史料館だより

52 2014年度の渋沢史料館事業

『青淵』No.781 2014(平成26)年4月号

 今年度は、(1)企画展(企業の原点を探るシリーズ)を通して展示手法等の試行(2)史料館再構築の本格的検討といった重点目標を掲げ、ほとんどは継続事業となりますが、以下のような事業を展開させます。

展示

 渋沢栄一の事績・思想及び生きた時代等、周辺を伝える展示を行います。常設展示では、テーマは未定ですが、書画コーナーの展示替えを2回、定例で書簡コーナーの展示替えを行います。
 企画展示では、現在、企画展「実業家たちのおもてなし-渋沢栄一と帝国ホテル」(3月15日~5月25日)を開催中ですが、2014年度も引き続き「企業の原点を探る」シリーズの一環として、秋季には「渋沢栄一と東京商法会議所(仮)」(会期:2014年10月4日(土)~11月30(日)で検討)を開催します。本展のねらいは、様々な関係資料を通じて、民間の経済団体として様々な活動をしている東京商工会議所のスタート地点「東京商法会議所」の設立・活動と栄一との関わりを中心に据えながら、さらに現代へと受け継がれている栄一の考えを紹介するところにあります。現在の東京商工会議所へとつながる、その原点を探っていくものです。
 そして、今年度春季には「渋沢栄一と東洋紡(仮)」(会期:2015年3月14日(土)~5月31日(日)で検討)を開催します。一連のシリーズの中で、栄一の製造業への関わりを紹介する1つで、1882年創立の大阪紡績株式会社、1886年に創立の三重紡績株式会社及び両社が合併した東洋紡績株式会社の事例を通して、近代日本の基盤産業となる紡績業の創成期の状況とあわせて、近代日本を支えた紡績業に関する栄一の活動と考えを探っていきたいと思っています。
 両展とも、関連イベントとして当財団研究部主催のシンポジウムを予定しています。
 このシリーズの企画展では、渋沢栄一が関与した日本の各業界の源流となる企業の成り立ちから必ずしも好調にことが進むことばかりでないその後の経営動向を探ると同時に、その中での渋沢栄一の行動・考えを示します。ただ単に、過去の事績を紹介するだけでなく、現在そして将来の企業、財界のあり方を考えるヒント等が提供でき、「合本法」の個別検証にもなればと考えています。
 その他に重要文化財・青淵文庫内での展示、エントランスコーナー(雛人形)展示等も考えています。

資料整備

 より一層の資料整備をはかることとし、資料の保存という観点からと活用という観点から、情報資源の大元を整備します。
 例年通り、館内の環境調査をはじめとして、虫・黴(かび)対策としての収蔵庫及び書庫の除塵(じょじん)・防黴(ぼうばい)作業として、文化財清掃、資料のくん蒸、劣化した資料の修復、写真・映像フィルムの整理・保存処置、美術工芸資料の整備、資料活用に向けての一次資料のマイクロフィルム・デジタル画像への代替化、複製資料の作製および製本などの調整作業、さらに、滞っていた兜(かぶと)稲荷社保存処置等を行います。

教育普及(コミュニケーション)事業

 学校や企業からの来館対応や依頼を受けての出張授業などの学習支援事業、学芸員資格取得を目指す学生の実習受入れ、閲覧コーナーの書籍の充実をはじめ、同コーナー壁面を使用し、当館情報や渋沢関連情報発信のためのパネル展示などを行います。
 また、重要文化財の建物を活用した企画を充実させます。案内の充実のみならず、2015年2月ころに青淵文庫でのコンサート等も予定しています。
 渋沢栄一命日記念の企画(入館無料デー、生前の栄一を映す映像の上映、展示・建物の特別解説、記念品の贈呈等)を今年も同様に行います。
 さらに、定着した飛鳥山3つの博物館合同事業(クイズラリー、区民まつりへの参加、街巡り、飛鳥山をベースにした座学「飛鳥山学」等)を通して地元・東京都北区へさらに溶け込んでいくことに期待したいと思っています。

図書等の刊行

 渋沢栄一の事績・思想及び周辺事象や史料館活動を広く知らしめるため、または記録として残すために図書類を刊行します。昨年度より、館の事業報告に論文や資料紹介、調査報告等を加えた館報、前年度開催の企画展講演集、『渋沢研究』27号等の発行を予定しています。

資料収集

 例年通り、国内・外における渋沢栄一及び実業史関係も含む周辺事象に関係する資料(原資料だけでなく、二次的媒体に変換されたものも含む)・情報(関係資料の所蔵先、関係の出版物、研究発表、聞き取り情報等)の集積を行います。

調査・研究

 史料館(学芸)活動の基底部分をなすものであり、今年度も、日々増加傾向にありますレファレンス対応の調査に加え、渋沢栄一および周辺に関するオーラルヒストリー、穂積歌子日記の翻刻により内容を読み解く作業を継続させます。
 さらに、調査・研究の一環として、資質の向上を含めた意味で博物館等の視察、各種研究会、学会、研修会へも例年通り積極的に参加します。

その他

 国指定重要文化財である青淵文庫・晩香廬の内部公開と同時に、ミュージアムグッズの開発・製作、そして重点目標にも掲げた史料館再構築にむけて本格的な検討などを進めていきたいと思います。
 最後に、諸事業もさることながら、猛暑、台風、大雪、インフルエンザ等のウィルス対策等にも向き合っていかなければならないと思いを募らせています。今年度も史料館の活動を暖かく見守り続けていただきますようお願い申し上げる次第です。

(館長 井上 潤)


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