情報資源センターだより

23 企業史料の国際ネットワークに連なる

『青淵』No.725 2009年8月号掲載|実業史研究情報センター 企業史料プロジェクト担当 松崎裕子

国際文書館評議会(ICA)企業労働アーカイブズ部会(SBL)会議に参加

 アーカイブズ(記録資料・文書館)とアーカイブズを扱う専門家であるアーキビストに関する国際的な非営利団体に、国際文書館評議会(ICA)があります。ICAはユネスコの支援のもと、1948年6月9日にパリで設立されました。1990年には、それまで企業史料に関する事項を扱ってきた委員会が中心となって、企業労働アーカイブズ部会(SBL)が結成されました。SBLは企業アーカイブズと労働アーカイブズに関する関心を国際的に高め、さまざまな実務上のガイドラインの開発や研究、公共的なアーカイブズとの協力を図ることを目的としています。
 筆者は、2007年5月に東京で開催された日米アーカイブセミナーで、企業史料に関する日本側報告者として参加したことがきっかけとなり、SBLの運営委員を2008年から2012年まで務めることになりました。

フィンランド企業記録中央アーカイブズ(ELKA)でのSBL運営会議

ICASBLミッケリ会議2009

 今年第1回目のSBL運営委員会がフィンランドのミッケリ(Mikkeli)市にあるELKA(フィンランド企業記録中央アーカイブズ)で6月10日に開催されました。ELKAは1981年に設立された、フィンランドにおける企業史料保存のための全国的な非営利組織です。フィンランド産業連盟(日本の日本経団連に相当する)、商工会議所、フィンランド企業史料協議会、サービス産業経営者連盟、ミッケリ市等で構成する財団が運営にあたっています。企業や個人から寄託された経済・企業関係の資料を整理し、目録を作成して、学術研究等の利用に提供することを主な事業としているということです。今回のSBL運営会議の準備責任者を務めたMatti Lakio氏がディレクターを務めています。
 運営会議では、グローバルなレベルでSBLのプレゼンスを高めることや、ビジネス・アーカイブズの意義と価値に関する情報を広め、企業史料の保存と管理に関する優良事例(ベストプラクティス)開発を支援するといった今期の目標に関して、運営委員の誰がどの部分を担当するのかを含め、それぞれが意見を出し合いました。現在ICAのウェブサイトにあるSBL紹介リーフレットの日本語への翻訳には、筆者があたることになりました。

公開セミナー「変化のなかのビジネス・アーカイブズ」

 6月12日にはヘルシンキのフィンランド国立公文書館に場所を移して、「変化のなかのビジネス・アーカイブズ」というテーマで公開セミナーが開催され、フィンランド内外から50名を超える参加者が集まりました。SBL部会長であるノルウェー国立公文書館のHans Haess氏の挨拶に続き、フィンランド国立公文書館館長Jussi Nuorteva氏による「オープン・アクセスか、オープン・マーケットか?デジタル資源のグローバルな管理」をはじめとして、フィンランド銀行(中央銀行)主任アーキビストVappu Ikonen氏による「フィンランド銀行におけるコンテンツ・マネジメントの進化」、SBL運営委員であるフランス・サンゴバン社アーカイブズのDidier Bondue氏による「企業アーカイブズと財務:フランス・サンゴバン・グループの事例」、英国国立公文書館で企業史料を担当するAlex Ritchie氏による「イングランドとウェールズにおける企業史料ナショナル・ストラテジーについて」、ELKAの研究開発スペシャリストであるJarmo Luoma-aho氏による「ELKAにおける長期デジタル保存」の発表が行われました。Bondue氏の発表では、サンゴバン・グループが戦略的にアーカイブズを位置づけシステム化している点が紹介されました。かつてサンゴバン社が日本のライバル会社と訴訟になった時、アーカイブズが所蔵する写真資料を証拠として利用した事例にも言及し、アーカイブズが経営にとっていかに重要であるかを印象づける報告でした。

SBLの今後と渋沢財団

 次回の運営会議は今年の11月下旬から12月上旬に、インド西部のプネー(Pune)市にあるインド準備銀行(中央銀行)研修施設で、2日間の公開セミナーと併せて開催される予定です。現在この準備にあたっている同行アーカイブズのAshok Kapoor氏によると、セミナーにはタタ・セントラル・アーカイブズやインド国立フィルム・アーカイブズの見学ツアーも含まれるということです。
 そして今回のSBL運営会議では、2011年の会議を東京で開催する方向で準備を進めることも了承されました。これに関しては、日本から持参した財団紹介英文リーフレットと、刷り上がったばかりの史料館常設展示英文図録が会議参加者に大いにアピールしたようです。英文図録はたいへん好評で、さっそく参加者のなかから、所属機関と財団との今後の交流を望む声も寄せられました。
 2011年の東京でのSBL運営会議と関連プログラムの開催、そしてアーカイブズ分野での今後の国際交流の進展に向けて、準備を進めていきたいと思います。

(実業史研究情報センター 企業史料プロジェクト担当 松崎裕子)


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