情報資源センターだより

27 『渋沢栄一伝記資料』をくまなく探したい

『青淵』No.737 2010年8月号|実業史研究情報センター長 小出いずみ

 渋沢栄一について何か知りたい時にまず調べるのは、『渋沢栄一伝記資料』です。この資料集の編纂と出版は栄一記念事業の柱の一つで、事業の源となった雨夜譚会は1887(明治20)年、栄一が経歴を訓話として語る集まりに始まり、やがて伝記編纂の企てへと発展しました。渋沢敬三が委員長として雨夜譚会に加わった1926(大正15)年、「御伝記編纂」から「後世の人が公平に書くまで材料のみ集めて置く」(『伝記資料』第57巻709頁)ことに方針転換し、伝記ではなく資料集の編纂という性格が与えられました。書籍、新聞切り抜き、手紙、写真・アルバムなどの資料を各方面から集めて整理し、戦災を潜り抜けて漸く戦後に刊行されました。

 『伝記資料』本編(1-57巻)の内容は、まず三つの時期に大別され、それぞれについて事業分野別に章がおかれ、その下に節、款、番号という体系になっています。右頁に章の題名表を挙げましたが、個々の企業名や事業名が見出しとなるのは、款やその下の番号のところなので、これを見てもどの事業の関係資料がどこに収録されているのか、直ぐにはわかりません。

 個々の見出しのもとには、綱文(日付けと出来事の要約)の後にそれを裏付ける資料が集められています。綱文を辿っていくだけでも、事業の概要が把握できる仕組みになっていて、目次には見出しに加え綱文が並んでいます。たとえば「第2編 第1部 第3章 第13節 第1款 浅野セメント株式会社」の見出しのもとには、「明治16年4月16日 是日工部省工作局深川セメント工場貸下浅野総一郎ニ許可セラル。...」以下、明治42年栄一の監査役辞任までの三つの綱文があります(第11巻560-573頁)。最初の綱文の後には、『明治前期財政経済史料集成』、「東京府日誌」、「先賢墨蹟」、『竜門雑誌』、『浅野総一郎』と『大川平三郎君伝』の伝記、『中外商業新報』、栄一書翰、「浅野セメント合資会社考課状」「浅野セメント合資会社総会提出議案綴」、栄一日記などの資料から、綱文に関連する部分が収録されています。

 57巻まででも総計4万頁近くに上るこの資料集を使うために、第58巻には「事業別年譜」が編成されています。事業ごとに綱文を年代順に集めたもので、何巻の何頁にその綱文が出ているかを示し、索引のように使うことができます。しかしこの年譜も2段組297頁、その事業目次が3段組で21頁にわたっています。栄一の活動の幅広さを物語ってはいますが、何かを知りたい、調べたい時に、ほしい情報が記載された箇所に行き着くのはなかなか骨が折れます。

 大部で複雑な『伝記資料』をくまなく探したい。周辺も含む資料集であるゆえに、また栄一の幅広い活動ゆえに、ここには眠っている情報がたくさんあります。それを使いやすい形で提供するために、「デジタル伝記資料」を作成中です。現在、全文テキストになった『伝記資料』を検索するシステムを財団内部で実験的に動かしています。検索語が1-57巻のどこにあるかを示す単純な仕組みですが、栄一情報の探索に威力を発揮しています。『伝記資料』が栄一記念事業として編纂された趣旨に基づき、皆さまにも広くお使い頂けるよう、公開準備を進めているところです。

伝記資料の章立て

( )内の数字は巻

第1編 在郷及ビ仕官時代<天保11年-明治6年>

  第1部 在郷時代 
   第1章 幼少年時代(1)
   第2章 青年志士時代(1)
  第2部 亡命及ビ仕官時代 
   第1章 亡命及ビ一橋家仕官時代(1)
   第2章 幕府仕官時代(1‐2)
   第3章 静岡藩仕官時代(2)
   第4章 民部大蔵両省仕官時代(2‐3)

第2編 実業界指導並ニ社会公共事業尽力時代<明治6年-明治42年>

  第1部 実業・経済
   第1章 金融(4‐7)
   第2章 交通(8‐9)
   第3章 商工業(10‐15)
   第4章 鉱業(15)
   第5章 農・牧・林・水産業(15)
   第6章 対外事業(16)
   第7章 経済団体及ビ民間諸会(17‐23)
   第8章 政府諸会(23)
   第9章 一般財政経済問題(23)
  第2部 社会公共事業
   第1章 社会事業(24)
   第2章 国際親善(25)
   第3章 道徳・宗教(26)
   第4章 教育(26‐27)
   第5章 学術及ビ其他ノ文化事業(27)
   第6章 政治・自治行政(27‐28)
   第7章 軍事関係事業(28)
   第8章 其他ノ公共事業(28)
  第3部 身辺
   第1章 家庭生活(29)
   第2章 栄誉(29)
   第3章 賀寿(29)
   第4章 同族会(29)
   第5章 交遊(29)
   第6章 旅行(29)
   第7章 実業界引退(29)
   第8章 住宅(29)
   第9章 雑資料(29)

第3編 社会公共事業尽瘁並ニ実業界後援時代<明治42年-昭和6年>

  第1部 社会公共事業 
   第1章 社会事業(30‐31)
   第2章 労資協調及ビ融和事業(31)
   第3章 国際親善(32‐40)
   第4章 道徳・宗教(41‐44)
   第5章 教育(44‐46)
   第6章 学術及ビ其他ノ文化事業(46‐48)
   第7章 行政(48)
   第8章 軍事関係諸事業(48)
   第9章 其他ノ公共事業(49)
  第2部 実業・経済
   第1章 金融(50‐51)
   第2章 交通・通信(51‐52)
   第3章 商工業(52‐54)
   第4章 鉱業(54)
   第5章 農・牧・林・水産業(54)
   第6章 対外事業(54‐55)
   第7章 経済団体及ビ民間諸会(56)
   第8章 政府諸会(56)、補遺・追補(56)
  第3部 身辺 
   第1章 家庭生活(57)
   第2章 栄誉(57)
   第3章 賀寿(57)
   第4章 同族会・同族会社(57)
   第5章 交遊(57)
   第6章 旅行(57)
   第7章 実業界引退(57)
   第8章 雨夜譚会(57)
   第9章 終焉(57)
   第10章 葬儀・法要(57)
   第11章 遺言(57)
   第12章 相続(57)
   第13章 追悼会(57)
   第14章 記念事業(57)
   第15章 雑資料(57)

事業別年譜

 総目次(58)、五十音順款項目索引(58)

別巻

   日記(別1‐2)
   集会日時通知表(別2)
   書簡(別3‐4)
   講演(別5)
   談話(別5‐8)
   余禄(別8)
   来簡抄(別8)
   発信人名録(別8)
   竜門雑誌総目次(別8)
   遺墨(別9)
   写真(別10)

(実業史研究情報センター 小出いずみ)

*渋沢青淵記念財団竜門社編、渋沢栄一伝記資料刊行会刊。全58巻、別巻全10巻。編纂主任は土屋喬雄。第1巻は昭和19(1944)年に岩波書店から刊行、戦後昭和30(1955)年に渋沢栄一伝記資料刊行会から再刊、以後の巻も同会から刊行。昭和40(1965)年に本編刊行終了、続いて別巻が渋沢青淵記念財団竜門社より刊行、昭和46(1971)年に完結。以下『伝記資料』と表記。


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