研究センターだより

22 上海会議/日仏シンポジウム早稲田―ポートランド合同寄附講座/「論語とそろばん」セミナー

『青淵』No.735 2010(平成22)年6月号

今回は、最近の研究部の活動と今年度から開始されるプロジェクトを2つずつ紹介いたします。

上海会議

3月12・13日の2日間、中国発の万国博覧会の開幕を目前に控え、盛り上がっている上海の復旦(ふくたん)大学で開催しました。テーマは「太平洋地域の調和と繁栄を求めて―1910年南洋勧業博覧会から2010年上海万国博覧会まで―」でした。上海万博を記念して行うシンポジウムです。

19世紀半ば、ロンドンで始まった国際博覧会は、その後世界中に広まり、同時代の人々に大きな影響を与えました。ご承知の通り、渋沢栄一も国際博覧会とは関係の深い人物です。1867年のパリ万国博覧会に参加し、西洋の経済社会の構造を学び、多くの制度を日本に導入しました。その後内外で開催された博覧会のほとんどに何らかの関与をしています。

100年前に南京で開催された南洋勧業博覧会には、栄一は参加しませんでしたが、日本郵船社長の近藤廉平を団長とする日本実業団をはじめ、米国太平洋沿岸実業団、独逸実業団などが訪問し、活発な実業交流が行われ、20世紀太平洋時代の幕開けとなりました。清朝末期の中国社会は、辛亥革命(1911年)直前の不安定な時代でしたが、中国各地の実業家は博覧会開催を機に連帯を強め、国際経済交流を促進し、1915年にはパマナ太平洋国際博覧会(サンフランシスコ)へ実業団を派遣しました。

今回は100年前の南洋勧業博覧会を取りまく状況と21世紀のグローバル社会にとって上海万博の果たす役割を文明論、経済交流、社会学、技術移転など様々な角度から考察しました。

日仏シンポジウム

企画展「渋沢栄一とアルベール・カーン〜日仏実業家交流の軌跡〜」(3月20日〜5月5日)の開催にあわせて、日仏会館との共催でシンポジウム「渋沢栄一とアルベール・カーン 日仏実業家の交流と社会貢献」を3月21日(日)14時より日仏会館にて開催しました。モデレーター・西川恵(毎日新聞)、パネリスト・今橋映子(東京大学)、ジル・ボー=ベルティエ(アルベール・カーン博物館)、コメンテーター・島田昌和(文京学院大学)、富岡順一(国際交流基金)の各氏と私が参加しました。

渋沢栄一とアルベール・カーンの企業家、社会事業家としての活動について幅広い意見が交わされました。センスの良い会場に、約70名の聴講者が集い3時間にわたるシンポジウムの最後まで熱心に耳を傾け、栄一と養育院の関わり等について次々と質問が寄せられました。シンポジウムの報告書は年内に日仏2ヵ国語で製作する予定です。

早稲田―ポートランド合同寄附講座(2010-2012年度)

今年から3年間、早稲田大学とポートランド州立大学(米国オレゴン州)との合同寄附講座を開催することとなりました。テーマは「太平洋地域におけるシヴィル・ソサエティのリーダーシップ」です。今年は8月に約1週間ポートランド州立大学で、早稲田とポートランド両大学生約20〜30名を対象に、英語による集中コース(講義と実践)、と後期早稲田大学にて、篠田徹(社会科学部)教授によるフォローアップのゼミを行います。

渋沢栄一が生涯取り組んだ国際的視野を持った民間リーダーの育成に役立つことを期待しています。

「論語とそろばん」セミナーの開始にあたって

最近の「論語とそろばん」の精神に対する内外の注目度の高さには目を見張るものがあります。1月末から2月にかけて北米5都市(セントルイス、ポートランド、トロント、ニューヨーク、ボストン)を訪問しましたが、バンクーバー・オリンピックよりもトヨタのリコールの話がはるかに大きく取り上げられていました。米国では、企業の目的とは何か、企業の存在価値とは何かという渋沢栄一が生涯取り組んだテーマが、大変注目されていることがわかりました。同時にあらためて北米は自動車中心の社会で、そのなかで日本企業、特にトヨタの存在の大きさを実感しました。

国内でも、「論語とそろばん」に関する出版物の売れ行きが好調なようです。こうした状況と、昨年1年間の職員勉強会の経験を踏まえて、みずほ総合研究所のご協賛を得て、6月〜7月に「論語とそろばん」セミナーを開催いたします。

(研究部 木村昌人)


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