史料館だより

40 2011年度の渋沢史料館事業

『青淵』No.745 2011(平成23)年4月号

 2011年度から5ヵ年の中期計画では、特に財団全体で取組んでいく「渋沢栄一情報資源化(仮称)」に沿って、史料館として、イ.最新の資料・情報をもって真の人間・渋沢栄一を伝える。ロ.渋沢史料館の存在価値を高め、広める。ハ.渋沢栄一に関するオリジナル資料を活かす。ニ.国内外・世代・健常者・障害者問わず、様々な来館者をより迎えられるよう整備する。という目標を掲げ、事業展開をはかっていきます。そこで今年度の重点目標を(1)資料整備の強化、(2)将来の常設展示リニューアルにむけての再検討―企画展において展示手法等試行とし、ほとんどは継続事業となりますが、以下のような事業を展開させます。

展示

 まず初めにお伝えしなければならないのは、展示を通じて、渋沢栄一の考えた「平和」とその活動を広く伝えようということで、2008年度より開催し、ようやく定着しつつあった平和を考えるシリーズのテーマ展を、事業費削減の方針に則り、この5年の間は休止することになりました。春・秋の年2回の企画展でこの5年は推移していくことになります。
 現在、春季企画展「法学者・穂積陳重と妻・歌子の物語〜渋沢栄一のひ孫・穂積重行氏オーラルヒストリーから〜」(3月5日〜5月8日)、収蔵品展「渋沢家のおひなさま」(2月19日〜5月8日)を開催中ですが、その後、本年秋季企画展として「雑誌『実業之日本』と渋沢栄一(仮題)」を予定しています。
 1897(明治30)年に創刊されたビジネス雑誌『実業之日本』に数多く寄稿した渋沢栄一の原稿から当時の実業界に対する渋沢の意見、考えを読み解くと同時に、渋沢が生きた明治中期から昭和初期の時代相を探ってみようとするものです。
 来年春季以降の企画展テーマは今のところ未定ですが、原点に立ち返り、渋沢栄一の再発見をはかるという意味で、例えば、「企業の原点を探る」といったシリーズ化した内容を考えています。渋沢栄一が関与した企業の多くは、日本の各業界の源流をなしています。その成立から必ずしも好調に事が進む状況ばかりでないといったその後の経営動向等を探ると同時に、その中での渋沢栄一の行動・考えを示すというものです。ただ単に、過去の事績を紹介するだけでなく、現在そして将来の企業、財界のあり方を考えるヒント等が提供できればと考えています。
 その他に常設展示・書簡コーナー・書画コーナーの展示替え(1回は渋沢栄一と孫文がテーマ)や来年度以降の企画展の準備を同時並行して進めていくことにしています。

資料整備

 より一層の資料整備の強化をはかることとし、資料の保存という観点からと活用という観点から、情報資源の大元を整備します。虫・黴対策としての収蔵庫及び書庫の除塵・防黴作業、資料のくん蒸、劣化した資料の修復、写真・映像フィルムの整理・保存処置、美術工芸資料の整備、資料活用に向けての一次資料のマイクロフィルム・デジタル画像への代替化、複製資料の作製および製本などの調整作業等を行います。
 また、館内環境調査や屋外資料として旧渋沢邸内の晩香廬、青淵文庫の保存処置ならびに兜稲荷社の石造狐の保存処置にも取り組む予定です。

教育普及(コミュニケーション)事業

 学校単位での来館対応や依頼を受けての出張授業、教材開発といった学習支援事業、閲覧コーナーの書籍の充実をはじめ、同コーナー壁面を使用し、当館情報や渋沢関連情報発信のためのパネル展示などを行います。
 また、毎年好評を博している東京都教育庁が主催する「文化財ウィーク」に合わせた企画として青淵文庫でのコンサートや、渋沢栄一命日記念の企画(入館無料デー、生前の栄一を映す映像の上映、展示・建物の特別解説、記念品の贈呈等)を今年度も同様に行います。
 さらに、教育プログラム「企業シミュレーション講座」の岡山、大阪での開催も予定しています。
 また、当館ホームページ上での教育プログラムの構築をはかったり、定着した飛鳥山3つの博物館合同事業(区民まつりへの参加、史跡巡り、記念品製作)等を通じて地元・東京都北区の方々にも親しんでいただければと思っています。

図書等の刊行

 今年度は、昨年度より持ち越しとなった日中米東京展講演集および2010年テーマ展(渋沢栄一と関東大震災)講演集、毎年継続して発行している『渋沢研究』24号の発行を予定しています。

資料収集

 例年通り、国内・外における渋沢関係及び実業史関係資料(原資料だけでなく、2次的媒体に変換されたものも含む)・情報(関係資料の所蔵先、関係の出版物、研究発表、聞き取り情報等)の集積を行います。

調査・研究

 今年度は、財団の歴史という視点からオーラルヒストリーを考えています。また、穂積歌子日記の翻刻により内容を読み解く作業を継続させます。調査・研究の一環として、資質の向上を含めた意味で博物館等の視察、各種研究会、学会、研修会へも例年通り積極的に参加します。

その他

 国指定重要文化財である青淵文庫・晩香廬の内部公開と同時に、常設展示リニューアルにむけての準備として今年度は、リニューアルを実際に行なった博物館等の視察、財団内部スタッフでの話し合いや外部関係者への意見聴取などを進めていきたいと思います。
 最後に、今年度も史料館の活動を暖かく見守り続けていただきますようお願い申し上げる次第です。

(館長 井上 潤)


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