情報資源センターだより

56 EAJRS(日本資料専門家欧州協会)2017年次大会参加記

『青淵』No.824 2017年11月号|情報資源センター 専門司書 井上さやか

Professorboligen, Universitetet i Oslo(EAJRS 1~2日目会場)
Professorboligen, Universitetet i Oslo
(EAJRS 1~2日目会場)

 2017年9月13~16日に、ノルウェーのオスロ大学図書館で開催された、日本資料専門家欧州協会(EAJRS: European Association of Japanese Resource Specialists)の年次大会に参加しました。EAJRSは、ヨーロッパで日本資料に携わる研究者や司書を中心とする団体です。毎年テーマを定めた年次大会では、日本をはじめアジアやアメリカ大陸などからも関係者が集い、研究報告や展示ワークショップ、情報交換を行います。

 2017年のテーマは「日本学支援のデジタル対策: Digital Strategies for Japanese Studies: Theories and Practices」。近年進展めざましいデジタル化やインターネットによる情報発信を軸に、90余名の参加者の中、25の発表が行われました。発表の様子はYouTubeを通じてインターネット配信され、現地参加が難しい関係者に向けても、ひらかれた大会となりました。(https://www.eajrs.net/

 情報資源センターでは、2005年よりほぼ毎年EAJRS年次大会に参加し、発表を行うと同時に、得られたリクエストを各事業に反映させてまいりました。その一例が渋沢社史データベース(通称:SSD)で、日本国外からの利用にも供するよう、ローマ字社名・社史タイトル、英訳社史紹介を搭載しています。

 本年は、昨年11月11日にインターネット公開を開始したデジタル版『渋沢栄一伝記資料』(以下、デジタル版)を取り上げました。『伝記資料』については、2007年にデジタル化計画案を、2012年にデジタル化の進捗状況を報告しており、今回で3回目の発表となります。

 『伝記資料』は、渋沢栄一の事蹟のみならず、幕末から昭和初期にかけての日本近代化を読み解くための資料でもあります。現在、デジタル版では、全68巻のうち本編57巻までの全文テキストとページ画像を公開しており、日本国内外を問わずどこからでもアクセスが可能です。発表では、デジタル版を「使える」「信頼できる」リソースとして発信するためにどのようにしたか、つまり、『伝記資料』そのものがもつ歴史的コンテクストを担保したコンテンツ作成の意図や、適切な著作権処理を反映させた公開方法に重点を置いて、お話しました。加えて、未公開部分の公開、和英対訳グロッサリー作成ほか、今後の目標や課題を掲げました。アーカイブズの在り方としての『伝記資料』編纂に興味を持たれた参加者もおられた他、デジタル版公開に関する貴重な生の感想やご意見をいただくことができました。

HumSam-biblioteket, Universitetet i Oslo(EAJRS 3~4日目会場建物内)
HumSam-biblioteket, Universitetet i Oslo
(EAJRS 3~4日目会場建物内)

 大会では、各国より、(1)自機関がもつ様々なコレクションやアーカイブズ(占領期の検閲歌舞伎脚本の翻訳資料、日本国憲法普及会作成広報スライドの復元プロジェクト等)、(2)日本と諸外国との関係性に注目した研究(明治期日本に滞在したオーストリア人写真家の史料、ノーベル平和賞に関する資料調査等)、(3)海外における日本研究の方法(日本語学習のためのツール、APIを用いたデータ分析等)など、多彩な発表がなされました。日本の各機関(大学図書館、国際日本文化研究センター、国立情報学研究所、科学技術振興機構、アジア歴史資料センター、国立国会図書館、国文学研究資料館等)からもデジタル情報発信に関する紹介があり、日本研究を取り巻く国内外の最新の情報を得る良い機会にもなりました。

 さらにEAJRSでは、大会期間中、開催地にある文化施設の見学会が行われます。本年は、1989年までノーベル平和賞の授与式会場でもあったオスロ大学アウラ講堂等を訪れ、ノルウェーの歴史の一端に触れました。日本語資料を多数所蔵するオスロ大学図書館はもちろんのこと、オスロ国立美術館とオスロ大学歴史博物館では、それぞれのご担当者より所蔵する日本コレクションの説明を受けることもできました。日本とノルウェーの正式な国交が樹立したのは1905年のことですが、19世紀後半から文化芸術面で日本の影響があったことなど、近年研究が進んでいます。2016年には、北欧のジャポニスムをテーマにした展覧会「Japanomania in the North 1875-1918」が、オスロを含めた北欧各都市で開催されました。

 またEAJRSに先立ち、イギリスの英国図書館セント・パンクラス本館を訪問することが叶いました。英国図書館では、日本部司書の大塚靖代さんより、図書館の特色やアジア・日本資料などの説明を受けながら、ご案内いただきました。Hamish Todd部長のお名前とともに、ここに記して御礼申し上げます。英国図書館は、マグナ・カルタをはじめ世界でも卓越したコレクションを誇ります。貴重なコレクションの一部は、英国図書館サイト内Digitised Manuscripts(http://www.bl.uk/manuscripts/)でインターネット公開されています。

 渋沢栄一は、今からちょうど150年前の1867(慶応3)年、徳川昭武のパリ万博参列の随員としてフランスのパリに滞在していました。残念ながら北欧を訪れることはありませんでしたが、『伝記資料』からは、当時の栄一らの動向をうかがい知ることができます。ヨーロッパでの経験は、栄一のその後の人生に少なからず影響を与えたに違いありません。

 外から日本を見ること、外から見られていることを認識することによって、EAJRSでは新たな発見がありました。情報資源センターでは、日本国内外における報告や意見交換で得られた情報を、今後も取り入れつつ、よりひろく、より使いやすい情報発信を行っていきたいと考えております。


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