の思想の根幹を大切にした進行がとても分かりやすくうれしかったです。(20代)
時代を経て、渋沢翁の思想が生きている事が確認出来た。(60代男性)

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