研究センターだより

42 二つのシンポジウム(大阪と東京)/日韓中米企業家精神比較研究プロジェクト

『青淵』No.795 2015(平成27)年6月号

今回は、1)渋沢史料館企画展「近代紡績のススメ―渋沢栄一と東洋紡―」の関連シンポジウムと、2)日韓中米企業家精神比較研究プロジェクトについてご紹介します。なお合本主義プロジェクトの進捗状況につきましては、次回9月号で詳しくお知らせいたします。

1. 二つのシンポジウム(大阪と東京)

渋沢栄一は明治時代、五代友厚、松本重太郎、藤田伝三郎ら大阪財界人と協力して、江戸時代に「天下の台所」と呼ばれた大阪と、遷都後の東京とのバランスの取れた日本経済の発展に尽力しました。4月16日(木)午後6時30分から9時まで、大阪の綿業会館で開催しましたシンポジウム「渋沢栄一と大阪~関西の企業との関わりを中心に~」では、大阪紡績(現在の東洋紡)や京阪電気鉄道など関西企業の設立や経営への渋沢の関わりに注目し、その今日的な意味を考えました。

パネリストは、津村準二氏(東洋紡株式会社相談役)と繊維産業に詳しい阿部武司氏(国士舘大学政経学部教授)、佐藤茂雄氏(京阪電気鉄道株式会社最高顧問)と鉄道事業に詳しい老川慶喜氏(跡見女子大学観光コミュニティ学部教授)という実務家と研究者の組み合わせで、司会の宮本又郎氏(大阪大学名誉教授)のユーモアあふれる軽妙な進行により、深みのある内容になりました。

また4月18日(土)午後1時30分から4時30分まで渋沢史料館会議室で開催しましたシンポジウム「渋沢栄一と東洋紡」では、東洋紡株式会社の100年史や130年史に執筆された4人のパネリストが、渋沢栄一と大阪紡績の設立(宮本又郎氏)から、三重紡績について(村上義幸氏・東洋紡社史編集室)、合併後の東洋紡績の発展(平野恭一氏・神戸大学大学院経営学研究科准教授)、「物理」から「化学」への転換を遂げたといわれる現在の東洋紡について(大田康博氏・徳山大学経済学部教授)、報告を行いました。休憩をはさんで、司会の阿部武司氏を交えて、同社に伝わる渋沢栄一の精神をめぐって、活発なパネルデイスカッションが行われました。

二つのシンポジウムを通じて、(1)「順理則裕」と「敬事学而」いう渋沢栄一の言葉が、130年を超える歴史を持つ東洋紡株式会社の中に生き続けていること。(2)栄一は東洋紡や京阪電気鉄道だけでなく、大阪瓦斯、大阪証券取引所、大阪銀行集会所、大阪堂島米会所など数多くの経済組織にかかわり、大阪を中心とする関西と東京を中心とする関東が協力し合い日本経済の近代化を達成させるため、東西の資本と人材の融合を図ったこと、(3)栄一の大阪との関わり方は、今日の地方創生を進めるにあたって示唆深いこと、などを理解することができました。

2. 日韓中米企業家精神比較研究プロジェクト

このプロジェクトの目的は、21世紀のアジア太平洋政治経済をけん引する日本、韓国、中国、米国4ヵ国における企業家および企業家精神が果たす役割について様々な視点から分析をすることです。各会議では三つのセッションが設けられ、4ヵ国から1人ずつ研究報告を行い、それに対して2人の討論者がコメントし、その後参加者全員で討論を行う形式です。参加者全体で20~25人の比較的小さなグループでたっぷり時間を取って議論します。報告者は会議後、論文を手直しして、論文集として、南京大学出版会から英文でシリーズとして刊行します。2日間のセミナーでは半日、企業や名所旧跡を訪れ、参加者同士の懇親を深めます。こうした会議を通じて、世代を超えたグローバルな知的ネットワークを築くことができると考えています。

ジョエル・グラスマン氏(ミズーリ大学セントルイス校国際研究センター長)と当財団が2005年から開始した渋沢北米セミナーに、2009年、趙曙明氏(南京大学商学院校長)が加わり日中米企業家精神比較プロジェクトに、さらに2014年6月の南京会議からソン・キ氏(全南大学大学院ビジネススクール研究科長)が参加し、4ヵ国の枠組みに拡大したものです。すでに2009年の研究成果は、『企業家とグローバル・コミュニティの創出―中国、日本、アメリカの事例』(ジョエル・グラスマン、木村昌人、趙曙明編、南京大学出版会、2014年―英文)として刊行しました。その後、2012年のセントルイスでは、「太平洋地域の政治経済における企業家の役割」、2014年の南京では、「企業家と社会変化」と題する会議を行い、現在、論文集刊行へ向けて編集作業を行っています。

2016年は、韓国光州市全南大学大学院ビジネススクールで5月28日(土)、29日(日)の2日間、「企業家と社会的責任」という統一テーマの下、(1)企業家とフィランソロピー、(2)環境問題への取り組み、(3)経営倫理の三つのセッションを設け、会議を開催する予定です。この会議には、米国ミズーリ州カンザスシティのカウフマン財団からロバート・ストローム博士が参加します。同財団は、最近、企業家精神とフィランソロピーの関係について強い関心を抱き、既に研究プロジェクトを進めています。また韓国の実業家も同セミナーには関心を示していますので、真の意味での実業家と研究者の融合した会議になることが期待できます。

主幹(研究)木村昌人


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