事業名:足尾銅山組合
古河鉱業本所溶銅所伸銅所
墨田区
画像1
[撮影日] 不詳 [撮影者] 不詳
[ マップ上の位置情報について ]
ピンは当時の伸銅所(本所区柳原町)周辺を示す。
『渋沢栄一伝記資料』中の関連情報
出典:副島八十六編 『開国五十年史附録』(開国五十年史発行所,1908)p.190 古河鉱業会社
画像名:本所溶銅所伸銅所
文献に記載されている解説文等:
東京市麹町区八重洲町一丁目
 同社は元と古河鉱業事務所と称し、明治八年古河市兵衛氏の創立に係るものなり。同氏は眇たる一行商より身を起して遂に天下の富豪となり、銅山王の名を天下に轟かしゝもの、蓋し堅忍不撓幾多の辛酸を嘗めて其経営に力を致しゝに由らずんばあらず。
 明治三十六年市兵衛氏死後、古河潤吉氏之を継承したりしが、同三十八年四月事業の堅固を図らんが為に、社員古河潤吉、古河虎之助、木村長七、原敬の諸氏相謀り、資本金五百万円を以て法人組織に改め、古河鉱業会社と称し、潤吉氏其社長となれり。同年十二月潤吉氏歿したるに由り、古河虎之助氏代つて社長となり。社員木村長七氏を以て代表社員となし、以て今日に至れり。
 同社の販売する商品は悉く自家の採掘製造に係る銅、銅線、銀、骸炭、石炭の五種にして、内外の市場に向つて卸売を主とすれども、又兼ねて小売をも営めり。
営業所
本店 東京市麹町区八重洲町一丁目
足尾鉱業所 栃木県上都賀郡足尾町
院内鉱業所 秋田県雄勝郡院内町
阿仁鉱業所 秋田県北秋田郡阿仁合町
不老倉鉱業所 秋田県鹿角郡大湯村
永松鉱業所 山形県西村山郡白岩村
水沢鉱業所 岩手県和賀郡岩崎村
草倉鉱業所 新潟県東蒲原郡鹿瀬村
久根鉱業所 静岡県磐田郡佐久間村
西部鉱業所 福岡県鞍手郡勝野村
東雲製煉所 秋田県山本郡東雲村
本所鎔銅所 東京市本所区柳原町
深川骸炭所 東京府南葛飾郡砂村
門司販売店 福岡県門司市桟橋通
門司販売店若松出張所 同県若松町海岸通二丁目
大阪出張店 大阪市西区北堀江通五丁目
 同社の鉱業所は数箇所に亘れども、就中足尾銅山を以て最大とし、其設備は驚くべきものあり。而して各鉱業所を通じて、一箇年の産出額は二千万斤に達し、海外輸出其多数を占め、曾て売買受渡期限を過りたることなしと、是れ蓋し其産出多量なるが為なるべし。
銅の種類
 同社製出の銅を別ちてベセマ銅、丸形銅、丁銅、小型丁銅、電気銅、電気棹銅の六種とす、是等各種の銅は其形状に由り品位を一定せず。以下記する所のものは即ち其最低保証品位なり。
 ベセマ銅は足尾銅山より製出するものにして、其産額一箇年約一千二百万斤に達し、本邦粗銅中の最良品なり。此種の銅は多少展性靭質に欠くる所ありて、直ちに伸銅等の原料に供せられずと雖、鋳造及び合金等の原料には最も適当なるものなり。
 丸形銅は同社所有の諸鉱山より産出する銅を原料とし、本所鎔銅所に於て製造す。其製産額は需用家の多少に由り、必ずしも一定せずと雖、一箇年優に一千万斤を製造し得るの設備あり。此種は展性に富むを以て銅線の原料其他に用ひらる。
 丁銅は阿仁鉱山産出の荒銅及び東雲製煉所に於て製する荒銅を原料とし、更に東雲製煉所に於て精製したるものにして、一箇年約一百七十万斤を産す。其品質の善良にして、展性と靭質とに富めり。
 小形丁銅は特製品に属し、其製産額一定せず、而して其原料及び製造方法は総べて丁銅に同じ。
 電気銅は諸鉱山産出の荒銅中含銀多きものを選出し、本所鎔銅所に於て、電気分銅法に由り製造したるものにして、其品質頗る善良なり。
 電気棹銅は電気銅を原料とし、本所鎔銅所に於て製造するものにして、銅線の材料に供す。
銅線
 同社製造の銅線は、本所鎔銅所に於て電気銅を原料として、各種に製造せられ、一箇年の産出額は約三百万斤を算す。而して一条の長さは一哩若くは其れ以上に製し得べく、電話線、トロリー線、グルーヴド線及び饋電線等各種の製造をなす。

 銀は院内銀山より産出する金銀塊及び東雲製煉所に於て製造する銀塊を、本所鎔銅所に於て電気分解法を以て集聚し、其混淆銀を更に大蔵省造幣局に請うて精製し、定型銀となしたるものにして、現今一箇年の産出約四千貫に達す。
骸炭
 骸炭は各礦山産出の石炭中より品質の最良なるものを選択し、深川骸炭所に於て製造するものにして、一箇年二万噸内外を製出す。而して其種類に壱号、弐号、並号の三種あり。壱号骸炭は堅硬多孔質にして鎔鉄用に適し、舶来コークスに代用せらる。弐号及び並号骸炭は灰分稍々多く、且つ多少硬性に欠くる所あれども、硫化鉱物の鎔解等に適するを以て、多く銅鉱製煉に供用せらるゝものとす。
石炭
 石炭は筑豊に於ける勝野、潮頭、目尾及び下山田の四炭山より採掘するものにして、一箇年の産額総計五十万噸に達す。勝野、潮頭及び目尾の炭質は瀝青に属し、硫黄少く、火力強きが故に、蒸汽々缶、鍛冶用の燃料及び骸炭の原料に用ひられ、下山田炭も亦蒸汽々缶の燃料、骸炭瓦斯の原料に適し、其無煙炭は庖厨、暖炉、船舶用、セメント製造の最良燃料にして、勝野煽石は筑豊産中第一位に属す。
 以上記する如く、同社は其全力を鉱業に尽し、採鉱及び金属精煉法の改良進歩を図れるの功績に対し、内外博覧会に於て名誉ある金銀賞牌を受領せること前後十四回に及ぶもの豈偶然ならんや。
画像2

渋沢ゆかりの地

事業名:足尾銅山組合
古河鉱業本所溶銅所伸銅所
墨田区
画像1
[ マップ上の位置情報について ]
ピンは当時の伸銅所(本所区柳原町)周辺を示す。
『渋沢栄一伝記資料』中の関連情報
出典:
副島八十六編 『開国五十年史附録』(開国五十年史発行所,1908)p.190 古河鉱業会社
画像名:
本所溶銅所伸銅所
文献に記載されている解説文等:
東京市麹町区八重洲町一丁目
 同社は元と古河鉱業事務所と称し、明治八年古河市兵衛氏の創立に係るものなり。同氏は眇たる一行商より身を起して遂に天下の富豪となり、銅山王の名を天下に轟かしゝもの、蓋し堅忍不撓幾多の辛酸を嘗めて其経営に力を致しゝに由らずんばあらず。
 明治三十六年市兵衛氏死後、古河潤吉氏之を継承したりしが、同三十八年四月事業の堅固を図らんが為に、社員古河潤吉、古河虎之助、木村長七、原敬の諸氏相謀り、資本金五百万円を以て法人組織に改め、古河鉱業会社と称し、潤吉氏其社長となれり。同年十二月潤吉氏歿したるに由り、古河虎之助氏代つて社長となり。社員木村長七氏を以て代表社員となし、以て今日に至れり。
 同社の販売する商品は悉く自家の採掘製造に係る銅、銅線、銀、骸炭、石炭の五種にして、内外の市場に向つて卸売を主とすれども、又兼ねて小売をも営めり。
営業所
本店 東京市麹町区八重洲町一丁目
足尾鉱業所 栃木県上都賀郡足尾町
院内鉱業所 秋田県雄勝郡院内町
阿仁鉱業所 秋田県北秋田郡阿仁合町
不老倉鉱業所 秋田県鹿角郡大湯村
永松鉱業所 山形県西村山郡白岩村
水沢鉱業所 岩手県和賀郡岩崎村
草倉鉱業所 新潟県東蒲原郡鹿瀬村
久根鉱業所 静岡県磐田郡佐久間村
西部鉱業所 福岡県鞍手郡勝野村
東雲製煉所 秋田県山本郡東雲村
本所鎔銅所 東京市本所区柳原町
深川骸炭所 東京府南葛飾郡砂村
門司販売店 福岡県門司市桟橋通
門司販売店若松出張所 同県若松町海岸通二丁目
大阪出張店 大阪市西区北堀江通五丁目
 同社の鉱業所は数箇所に亘れども、就中足尾銅山を以て最大とし、其設備は驚くべきものあり。而して各鉱業所を通じて、一箇年の産出額は二千万斤に達し、海外輸出其多数を占め、曾て売買受渡期限を過りたることなしと、是れ蓋し其産出多量なるが為なるべし。
銅の種類
 同社製出の銅を別ちてベセマ銅、丸形銅、丁銅、小型丁銅、電気銅、電気棹銅の六種とす、是等各種の銅は其形状に由り品位を一定せず。以下記する所のものは即ち其最低保証品位なり。
 ベセマ銅は足尾銅山より製出するものにして、其産額一箇年約一千二百万斤に達し、本邦粗銅中の最良品なり。此種の銅は多少展性靭質に欠くる所ありて、直ちに伸銅等の原料に供せられずと雖、鋳造及び合金等の原料には最も適当なるものなり。
 丸形銅は同社所有の諸鉱山より産出する銅を原料とし、本所鎔銅所に於て製造す。其製産額は需用家の多少に由り、必ずしも一定せずと雖、一箇年優に一千万斤を製造し得るの設備あり。此種は展性に富むを以て銅線の原料其他に用ひらる。
 丁銅は阿仁鉱山産出の荒銅及び東雲製煉所に於て製する荒銅を原料とし、更に東雲製煉所に於て精製したるものにして、一箇年約一百七十万斤を産す。其品質の善良にして、展性と靭質とに富めり。
 小形丁銅は特製品に属し、其製産額一定せず、而して其原料及び製造方法は総べて丁銅に同じ。
 電気銅は諸鉱山産出の荒銅中含銀多きものを選出し、本所鎔銅所に於て、電気分銅法に由り製造したるものにして、其品質頗る善良なり。
 電気棹銅は電気銅を原料とし、本所鎔銅所に於て製造するものにして、銅線の材料に供す。
銅線
 同社製造の銅線は、本所鎔銅所に於て電気銅を原料として、各種に製造せられ、一箇年の産出額は約三百万斤を算す。而して一条の長さは一哩若くは其れ以上に製し得べく、電話線、トロリー線、グルーヴド線及び饋電線等各種の製造をなす。

 銀は院内銀山より産出する金銀塊及び東雲製煉所に於て製造する銀塊を、本所鎔銅所に於て電気分解法を以て集聚し、其混淆銀を更に大蔵省造幣局に請うて精製し、定型銀となしたるものにして、現今一箇年の産出約四千貫に達す。
骸炭
 骸炭は各礦山産出の石炭中より品質の最良なるものを選択し、深川骸炭所に於て製造するものにして、一箇年二万噸内外を製出す。而して其種類に壱号、弐号、並号の三種あり。壱号骸炭は堅硬多孔質にして鎔鉄用に適し、舶来コークスに代用せらる。弐号及び並号骸炭は灰分稍々多く、且つ多少硬性に欠くる所あれども、硫化鉱物の鎔解等に適するを以て、多く銅鉱製煉に供用せらるゝものとす。
石炭
 石炭は筑豊に於ける勝野、潮頭、目尾及び下山田の四炭山より採掘するものにして、一箇年の産額総計五十万噸に達す。勝野、潮頭及び目尾の炭質は瀝青に属し、硫黄少く、火力強きが故に、蒸汽々缶、鍛冶用の燃料及び骸炭の原料に用ひられ、下山田炭も亦蒸汽々缶の燃料、骸炭瓦斯の原料に適し、其無煙炭は庖厨、暖炉、船舶用、セメント製造の最良燃料にして、勝野煽石は筑豊産中第一位に属す。
 以上記する如く、同社は其全力を鉱業に尽し、採鉱及び金属精煉法の改良進歩を図れるの功績に対し、内外博覧会に於て名誉ある金銀賞牌を受領せること前後十四回に及ぶもの豈偶然ならんや。
画像2