研究センターだより

41 合本主義プロジェクト/「論語とそろばん」セミナー・読書会/2015年企画展関連シンポジウム

『青淵』No.792 2015(平成27)年3月号

今回は、最近の研究部の活動から3つ紹介いたします。

1. 合本主義プロジェクトの次へのステップ

合本主義についてのうれしいニュースが2つあります。まず渋沢栄一の合本主義に関する国際研究の成果を報告するプロポーザルが、3年に一度開催する世界経済史学会2015年京都大会(8月3日から7日まで京都国際会議場にて)で、パネルセッション報告に採択されました。数倍のプロポーザルの中から選ばれたことからも、渋沢栄一の合本主義に対する関心が、グローバル社会で着実に広がっていることがわかります。今回はアジアで初めての開催、かつ2000人を超える経済史、経営史の研究者が世界中から集まりますので、渋沢栄一の精神や行動をアピールする絶好の機会になると思われます。

もう一つは、『グローバル資本主義の中の渋沢栄一:合本キャピタリズムとモラル』(パトリック・フリデンソン、橘川武郎編著、東洋経済新報社、2014年)の英語版について、カナダ有数の出版社、トロント大学出版会から、2人の査読者が本書を高く評価しているといううれしい連絡がありました。出版に向けて追い風になり、詰めの作業に入ります。ここからまだまだ長い道のりが残されていますが、来年の今頃には英語版が刊行される予定です。

昨年秋から、島田昌和(文京学院大学教授)と田中一弘(一橋大学教授)にプロジェクトリーダーになっていただき、合本主義プロジェクト第2フェーズ:新興国ヴァージョンを開始しました。まず、東南アジアのタイとインドネシア、中東のトルコの3国を選び、渋沢栄一の合本主義が、グローバル経済の中で、これら3国の経済社会にとってもモデルとなりうるかという研究を進めています。タイとトルコは、長い歴史を持つ社会が、さまざまな障害と文化的な摩擦を引き起こしながらも西洋資本主義を取り入れ、着実に経済を発展させています。またインドネシアは、200年以上にわたるオランダの植民地時代を経て、第二次世界大戦後独立し、多民族の活力を引き出し、1億数千万人という巨大な国家の経済を運営しています。儒教の教えにのっとった渋沢栄一の合本主義が、歴史、人種、文化の異なるこれらの国々にどのような示唆を与えることができるのか、という問題意識に立って、議論を進めていきたいと考えています。2015年1月13日には、文京学院大学で、タイとインドネシアの研究者数名が集まり、最初のブレーンストーミングを行いました。初めてでしたので、渋沢栄一に対する理解を深めるために、渋沢史料館を見学していただきました。また4月25日~26日には、トルコのイスタンブールで、ジョーンズ、フリデンソン、橘川3教授が加わり、初のブレーンストーミングを開催する予定です。

これに続いて、合本主義プロジェクト第3フェーズ、東アジア儒教圏(中国、韓国、ベトナム、日本)ヴァージョンを2016年から開始する予定です。

2. 「論語とそろばん」セミナーと読書会

昨年12月6日にウィークエンド・セミナーを開催しました。これは今までの4回連続講座の参加者のアンケートからヒントを得て、新たに設けた1日集中セミナーです。「平日の夜では、なかなか参加できない」、「週末に集中的に史料館見学と講義を組み合わせれば参加できる」などのご希望を取り入れて、土曜日午前10時から午後6時まで渋沢史料館で行いました。午前中の史料館見学に始まり、午後には3つの講義を配置し、通常の4回連続「論語とそろばん」セミナーのエッセンスを1日に凝縮した集中講座にしました。定員40名を超える参加者があり、中には地方から来られた方もいました。皆さん最後まで熱心に聴講してくださいました。長時間にわたるので、途中長めの休憩時間をとりましたら、アンケートには休憩時間を短くして、もっと講師の話を聞きたかったという要望さえありました。

3.  2015年企画展関連シンポジウム

当財団史料館の企画展「企業の原点を探る」シリーズでは、今春は東洋紡を、今秋は第一銀行を中心とした銀行業を取り上げます。これに関連して4月16日(木)、大阪の綿業会館にてシンポジウム「渋沢栄一と大阪―関西企業とのかかわりを中心に」、4月18日(土)、東京の渋沢史料館にてシンポジウム「渋沢栄一と東洋紡」を開催します。また秋には、都内だけでなく、地方でもシンポジウムを開催したいと考えています。この準備のために、財団職員向けの勉強会を適宜、開催する予定です。

(研究部・木村昌人)


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