情報資源センターだより

37 『渋沢栄一を知る事典』刊行とこれから

『青淵』No.767 2013年2月号|実業史研究情報センター長 小出いずみ

『知る事典』の中身を知る

渋沢栄一を知る事典

 昨2012年の渋沢栄一記念財団の大きな収穫に、『渋沢栄一を知る事典』の刊行があった。財団職員が執筆・監修した、初のオフィシャルブックである。
 中身を簡単にご紹介すると、事典は前半と後半にわかれ、前半の第1部「渋沢栄一を知るための100項目」は、いわゆる中項目の事典になっている。3つの部分で構成されており、最初の「I 生涯」には、生い立ち、邸宅の変遷、日常生活、家族、竜門社などがわかる18項目が置かれている。
 次の「II 活動・実績」では栄一の生涯に沿っておよそ活動の年代順に項目を配列した。栄一20歳代は4項目(一橋時代、パリ万博など)、30代は11項目(富岡製糸場、王子製紙、東京養育院、東京株式取引所、東京商法会議所など)、40代は8項目(帝国ホテル、東京瓦斯、東京女学館など)、50代は5項目(東京石川島造船所、埼玉学生誘掖会など)、60代は5項目(渡米実業団、聖路加病院、帝国劇場など)、70代は6項目(中日実業、明治神宮、理化学研究所など)、80代は10項目(関東大震災、外遊など)である。こうしてみると栄一は、隠居仕事としてではなく若い頃から社会公共事業に関わっていることが見えてくる。
 続いて「III 思想・知的人的ネットワーク」は、33項目からなり、一橋慶喜、西郷隆盛、大隈重信、伊藤博文など幕末明治の指導者たち、大倉喜八郎、浅野総一郎、安田善次郎など様々な実業人や指導者たち、海外の人脈や秘書・通訳について、さらに栄一の思想、政策への提言や議論についても紹介している。
 後半の第2部「資料から見た渋沢栄一」には、渋沢家系図、渋沢栄一略年譜、渋沢栄一文献案内、渋沢栄一伝記資料目次、関連会社社名変遷図が収載されている。このうち略年譜、文献案内、社名変遷図100図はこの事典のために特に準備されたものである。最後に全体を対象とした索引があって、100項目、年譜、変遷図などに出現する人名・団体名・事項名が一度に探せるようになっている。

財団あげての編集体制

出版を提案した東京堂の編集者と最初の打ち合わせをもったのは2011年5月。担当を第1部は木村昌人研究部長、第2部は小出が、そして井上潤史料館長が全体をみるということで出発した。執筆者は総勢12人、史料館学芸員とセンター司書、および非常勤で財団の仕事をしている人たちである。
編集方針では、全貌がつかみにくい栄一の全体像が見えるように、ハンディでありながら、栄一についてさらに調べる糸口にもなるようなものに、と心掛けた。結果的には、ちょっとした疑問や問い合わせに対しても簡単に確認でき、財団での日々の業務にも役立つ便利な事典になった。

編集・執筆にたずさわって

 以下に編集・執筆に関わったセンター職員の声をご紹介する。
◇変遷図100枚を事典に掲載することになり、図そのものはウェブに公開しているものをそのまま使ったが、図ごとに100字程の解説文をつけることになった。『渋沢栄一伝記資料』の「実業・経済」部分の綱文を端から読み直し、センター・ブログに「社名変遷図紹介」というカテゴリーを新設して2011年8月から少しずつ掲載を始め、2012年4月末までかかって100図の解説文を書き上げた。おかげで栄一の関わった「実業・経済」関係事業の全体像をおおよそ把握することができた。(門倉百合子)
◇『伝記資料』目次紹介ページでは既存のテキストデータを活用することができたため、レイアウト調整や校正以外、大きな作業は発生していない。一方で文献紹介など原稿作成はかなり苦労をした。伝えたいエピソードが多く、所定の文字数に収めるための文章調整は容易ではなかった。今後はその苦労した原稿を長く活用いただくためにも、原稿と典拠資料群の共有化を図りたい。お手本はもちろん『伝記資料』である。(山田仁美)
◇「渋沢栄一文献案内」では、栄一に関する伝記や研究書、資料集など22の文献を10名で分担して紹介文を作成した。それぞれに内容や分量の異なる文献を1000字程度の定型にまとめるのは執筆者にとって苦労の多い作業だったに違いない。その内容の利用価値をさらに高めるためにも、情報をインターネット上に置き、紹介した文献だけではなく他の資料や情報とのつながりを持たせることが今後の課題であると考える。(茂原暢)

 この事典の刊行によって、栄一を知るための便利な道具がまた一つ加わった。この経験をふまえ、今後も皆様にお使いいただけるよう様々な情報資源を開発していきたい、と願っている。

(実業史研究情報センター長 小出いずみ)

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