情報資源センターだより

58 「デジタルアーカイブ」への取り組み

『青淵』No.830 2018年5月号|情報資源センター長 茂原暢

 情報資源センターは、渋沢栄一記念財団の「情報資源部門」としての役割を果たすべく、日々その課題に取り組んでいます。2017年度は、デジタル版『渋沢栄一伝記資料』の公開範囲拡大のほか、デジタル版「実験論語処世談」の更新、社会公共事業団体名変遷図の公開、「渋沢社史データベース」への英語情報追加、ビジネス・アーカイブズ振興のための情報発信などを行ってきました。また、パシフィコ横浜で開催された図書館総合展(2017年11月7~9日)では「ウェブサイトは閲覧室 : 渋沢栄一アーカイブ構築に向けて」と題し、これまでに情報資源センターが構築してきた渋沢栄一や実業史に関するデジタルアーカイブの今後の展望についてポスター発表を行いました。

 最近、この「デジタルアーカイブ」という言葉を目にすることが多くなっています。これは文化財などをデジタル化して保存するとともに、インターネットを介して発信・提供する際、日本でよく使われる言葉です。国立国会図書館や国文学研究資料館など、多くの文化機関が自館の所蔵資料をデジタル化し、その機関に足を運ぶことなく、いつでも、どこでも、だれでも見ることのできる環境を整えつつあります。特に2011年の東日本大震災発生以降、私たちの記録や記憶を保存し後世の人々に活用してもらうための仕組み作りは喫緊の課題として、その重要性が社会的に認知されるようになってきました。自治体の中には、政府が進めるオープンデータ政策(「公共データは国民共有の財産であるという認識の下、公共データの活用を促進するための取組」1) )と呼応するような形でデジタルアーカイブの整備を行うところもあります。

 このような動向を踏まえ、社会に対し適切な形でデジタルアーカイブを提供するには、情報の収集と共有が欠かせません。そこで、渋沢栄一記念財団は、2017年5月に設立された「デジタルアーカイブ学会」に賛助会員として参加いたしました。この学会は、デジタルアーカイブに関わる関係者の経験と技術を交流・共有し、その一層の発展を目指す団体で、デジタルアーカイブに関する最新の知見が得られるだけではなく、さまざまな問題点について直接議論に加わることができるというメリットがあります。幸い、情報資源センターは学会よりお声がけいただき、「第2回定例研究会」(2017年8月21日開催)で企業史料プロジェクト専任アーキビストが講師を務め、問題提起も行いました。

 また、2018年3月24日には、文化庁・立命館大学共同研究キックオフ・シンポジウム「新たな文化芸術創造活動の創出」で約20分間の発表を行いました。このシンポジウムは、京都および関西圏における文化資源の活性化を図る等の目的で、文化庁と立命館大学アート・リサーチセンターが連携して行う事業の発端となるものです。渋沢栄一記念財団のデジタルアーカイブ事業は「新たな文化創成に成功している」として、情報資源センターはアート・リサーチセンターから講演を依頼されました。渋沢栄一や実業史関連の文化資源をデジタル化したことによって生み出された「新しい文化・情報」をご評価いただいたようです。当日は、世界的な浮世絵検索サイト「Ukiyo-e.org」、ルーブル美術館やフランス国立図書館のプロジェクトなどが紹介される中、情報資源センターが進めているデジタルアーカイブ事業の理念、他機関との連携によって創造される文化資源の新たな価値、長期的なプロジェクトでの継続性の確保について報告を行いました。さらに6月28日には、専門図書館協議会全国研究集会において、より詳しいお話をする予定です。昨年情報資源センターが受賞した「第19回図書館サポートフォーラム賞」の受賞理由には、「以後の史資料の公開に際して、モデルとなる事例を構築」とあります。私たちは、情報資源センターの経験を広く社会で共有することで、皆様からのご期待に応えたいと思っています。

 さて、2018年度における情報資源センターのデジタルアーカイブ関連事業は、「国際規格の採用による発信力の強化」が大きなテーマとなっています。「実業史錦絵絵引」に「IIIF(International Image Interoperability Framework)」という画像の相互運用に関する国際的な枠組みを取り入れ、デジタル版「実験論語処世談」は「TEI(Text Encoding Initiative)」という「テキストデータを効率的効果的に共有するためのガイドライン」2) に基づいた再編成を計画しています。これらは、知的財産戦略本部が進めているデジタルアーカイブのプロジェクトにつながるもので、ただ単に財団サイトへ画像やテキストを掲載するだけではなく、デジタル化が進む国際社会への幅広い貢献を意図するものです。将来においては、デジタル版『渋沢栄一伝記資料』を含めたテキストや画像全般についてこの取り組みを広げ、財団のデジタルアーカイブを世界に繋げていきたいと考えています。

1) 電子行政オープンデータ戦略(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)
 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pdf/120704_siryou2.pdf
2) 「デジタルアーカイブ」で全文テキストデータをうまく継承していくには - digitalnagasakiのブログ
 http://digitalnagasaki.hatenablog.com/entry/2017/07/31/043019


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