情報資源センターだより

28 「渋沢栄一関連会社社名変遷図」をめぐって

『青淵』No.740 2010年11月号|実業史研究情報センター 専門司書 門倉百合子

史料館展示といっしょに変遷図を展示

福田屋ショッピングプラザ宇都宮店大催事会場
福田屋ショッピングプラザ宇都宮店大催事会場

 「渋沢栄一:近代日本経済社会の基盤をつくる」と題して9月1〜5日に開催された「渋沢史料館出張展示in宇都宮」にて、栄一の関わった会社の写真に合わせて「渋沢栄一関連会社社名変遷図」を15枚展示しました。飛鳥山の渋沢史料館では、栄一の関わった会社の写真56枚を常設展示しています。そのうちの「王子製紙」「日本鉄道」「磐城炭砿」など15枚を宇都宮に持って行くというので、その会社の載っている変遷図の拡大パネルを作成しました。栄一の関わっていたころの写真と合わせ、その会社がその後どういう変遷をしていったか目に見える形で提示することができ、多くの方が興味深げに足を止めてくださいました。9月1日には展示解説も行いましたが、ご本人あるいはご家族が関わっていた会社と栄一との関わりを、変遷図を見て初めて知った、という声もいただきました。また大型商業施設での展示だったこともあり、女性のお客さまも多くいらしてくださいました。「渋沢栄一ってほとんど知らなかったけど、すごい方だったんですねえ」という声もうかがうことができました。

下野製麻と社史と変遷図

 宇都宮は栃木県の県庁所在地ですが、栃木県の会社で渋沢栄一が関わったものの中に、下野麻紡織会社(後に下野製麻株式会社)があります。明治年間に創立された製麻会社は他に近江麻糸紡織会社、北海道製麻会社、日本繊糸株式会社(後に大阪麻糸株式会社)があり、その中の北海道製麻にも栄一は関わりました。日清戦争後の不況を乗り切るためにこの4社は合併の動きがありましたが、当時北海道製麻の重役であった渋沢栄一が海外旅行中であったため、しかたなく他の3社が合同して1903(明治36)年日本製麻株式会社が設立されました。その後北海道製麻も合併して1907(明治40)年に帝国製麻株式会社の創立となりました。
 この辺りの事情については、『帝国製麻株式会社三十年史』(1937年刊)に詳しく記載されています。またこの社史には「麻」の製品としてリネン服やテーブルリネンなどのほかに、蚊帳・網糸・帆布・軍服・飛行機翼布・水嚢・自動車覆・天幕などの写真が掲載されていて、当時の麻の生産と消費の状況がよくわかります。なお帝国製麻の本社は東京にありましたが、辰野金吾設計、清水組(現・清水建設)施工によるその本社ビルの写真が、東京・日本橋の欄干から見たアングルで社史に掲載されています。
 帝国製麻は戦後に分割され現在に至っていますが、設立からの変遷は「製麻業」の変遷図にまとめ、宇都宮でも展示いたしました(変遷図は本誌737号(2010年8月)40頁参照)。また『帝国製麻株式会社三十年史』については、財団ウェブサイトに「社史紹介」を掲載してありますので、ご参照ください。
・「製麻業」変遷図サイト
     URL http://www.shibusawa.or.jp/eiichi/companyname/015.html
・社史紹介サイト
     URL http://www.shibusawa.or.jp/center/shashi/shasi_ta.html#04
・「帝国製麻」社史紹介(速報版)サイト
     URL http://d.hatena.ne.jp/tobira/20100615/1276565722

渋沢栄一と地方の力

 「渋沢栄一関連会社社名変遷図」には、これまで24業種108枚の変遷図を掲載してきました。同一業種の中で変遷図が特に多いのは、銀行20図、陸運11図です。銀行も陸運(鉄道)も所在地は北海道から九州まで全国に広がっており、栄一が東京だけでなく幅広い地方の会社創設にかかわっていたことがわかります。『渋沢栄一伝記資料』やそれぞれの会社の社史などをみていくと、栄一がそれぞれの地方の人々と協同し、その地方に合った産業を起こし、金融や物流の仕組みを整えていったことが詳しく伝わってきます。そしてなにより心をとらえるのは、明治以降、否それ以前からも日本の津々浦々に至るまで各地方の地場産業を支え、また新しい産業を興していく人々がたくさんいた、という事実です。そういった地方の底力があったからこそ、渋沢栄一の事業がこれだけ幅広く花開いて行ったのではないでしょうか。

変遷図のこれから

 渋沢栄一が関わった会社は約500社といわれていますが、「渋沢栄一関連会社社名変遷図」にはそのうち400社余りを掲載してきました。500社といわれている中には、『渋沢栄一伝記資料』総目次によれば「東京銀行集会所」「東京商法会議所」といった経済団体や、「米価調節調査会」「貨幣制度調査会」といった政府諸会も含まれています。また「鉄道国有問題」「蚕卵紙輸出問題」といった、特定の会社に限らない事業も含まれていますので、「会社」というくくりで作成できる変遷図はほぼ作成できたかと考えています。
 翻って渋沢栄一の事績を俯瞰しますと、大きな塊として横たわっているのが「社会公共事業」で、こちらは約600と言われています。今後は「社名変遷図」に続き、「渋沢栄一関連社会事業変遷図(仮称)」を作成していく計画です。

(実業史研究情報センター専門司書 門倉百合子)


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