史料館だより

48 2013年度の渋沢史料館事業

『青淵』No.769 2013(平成25)年4月号

 まず、今年度は以下の重点目標を掲げます。(1)企画展を通して展示手法等を試行する。(2)史料館再構築構想を確定させる。(3)昨年度整備した史料館運営サポート体制をさらに充実させる。そして、ほとんどは継続事業となりますが、以下のような事業を展開させます。

展示

 渋沢栄一の事績・思想及び生きた時代等、周辺を伝える展示を行います。常設展示では、書画コーナーの展示替え(1)として「『徳川慶喜公伝』と渋沢栄一」とする収蔵品展を予定しています。
 2013年、徳川慶喜の没後100年を迎えます。この節目の年に、当館所蔵の『徳川慶喜公伝』の編纂(へんさん)に関する資料を中心に紹介しながら、徳川慶喜と渋沢栄一との関係、そして『徳川慶喜公伝』編纂への栄一の思いを伝えたいと思います。
 さらに、書画コーナーの展示替え(2)として館蔵書画の展示や、テーマは未定ですが、定例で書簡コーナーの展示替えを行います。
 企画展示では、現在、春季企画展「渋沢栄一と王子製紙株式会社〜国家社会の為に此の事業を起す〜」(3月16日〜5月26日)を開催中ですが、2013年度秋季企画展として、祭魚洞・渋沢敬三の没後50年を記念した企画展「祭魚洞祭」を開催します。実業家・渋沢栄一の嫡孫として生まれ、明治・大正・昭和を懸命に生き、67歳にして生涯を閉じた、好奇心豊かで学問好きな経済人・渋沢敬三の多彩な人間像を紹介します。
 関連事業の一つとして、10月下旬には、敬三がこよなく愛し、民俗学研究の原点ともなった奥三河の伝統芸能「花祭」を旧渋沢庭園に招き、公演を行う予定です。
 2013年度春季企画展としては、「企業の原点を探る」シリーズの一環である。「帝国ホテルと渋沢栄一(仮)」の開催を予定しています。(1)帝国ホテルの設立意義、(2)帝国ホテルに関わった人々、(3)帝国ホテルがどのように使われたか、(4)帝国ホテルに求めているものは何か? といった視点等から紹介する予定です。
 渋沢栄一が関与した日本の各業界の源流となる企業は多く、その成り立ちから必ずしも好調に事が進むことばかりでないその後の経営動向を探ると同時に、その中での渋沢栄一の行動・考えを示し、ただ単に、過去の事績を紹介するだけでなく、現在そして将来の企業、財界のあり方を考えるヒント等が提供できればと考えています。
 その他に重要文化財・青淵文庫内での展示等も考えています。

資料整備

 より一層の資料整備の強化を図ることとし、資料の保存という観点からと活用という観点から、情報資源の大元を整備します。虫・黴(かび)対策としての収蔵庫及び書庫の除塵・防黴作業、資料のくん蒸、劣化した資料の修復、写真・映像フィルムの整理・保存処置、美術工芸資料の整備、資料活用に向けての一次資料のマイクロフィルム・デジタル画像への代替化、複製資料の作製および製本などの調整作業等を行います。
 また、館内環境調査も行う予定です。

教育普及(コミュニケーション)事業

 学校や企業からの来館対応や依頼を受けての出張授業、教材として栄一をわかりやすく伝える下敷きの作製などの学習支援事業、閲覧コーナーの書籍の充実をはじめ、同コーナー壁面を使用し、当館情報や渋沢関連情報発信のためのパネル展示などを行います。
収蔵品展とも関連しますが、『徳川慶喜公伝』と渋沢栄一に関する講座・講演会も開催します。
 また、重要文化財の2棟の建物を活用した企画を充実させます。案内の充実のみならず、青淵文庫でのコンサートや、晩香廬での暖炉機能の再現、建物だけでなく、旧邸跡を巡るツアー等を行う予定です。渋沢栄一命日記念の企画(入館無料デー、生前の栄一を映す映像の上映、展示・建物の特別解説、記念品の贈呈等)を今年もこれまで同様に行います。
 さらに、定着した飛鳥山3つの博物館合同事業として、これまでのHPの運営、区民まつりへの参加、街巡りに加え、飛鳥山をベースにした座学「飛鳥山学」を立ちあげます。これらを通して地元・東京都北区へさらに溶け込んでいくことに期待したいと思っています。

図書等の刊行

 今年度は、これまで館の事業報告のみであった館報を論文や資料紹介、調査報告等を加えたものとして刊行予定です。さらに、2012年度企画展(開館30周年記念企画展 渋沢栄一再発見!〜渋沢史料館のあゆみと名品)講演集、毎年継続して発行している『渋沢研究』26号の発行等を予定しています。

資料収集

 例年通り、国内・外における渋沢栄一及び実業史関係も含む周辺事象に関係する資料(原資料だけでなく、二次的媒体に変換されたものも含む)・情報(関係資料の所蔵先、関係の出版物、研究発表、聞き取り情報等)の集積を行います。

調査・研究

 今年度も、日々増加傾向にありますレファレンス対応の調査に加え、渋沢栄一および周辺に関するオーラルヒストリー、穂積歌子日記の翻刻により内容を読み解く作業を継続させます。
 さらに、調査・研究の一環として、資質の向上を含めた意味で博物館等の視察、各種研究会、学会、研修会へも例年通り積極的に参加します。

その他

 国指定重要文化財である青淵文庫・晩香廬の内部公開と同時に、今年度は、ミュージアムグッズ製作、渋沢研究会支援などを進めていきたいと思います。
 最後に、今年度も史料館の活動を暖かく見守り続けていただきますようお願い申し上げる次第です。

(館長 井上 潤)

一覧へ戻る