史料館だより

28 2008年度の渋沢史料館事業

『青淵』No.709 2008年(平成20)4月号

 本年1月号の「史料館だより」にて渋沢史料館のこの先5年を目途にした中期計画案の概略を紹介しましたが、今回は、その中期計画案に沿う形で考えました単年度事業としての2008年度事業計画案を紹介します。
 今年度は、重点目標として、(1)飛鳥山3つの博物館10周年事業への対応、(2)資料整備事業の強化(資料の保存対策の本格稼動、資料管理・検索システムの稼動)、(3)海外での展覧会準備、(4)常設展示のリニューアル計画の検討を掲げ、以下に示すような事業を展開させます。

展示

 2008年度は、飛鳥山3つの博物館10周年記念の企画展からスタートです。春季は、3館が「王子・飛鳥山」を共通テーマに掲げ、それぞれ個別の企画展を予定していますが、当館は、3月8日(土)から5月6日(火)にかけて「王子・滝野川と渋沢栄一 ―住まい、公の場、地域―」と題した企画展を開催します。渋沢栄一の住まいであり、国内外の賓客を迎えるなど栄一の活動拠点とした飛鳥山邸の紹介、邸内での様々な交流・事業や地域との交流の様子をご覧いただきながら地域の歴史にも思いを馳せていただく内容となっています。
 そして秋は、3館の共通テーマは設けず、各館独自のテーマで開催します。当館は、10月4日(土)から11月24日(月)にかけて「ブラジル日本人移民と渋沢栄一(仮)」と題した企画展を開催します。本年が日本人のブラジル移住百周年という記念の年にあたるという機会を捉え、これまで渋沢栄一の事績としてあまり紹介してこなかった日本人のブラジル移住関係の事績を紹介し、さらに、渋沢栄一のブラジル日本人移民・日本人のブラジル移住に対する想いを示すことにしています。
 その他に企画展示室・書画コーナーを会場としてのテーマ展や、常設展示・書簡コーナーの展示替えなどを予定しています。
 また、2009年度から10年度に予定しているフランス・アルベール・カーン博物館との共同展示、実業史関連として開催予定の陶磁器展覧会、そして、日米中三国の近代化・産業化の比較を試みる展覧会の準備を同時並行して進めていくことになっています。

資料整備

 昨年度に引き続き、より一層の資料整備の強化をはかることとしました。資料の保存という観点からと活用という観点から、具体的に次のような作業を行うことにしています。
 虫・黴対策としての収蔵庫及び書庫の除塵・防黴作業、資料のくん蒸、マイクロフィルムや複製資料の作製等資料活用に向けての一次資料の代替化、劣化した資料の修復、写真・映像フィルムの整理・保存処置などを行います。また、屋外資料として旧渋沢邸内の兜稲荷社の石造狐の保存処置にも取り組む予定です。その他、資料整理用品・保存器材の調製を行い、収蔵庫内の環境整備などに着手します。
 ここ数年続けているこの事業の強化は、史料館業務全体への強化に徐徐に結びついてきています。

教育普及(コミュニケーション)事業

 今年度は、東京都教育庁が主催する「文化財ウィーク」に合わせた企画として重要文化財の晩香廬・青淵文庫の写真展などを予定しています。また、昨年好評を博した渋沢栄一命日記念の企画、学校単位での見学や授業への対応、教材開発を検討するといった学習支援事業、閲覧コーナーでの企画などを行います。
 また、明治20年代にタイムスリップし、当時の企業グループの代表となって、グループの経営・発展をシミュレーションする「企業シミュレーション講座・明治M&A」という教育プログラムの開発に本格的に着手します。

図書等の刊行

 今年度は、昨年度実施した文化財関連の講演会、答礼人形展に関連した講演会の講演集、また、昨年度刊行出来なかった建物案内パンフレット、『晩香廬保存修理工事報告書』、『曖依村荘小史』に加え、毎年継続して発行している『渋沢研究』21号を刊行したいと考えています。

資料収集

 例年通り、国内・外における渋沢関係及び実業史関係資料(原資料だけでなく、二次的媒体に変換されたものも含む)・情報(関係資料の所蔵先、関係の出版物、研究発表、聞き取り情報等)の集積を行います。

調査・研究

 今年度も、記憶を記録に残すオーラルヒストリーを渋沢家の方を中心に行います。また、穂積歌子日記を読み解いていく研究会、以前にも紹介した通称「紙芝居プロジェクト」として、象徴的な画像を元にバリエーションをもったストーリーを書き、近代化・産業化の様子そして渋沢栄一の事績を紹介するツール開発の調査・研究を進めます。
 また、調査・研究の一環として、資質の向上を含めた意味で博物館等の視察、各種研究会、学会、研修会へも従来通り積極的に参加します。

その他

 国指定重要文化財である青淵文庫・晩香廬の内部公開、常設展示リニューアルにむけての検討、ミュージアム・グッズの開発、以前にも開催した「サロン・ド・ミュゼ」などの広報事業を考えています。その他にも飛鳥山3つの博物館10周年イヤーとして一年通じて様々な記念事業が展開します。
 以上、中期計画案でも掲げましたが、すべての事業を通して、館の立つ地域にしっかり根ざしつつ、グローバルな視野に立った活動を目指します。これも渋沢栄一の事績に重なるところなのです。
 最後に、今年度も史料館の活動を暖かく見守り続けていただきますようお願い申し上げます。

(館長 井上 潤)


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