情報資源センターだより

9 ハワイと日本と渋沢資料 − ハワイ大学マノア校図書館研修記

『青淵』No.683 2006年2月号掲載|実業史研究情報センター 専門司書 茂原暢

ハワイ大学マノア校図書館と研修の目的

 ハワイ大学は、ハワイの6つの島に10のキャンパスを持っており、世界約80ヵ国及びアメリカ全土より5万人が学んでいます。観光・サービス関連、海洋学部に代表される自然科学、そして外国語の分野で全米でも高く評価されています。10あるキャンパスにはそれぞれ図書館があり、私が今回訪れたマノア校図書館は1908年に開館した歴史の古い図書館です。蔵書数は300万冊、雑誌2万5千タイトル、1日の利用者が2400人ということですが、北米の大学図書館としてはそれでも中くらいの規模なのだそうです。
 ハワイ大学には「日本研究センター」があり、40人の直属教員が200におよぶ日本関連の教育プログラムを提供しています。ハワイ大学の日本研究は1920年に同志社大学の原田 助(たすく)を招聘したことに始まります。マノア校図書館の日本コレクションには現在12万5千冊の日本語文献、7万5千点のアイテムを持つ特殊コレクションが研究者や学生達の活動をサポートしています。日本で図書館というと「本の倉庫」的なイメージを持つ方が多いかもしれませんが、欧米の図書館は「知の宝庫」であり研究者に対して積極的に文献的なサポートをするだけでなく、「人類が歴史の中で残してきたさまざまな記録」を収集・保存し閲覧に供しています。そこには印刷・刊行された書籍や雑誌以外にも、手書きの文書や場合によってはモノ資料も含まれます。これが「研究図書館(リサーチ・ライブラリー)」と呼ばれる所以ですが、私の研修の目的はその研究図書館としての機能を知ること、そしてハワイに残された渋沢資料に関して予備調査をしてくることでした。

社史コレクション

 マノア校図書館の日本コレクションには、2005年11月現在で約1400タイトルの社史があります。これは2001年アジア学会(AAS)で行われた、村橋勝子女史の講演がきっかけとなって構築されたコレクションです。「社史」というのは日本独特の文化であり、日本における実業・産業界の歴史的な側面を追うためには大変重要であり、将来にわたって活かされる資料だと認識されています。「社会的なバックグラウンドを知るために格好の書物として社史には注目しており、経済学、経営学の専門家だけでなく人文科学の研究をする人たちにも、広く社史を読んでもらいたいと思っている」という、研究者の声が印象に残っています。

ハワイ大学アーカイブズ

 今回の大きな目的のひとつであるアーカイブズの見学は、日本の図書館事情しか知らない私には大きな驚きでした。もともとハワイ大学のアーカイブズはパブリック・サービス部門のスペシャル・コレクションに属していましたが、通常の書籍などとは資料の性格が異なっているため近年そこから独立したものです。研修の初日午後にハワイ大学アーキビストの肩書きを持つジェームズ・F.・カートライト氏に面会しお話しいただいたことは、非常に興味深いものでした。ハワイ大学でのアーカイブズでの方針、そして資料がアーカイブズへ入ってきてから整理されるまでの流れをくわしくお話しいただきました。アメリカでアーキビストの肩書きを持つ人達は、その資格を5年ごとに更新しなければならないそうです。そのような制度のもとで資料整理の経験を積んだプロフェッショナルな方のお話しは、特に印象に残るものでした。

渋沢栄一とハワイ大学図書館との関わり

 『渋沢栄一伝記資料』には1928年1月17日の日付で、布哇(ハワイ)大学に日本に関する図書を寄贈するための資金募集に尽力していたが、当時の金額で5千円に達したので同大学原田助にそのことを知らせた、という記事があります(第40巻 p.435-445)。そこに寄贈書籍として「群書類従」64冊、「漢文体系」22冊などおおまかに列挙されています。今回その中のいくつかを見ることができましたが、アメリカ、ハワイ、日本の国旗をあしらった蔵書票が貼られ、そこには「Japanese Friends in Japan and Hawaii」と書かれてありました。おそらくその「Friends」の一人が栄一だったに違いありません。またハワイでは日本語新聞がいくつか発行され、そのうち何紙かがマイクロフィルムとして図書館に所蔵されています。「日布時事」という新聞(1927年11月2日付)の、日本からの寄附にあわせてハワイでも寄附を募ったという記事は、『伝記資料』に掲載されているとおりでした。また同じ日の新聞には青い目の人形に対する「答礼人形」に関する記事があり、そこにも栄一の名前が記載されていました。

まとめとして

 研修を通じて、我々が事業として行っている『伝記資料』目次や社史索引などのデータベースに関しての期待が高まっていることを実感しました。それとともに社史など日本研究に資する文献や情報を提供し、ハワイとの交流を深めていくことが、渋沢栄一の意志を継ぐことになるのではとも感じました。ハワイ大学の皆様、研修を快くお引き受けいただいた図書館長のペルーシェックさん、ホストを務めて下さった日本研究司書のバゼル山本登紀子さんには特に、感謝の気持ちを捧げたいと思います。

(実業史研究情報センター 専門司書 茂原暢)


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