史料館だより

36 2010年度の渋沢史料館事業

『青淵』No.733 2010(平成22)年4月号

 今年度は、重点目標として、(1)資料整備事業の強化、(2)博物館等関係諸機関とのネットワーク強化、(3)常設展示のリニューアル計画の検討を掲げ、以下に示すような事業を展開させます。

展示

 現在、春季企画展として「渋沢栄一とアルベール・カーン〜日仏実業家交流の軌跡〜」(3月20日〜5月5日)を開催中ですが、それ以降も様々なテーマで企画展・テーマ展を開催します。まずは、平和を考えるシリーズの一環で開催するテーマ展「帝都復興と渋沢栄一(仮)」です。
 関東大震災復興80周年を記念して、渋沢栄一の同震災復興事業への関わりを紹介する展覧会です。2008年度より開催しているテーマ展「シリーズ平和を考える」の3本目の企画となるもので、今回は、同展示を通じて、渋沢栄一の考えた「平和」とその活動を広く伝えようというものです。
 秋季企画展は「埼玉学生誘掖会と渋沢栄一(仮題)」です。
 2007年6月に当館は、財団法人埼玉学生誘掖会より「埼玉学生誘掖会関係資料」の寄贈を受けました。同資料をもとにし、渋沢栄一が埼玉学生誘掖会の組織化に尽力し、設立した明治35年から亡くなるまで会頭として務めた事績を紹介します。栄一の新たな社会・公共事業に尽力した姿を広く来館者等に紹介するとともに、当該企画展を通して、当財団と埼玉県関係諸団体とのネットワークの広がりを期待したいと思っています。
 そして来年春季の企画展として「穂積陳重と歌子〜渋沢栄一娘婿夫妻の物語〜」(仮題)を予定しています。
 ここ数年精力的に続けてきた、オーラルヒストリーの1つの成果として、穂積重行氏のオーラルヒストリーをもとに記録化した記憶をわかりやすく皆様にお伝えしたいと思います。
 その他に常設展示・書簡コーナー・書画コーナーの展示替え(1回は商業会議所がテーマ)や来年度の秋季企画展、テーマ展の準備を同時並行して進めていくことにしています。

資料整備

 より一層の資料整備の強化をはかることとし、資料の保存という観点からと活用という観点から、虫・黴対策としての収蔵庫及び書庫の除塵・防黴作業、資料のくん蒸、劣化した資料の修復、写真・映像フィルムの整理・保存処置、美術工芸資料の整備、資料活用に向けての一次資料のマイクロフィルム・デジタル画像への代替化、複製資料の作製および製本などの調整作業等を行います。
 また、屋外資料として旧渋沢邸内の晩香廬、青淵文庫の保存処置ならびに兜稲荷社の石造狐の保存処置にも取り組む予定です。

教育普及(コミュニケーション)事業

 ここ数年、依頼の数が増してきている学校単位での来館対応や依頼を受けての出張授業、教材開発といった学習支援事業、閲覧コーナーの書籍の充実をはじめ、同コーナー壁面を使用し、当館情報や渋沢関連情報発信のためのパネル展示などを行います。
 また、毎年好評を博している東京都教育庁が主催する「文化財ウィーク」に合わせた企画(重要文化財の晩香廬・青淵文庫に関連させた建築関係の講演会や写真展の開催)や、渋沢栄一命日記念の企画(入館無料デー、生前の栄一を映す映像の上映、展示・建物の特別解説等)を今年も同様に行います。
 さらに、渋沢栄一の思想と活動を同時代の民間リーダーと比較し、理解を深めてもらうと同時に、中央と地域、地域内の知的コミュニケーション形成を促進し、地域の活性化への指針を探る地域シンポジウムの開催(今年度は宇都宮、仙台)を予定しています。同時にそれぞれの地域において教育プログラム「企業シミュレーション講座」の開催も予定しています。
 新たな試みとして、当館ホームページ上での教育プログラムを実施する準備をしたり、一般市民を対象として、例えば当館所蔵の「航西日記」などの資料を用いて講義等を行なう、市民講座開催にむけての準備を進めます。

図書等の刊行

 今年度は、昨年度より持ち越しとなった文化財および企画展等関連の講演録、渋沢史料館館報に加え、毎年継続して発行している『渋沢研究』の23号、さらには、「養育院」展のパンフレットのように過去の企画展開催時に発行した刊行物の中で在庫切れになっているもののうち、ご要望の多いものについて再販を予定しています。

資料収集

 例年通り、国内・外における渋沢関係及び実業史関係資料(原資料だけでなく、二次的媒体に変換されたものも含む)・情報(関係資料の所蔵先、関係の出版物、研究発表、聞き取り情報等)の集積を行います。

調査・研究

 今年度は、これまでのオーラルヒストリーで集積してきたデータを活字化し、刊本としてまとめたいと考えています。また、穂積歌子日記の翻刻および内容を読み解いていく研究会、レファレンス対応調査、また、調査・研究の一環として、資質の向上を含めた意味で博物館等の視察、各種研究会、学会、研修会へも従来通り積極的に参加します。

その他

 国指定重要文化財である青淵文庫・晩香廬の内部公開、ミュージアム・グッズの製作として館蔵資料の絵葉書を作成します。そして、常設展示リニューアルにむけての準備として今年度は、リニューアルを実際に行なった博物館等の視察、財団内部スタッフでの話し合いや外部関係者への意見聴取などを進めていきたいと考えてます。
 最後に、今年度も史料館の活動を暖かく見守り続けていただきますようお願い申し上げます。

(館長 井上 潤)


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