情報資源センターだより

57 北欧、インドでの企業アーカイブズ会議に参加、国際的ネットワークを広げた1年

『青淵』No.827 2018年2月号|情報資源センター 企業史料プロジェクト専任アーキビスト 松崎裕子

 情報資源センターでは、渋沢栄一の「道徳経済合一説」を現代のビジネス活動のなかで実現するための機能・資料として、企業組織のアーカイブズを重要視し、その振興のためのプロジェクト「企業史料プロジェクト」に取り組んでいます。企業活動の過程で生まれる紙・デジタル媒体による文書記録やモノ資料のうち、長期的に価値を持つものを整理してデータベース化等を行う、すなわちアーカイブ化して利活用を可能にすることは、二つの点で現在のビジネスに欠かせません。一つは、企業活動のエビデンスの適切な保存のため(道徳)であり、もう一つは、マーケティングやブランディング、広報、社員教育、社史制作などさまざまな活動に利用するため(経済)です。

 このような情報資源センターの事業の一環として、筆者は2008年からアーカイブズに関わる国際的団体である国際アーカイブズ評議会(ICA)企業アーカイブズ部会(SBA)の運営に携わってきました。ICASBAは年に1~2回、欧州・アメリカ・アジアの都市で国際シンポジウムを開催し、企業アーカイブズの最新動向を紹介するとともに、情報交換の促進・ネットワーキングの拡大を図っています 。

ストックホルムで渋沢財団のミッションと企業史料プロジェクトを紹介、日本・デンマーク国交樹立150年を記念しコペンハーゲンで日本企業アーカイブズを紹介

 ICASBAの2017年第1回目の会合は「ビジネス・アーカイブズの未来の役割」のテーマを掲げ、スウェーデン・ストックホルムで4月5~6日の2日間、開催されました。筆者は1日目の最初のパネルセッション「ビジネス・アーカイブズの価値をわたしたちのステークホルダーに伝える」で、「企業アーカイブズが持つ価値を企業アーカイブズ関係者に伝える:渋沢栄一記念財団企業史料プロジェクトと日本の企業アーカイブズ」というタイトルで、当センターの過去10年以上にわたる取り組みを紹介しました。

 これに先立ち、デンマーク・コペンハーゲンでも講演する機会をいただきました。2017年がデンマークと日本の国交樹立150周年にあたり、コペンハーゲンに本部のあるデンマーク・日本協会 Dansk-Japansk Selskab(1958年に設立されマルグレーテ女王陛下の従姉にあたるエリザベス妃が後援者)からの記念行事への参加依頼を受け、筆者は4月3日、同市内A.P.マースク社の講堂で「日本の企業アーカイブズ」というタイトルで1時間ほどの講演を行いました。政府関係者、アーカイブズ・情報記録管理・図書館関係者をはじめ40名を超える方々が来場され、講演後には渋沢栄一に興味をお持ちで参加したという、一般の方との懇談の機会もありました。

インドでは日清食品の社史とミュージアムに関する事例を発表

 12月5~6日にインド・ムンバイで開催された2017年度第2回目のICASBA会合には、インドのタタ・グループ、スウェーデンのIKEA社(家具製造)、米国のリーバイ・ストラウス社(アパレル)それぞれのアーキビストなど、アジア、ヨーロッパ、アメリカから120名を超える専門家の参加を得ました。「ブランド・アイデンティティと企業文化の再形成における企業アーカイブズの役割」というテーマで、様々な角度からアーカイブズのビジネスへの活用に関し討議しました。

 筆者は日本におけるベストプラクティスの一つとして、「日清食品グループでのブランディング・教育ツールとしての会社史に根差した企業理念」と題した発表を行いました。日清食品グループは、安藤百福氏が1947年に創業したもので、世界初の即席麺(チキンラーメン)と「カップヌードル」として知られるカップ入り即席麺の開発と成功によって世界の人々の食文化に大きく貢献してきました。

 同グループでは過去3回の社史発行に加えて、1999年11月、会社発祥の地である大阪府池田市に「インスタントラーメン発明記念館」(2017年9月に「カップヌードルミュージアム 大阪池田」に改称、2016年9月に来館者数700万人を記録)を、2011年9月、神奈川県横浜市に「カップヌードルミュージアム 横浜(正式名称:安藤百福発明記念館 横浜)」(2017年6月に来館者数600万人を記録)を開設しています。発表では、二つの施設が日清食品創業者の起業家精神、会社史、そして企業理念を多くの人々に伝える役割を果たしていることを紹介しました。発表後、何人もの方々から「非常に印象深かった」という感想をいただいたほか、創業者や同グループの経営理念についてさらに深く知るための文献を尋ねられるなど、会議参加者からの注目度の高さを実感しました。

 このほか、会議中にはIKEA社のアーキビストから、1971年10月の東急本店(渋谷)と銀座松坂屋での同社製品の販売に関する新聞広告に関する調査を依頼されました。日本への帰国後の調査の結果、該当する広告を掲載した全国紙2紙と掲載日を特定しました。レファレンス・サービスを通じての海外の企業アーキビストへの協力は初めての事例です。今後もICASBA活動を通じて、企業アーカイブズに貢献していきたいと思います。

 このように2017年は、ICASBAの運営を支え、会合に継続的に参加することによって、渋沢財団の国際ネットワークをさらに広げた1年となりました。次回の会合は、中華人民共和国国家档案(とうあん)局がホストとなり、2018年5月16~17日の2日間、北京市内の中国銀行を会場に「イノベーションと企業アーカイブズ」のテーマで開催予定です。詳しくは当センターのメールマガジン「ビジネス・アーカイブズ通信」などでお伝えしていく予定です。日本の企業とアーカイブズ関係者の方々にとって、この会合がビジネス・アーカイブズの最新動向を肌で感じる絶好の機会となるよう、ICASBA運営委員として準備を進めているところです。


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