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解題:イギリス国立公文書館「デジタル戦略 : 2017年3月」

解題:イギリス国立公文書館「デジタル戦略 : 2017年3月」

公益財団法人渋沢栄一記念財団 情報資源センター

2018年10月24日発行
[PDF版 (584.7KB)]


<目次>

【凡例】
【解題】
はじめに
《1》 イギリス国立公文書館と英国政府のデジタルへの取り組み

(1)英国における公記録管理とイギリス国立公文書館(TNA)略史
(2)TNA のデジタルに関する取り組み(2007年~2015年)
(3)英国内閣府政策文書「政府デジタル戦略」(2012年11月初版):英国政府におけるデジタル化への取り組み
(4)英国デジタル・文化・メディア・スポーツ省 政策文書「英国デジタル戦略」UK Digital Strategy(2017年3月1日)
(5)TNA 中期戦略「アーカイブズ・インスパイア」(2015年~2019年)
(6)デジタル・文化・メディア・スポーツ省 戦略ビジョン「アーカイブズ・アンロックト」(2017年3月29日)

《2》ポジションペーパー「イギリス国立公文書館におけるデジタル目録作成実務」(2017年3月)概要紹介
《3》TNA デジタル部門と「デジタル戦略」キーワード

(1)TNA デジタル部門
(2)Archives:文書館、記録資料
(3)By instinct and design:直感的本能と計画的意図によって
(4)First generation digital archive, second generation digital archive:第1世代デジタル文書館、第2世代デジタル文書館
(5)Disruptive:破壊的
(6)Digital skills, digital research:デジタルスキル、デジタルリサーチ
(7)Agile:アジャイルな

《4》日本におけるデジタル文書館について
《5》主要関連文献一覧
【注】


【凡例】

イギリス国立公文書館「デジタル戦略 : 2017年3月」の凡例に準じます。

・ただし、イギリス国立公文書館(The National Archives)は、適宜略称 TNA を用いる場合があります。


【解題】

はじめに

わたしたちは本能的直感と計画的意図によってデジタル文書館になる
We will become a digital archive by instinct and design

 今回訳出した「デジタル戦略」は、このような印象的な引用で始まるイギリス国立公文書館 The National Archives(TNA)の文書 The National Archives Digital Strategy March 2017 の全文です。

 文書館(アーカイブズ)とは、組織や個人の活動の記録を蓄積し、一定の歳月の後に広く利用に提供する仕組みです。イギリス政府の公的記録の場合、長らく作成後30年を経たものがTNAで公開されてきました。現在は作成後20年での公開体制に移行しつつあります。規定の年限到来以前にも情報公開制度によって利用が可能なものもありますが、公的な文書館制度の核にあるのは、時の経過によって、いずれはすべての公的記録への、一般の人々のアクセスが可能になる、という原理であり理念です。この仕組みは、民主主義諸国においては、政府活動を支え、記録し、その検証を可能とし、よりよい未来を作る礎となるものです。

 現在急速な勢いで進む社会全体のデジタル化に対応して、仕事・業務の進め方、それに伴う文書・記録の作成・管理に関する考え方・実務も劇的に変化しつつあります。世界の主要な国立公文書館では、3~4年間を対象期間とした戦略文書を続々と発行しており、中でもデジタル記録の管理、長期保存、利用等を重視して、この分野に関して独立した方針・政策を策定している機関も少なくありません。隣国の韓国国家記録院(国立公文書館)では、2018年6月、米国 1、英国 2、オーストラリア 3、カナダ 4、スイス 5 の各国立公文書館による政策・方針・戦略文書を韓国語訳してウェブサイトで公開しています(タイトルの日本語訳は「海外ナショナルアーカイブズ電子記録管理戦略資料集:国家記録院研究開発事業資料集」)6

 公益財団法人渋沢栄一記念財団情報資源センターでは、このうち TNA の「デジタル戦略」を取り上げて日本語訳を行いました。英国におけるアーカイブズ(文書館・記録資料)学とその実務は、日本の研究者と実務家に大きな影響を与えてきました。アーカイブズ(記録資料)記述の原則である国際標準(General International Standard Archival Description: ISAD(G))策定のためのICA記述標準特別委員会初代委員長クリストファー・J・キチング氏、同委員マイケル・クック氏らはいずれも英国出身です 7

 「デジタル戦略」は、アナログ記録(紙片や紙の冊子、マイクロフィルムやマイクロフィッシュといった媒体に記録されたもの。スキャンしたデジタル記録やデジタル化された記録も、記録情報の目録作成すなわち情報組織化の観点から見ると、本質的にアナログ 8)をアーカイブする場合の考え方と実務をデジタル記録に適用している(もしくはそれが機能不全を起こしており、新しい方法へと移行しつつある)段階の文書館を「第1世代デジタル文書館」と名付けています。「第1世代デジタル文書館」はアナログ記録の時代に有効であった文書館実務、特に ISAD(G) に代表される記述原則を、ボーンデジタル記録にも適用するような文書館、あるいはそれがうまく機能していない文書館のことです。2000年前後以降の TNA の実務の経験から、「第1世代デジタル文書館」の実務はボーンデジタル記録を扱うにあたっては有効ではない、という立場に立ち、今後 TNA が目指すべき方向性を示すモデルとして「第2世代デジタル文書館」という考え方を提示しています。ボーンデジタル記録を扱う第2世代の「破壊的」デジタル文書館は、(1)デジタル記録の長期保存を確実に行う、(2)デジタル記録のコンテクスト化に新しい考え方と実務を取り入れる、(3)デジタル記録をウェブ上で適切に提供できる、そして(4)デジタル記録の利用を可能にする、という4つの価値を提供する機関です 9

 この「デジタル戦略」は「破壊的イノベーション理論」10 の語彙を巧みに使って、TNA が、現在直面する状況にどのように対処すべきかを提示します。後述するように「破壊的イノベーション理論」では、「既存製品よりも性能面は劣るものの、低価格や簡単操作、小型といった特徴を持つ新規参入の製品が新たな顧客を獲得し、既存製品を駆逐してしまうという」11 ことを「破壊」と呼びました。この考え方は過去20年間にわたって、非常に有力な経営理論であり続けています。

 「デジタル戦略」が第2世代のデジタル文書館を「破壊的」と形容する理由は、次のような見立てに対応すると編訳者は解釈しました。つまり、こういうことです。「国際的に適用可能な標準として、確固として定式化された記録資料(アーカイブズ)の記述原則 ISAD(G) を核とする文書館業務は、アナログ時代には大成功を収めた。そのため、業務のデジタル化とそれに伴うボーンデジタル記録管理のための革新(イノベーション)も、このまま既存の方向に沿ったやり方で進めていけるのではないか、と考えがちである。またそのような慣性も働く。しかし、そのような「持続的なイノベーション」(「破壊的イノベーション論」において「破壊的イノベーション」に対置される概念)を追求するうちに、文書館はこれまで自分たちがサービスを主として提供してきた層(研究者など)とは別の層(一般の人々など)からは時代遅れなものとみなされて取り残される危惧がある。もともと持っていた文書館の価値(記録資料の提供)が低下することによって、文書館は未来の人々が政府記録(政府諸活動のエビデンス)を利用するための基盤も揺らいでしまう。とするならば、文書館はこれまでの、アナログ時代のやり方とは全く異なる(「破壊的な」)文書館実務を自ら生み出して行かねばならない」という見立てです 12。そこで、必要なのは、文書館がアナログ時代の考え方のままの実務を核とした「第1世代デジタル文書館」から、「第2世代デジタル文書館」に進化することなのだ、として提示されたのが「デジタル戦略」であると考えられます。

 ところで、先ほど「第2世代のデジタル文書館」が提供する価値として、4つの価値をあげました。このうち、(1)デジタル記録の長期保存、(3)ウェブサービスを通じたデジタルでの提供、あるいは(4)館外の人々が資料を利用することを可能にする、といった点は他の文化遺産に関わる機関(図書館、博物館)とも共通する価値と言えます。これに対し、(2)デジタル記録のコンテクスト化に新しい考え方と実務を取り入れる、という点は、文書館が提供する固有の価値と言えるでしょう。「デジタル戦略」が「破壊的デジタル文書館」として目指す点で、最もラディカルな変革が目指されているのもこの部分です。「デジタル戦略」と同時期に発表された「イギリス国立公文書館におけるデジタル目録作成実務」が、(2)デジタル記録のコンテクスト化に新しい考え方と実務を取り入れることについて、詳しく述べています(本解題でも後ほど詳しく紹介)。それによると、「第2世代デジタル文書館」の実務では、ファイルレベルのメタデータに国際標準である ISAD(G) を用いることをやめ、確率論に基づき(コンフィデントレイティングなどの導入)、記録の編成と作成に関わるメタデータ付与はコンピューターによる計算を一部導入し、(記録の再利用ごとに新たなエンティティが生まれるため)記録連続体(レコードコンティニュアム)モデルによる「時間を意識した記述」を行う、といったことが検討されています。そして、このような実務を実現するための職員としてデジタルスキルを持った人材を確保することが必要であり、また文書館における各種の業務自体をデジタルの特性に合わせて、アジャイルなものにして行く、といったことが「デジタル戦略」においては強調されています。

 TNA はこの「デジタル戦略」と同時期にポジションペーパー「イギリス国立公文書館におけるデジタル目録作成実務」Digital Cataloguing Practices at The National Archives を公表(2017年3月)する一方、英国政府内で TNA を所管する文化・メディア・スポーツ省(現在は名称変更の結果、デジタル・文化・メディア・スポーツ省:いずれも略称は DCMS)でもこの月に次の2つの文書を発表しています。

・政策文書「英国デジタル戦略」UK Digital Strategy (2017年3月1日)
・戦略ビジョン「アーカイブズ・アンロックト」Archives Unlocked(2017年3月29日)

 そこで本解題では、英国政府全体としてのデジタル戦略にも言及しながら、イギリス国立公文書館の「デジタル戦略」をご紹介したいと思います。本解題は次の5つの部分に分かれます。

《1》 イギリス国立公文書館と英国政府のデジタルへの取り組み
TNA の歴史と役割の概要、これまで日本で紹介されてきた TNA のデジタル記録に関する取り組み、そして英国政府の関連部門が近年公表したデジタルに関する政策についてまとめました。「デジタル戦略」が英国政府のデジタルに関わる取り組みと密接に関連していることが理解できるでしょう。

《2》ポジションペーパー「イギリス国立公文書館におけるデジタル目録作成実務」(2017年3月)概要紹介
「デジタル戦略」は「デジタル記録に関わる挑戦は、文書館が大きく変わる必要があることを意味している。それは、破壊的デジタル文書館がもたらす、アーカイブズ(文書館と記録資料)に関わる実務における革命に他ならない」 13 と述べています 。この部分は「デジタル戦略」のエッセンスとも言える部分であり、その具体的内容を理解するには、同時期に発表された上記のポジションペーパー「イギリス国立公文書館におけるデジタル目録作成実務」(以下、「TNAデジタル目録作成実務」)を参照する必要があります。解題の【2】は「TNAデジタル目録作成実務」の概要紹介に充てました。

《3》TNAデジタル部門ディレクターと「デジタル戦略」キーワード

《4》日本におけるデジタル文書館

《5》主要関連文献一覧

* * *

《1》イギリス国立公文書館と英国政府のデジタルへの取り組み

(1)英国における公記録管理とイギリス国立公文書館(TNA)略史

 イギリス国立公文書館(TNA)の前身は、19世紀前半(1838年)に制定されたパブリック・レコード・オフィス法(Public Record Office Act 1838)により設立された、パブリック・レコード・オフィス(Public Record Office:以下PROと省略)にさかのぼります。PRO は当時のグレートブリテン及びアイルランド連合王国(1801年から1922年まで。1922年以降はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国)のうちイングランド、ウェールズと連合王国政府の国立公文書館として、政府の重要な公記録の保存と研究者の利用に対する提供を行ってきました(中島康比古「イギリス国立公文書館の近年の取組:電子情報・記録の管理を中心に」国立公文書館『北の丸』第43号、2011年2月、178 ページ。以下、本論文を「中島論文」と呼びます) 14

 その後、20世紀半ば(1958年)に制定された公記録法(Public Records Act)によって政府記録の包括的な管理について法制化が行われ、2000年に情報公開法(The Freedom of Information Act: FOIA)が制定されています。PROは21世紀に入り、1869年に設立された王立歴史資料委員会(Royal Commission on Historical Manuscripts: HMC)と2003年に合併して TNA に名称変更し、さらに2006年に王立印刷局(1786年設立)、公共機関情報局(公共機関が作成・収集した情報の再利用促進を目的とするEU指令により2005年設立)とも合併するなど、現在急速に変化しつつあります(以上、中島論文、同上ページ)。

 英国政府の中での位置づけも歴史的に変遷しています(詳しくは前掲の中島論文ならびに渡辺悦子「電子記録管理の現在:イギリス国立公文書館の場合」国立公文書館『アーカイブズ』第61号、2016年8月、(以下、「渡辺論文」と呼びます)を参照)15 。PROとその後継の TNA は長らく法務省所管の機関でした。しかし、2015年9月に文化・メディア・スポーツ省(Department of Culture, Media & Sports: DCMS)に所管が代わり、さらに同省は昨年2017年7月にデジタル・文化・メディア・スポーツ省に名称変更しています(ただし略称は従前と同じくDCMS)。

 TNA は渡辺論文が示すように、非大臣省non-ministerial departmentです。これは、その業務の内容が政権政党の政策に左右されたりすることが、ふさわしくない機関ともいえ、トップは政治家ではなく行政機関職員が務めます。そのため、政府内において高い独立性を保ちつつ、継続性が保たれるよう独自に機関の政策を策定してきました。後述の2015年から2019年を対象とした中期戦略「アーカイブズ・インスパイア」(現在ウェブサイトで公開されているPDF版は2018年版)、2009年から2015年にかけての中期政策「21世紀のためのアーカイブズ」 Archives for the 21st Century はいずれも、そのような独立機関としての TNA の政策です。しかしながら、この解題で明らかにするように、「政府全体でデジタルをデフォルトにする」という現在の英国政府の政策と TNA の機関としての方針は密接に関連しています。

 なお、中島論文によると、英国の法律における「記録」recordsについては、2000年の情報公開法第46条に基づく記録管理に係る行動規約(Code of Practice。その策定は大法官 Lord Chancellor の義務)の中で次のように定義されています。すなわち、記録recordsとは「組織又は個人が、法的義務の履行又は業務遂行において、証拠及び情報として作成、受領及び維持する情報」であり、これはISO15489-1:2001「情報及びドキュメンテーション―記録管理―第1部:総説」の定義をそのまま引きついだものです(中島論文、183ページ)。日本の法律「公文書等の管理に関わる法律」第4条における「行政文書」の定義(行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書であり、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているもの。詳しくは同法を参照のこと)に比べると、英国の法律が「記録」recordsの対象とするものは広範囲にわたるといえるでしょう。


(2)TNA のデジタルに関する取り組み(2007年~2015年)

 TNA では、2007年から2011年にかけてのデジタル継続性Digital Continuityプロジェクトによって、電子記録のデジタル継続性の確保についての調査研究が行われました(詳しくは中島論文と渡辺論文を参照)。このような取り組みと並行して、TNA ではこれまでの目録記述の方法を見直し、サービスの提供先を研究者から一般の市民に広める取り組みが図られました。その目玉は、2012年10月に「ディスカバリー Discovery」と名付けられたウェブサービスの提供開始です。2015年10月に福岡で開催された国際アーカイブズ評議会東アジア地域支部第12回総会およびセミナーに来日した TNA の商務・デジタル関係担当ディレクター(当時)のメアリー・グレッドヒル氏 16 の講演「イギリス国立公文書館におけるボーンデジタル記録管理の課題」によると、「ディスカバリー Discovery」はそれまで別個に設計、運用されていた記録資料データベースを、記録の記述record descriptionをひとつの検索ボックスで検索、閲覧できるように、単一のentityに統合したもので、一般の市民向けのものです。しかし専門家向けの高度な検索機能も搭載しています。ベースとなっているのはオープンソフトウェア型のLuceneで、英国各地の2,500のアーカイブズ機関からの1,000万件のrecord descriptionを、機関と機関所蔵資料の詳細情報とともにひとつに集約したものです。「ディスカバリー Discovery」は、オンライン目録での記録検索から、利用可能な多様な資料へのアクセスまで、切れ目のないユーザーエクスペリエンスを提供することができます。具体的には、以前はオンライン目録とダウンロードシステムが切り離されていたのですが、これを統合することにしたものです。かつては目録チームが目録を「支配」し、オンライン化する資料を選ぶのはeコマースチームが行う、というようにバラバラに業務を行っていたのでした。しかし、「ディスカバリー Discovery」向け運営委員会を新設、組織構造の幅を広げた結果、すべての関係者が意思決定に関わることになり、利用者により良いサービスの提供が可能になりました。また2013年には、それまで作成後30年してから記録を公開するルールだったものを、20年での公開の仕組みに移行することも開始しています 17

 グレッドヒル氏は福岡での講演での質疑応答で、「ディスカバリー Discovery」導入にあたって、館内の専門家(アーキビスト)や専門的な利用者からの使いにくいという反応に関して、「さまざまなユーザーグループとの会合、ワークショップ、ウェビナー等を開催し利用者からのフィードバックをシステムの改善に反映するようにした。またウェブページにはフィードバックボタンをつけて、問題点を把握し、それへの対処を迅速に行えるようにした。『すぐに』やるというのが大切。また、よい面と悪い面のバランスのとり方が大切」と回答していました。2015年10月のEASTICA福岡セミナーでは、デジタルへの取り組みでは克服すべき様々な課題があることが示唆されていました。


(3)英国内閣府政策文書「政府デジタル戦略」(2012年11月初版):英国政府におけるデジタル化への取り組み

 ここで英国政府全体に関わるデジタルへの取り組みについて見てみたいと思います。英国政府は2012年11月に内閣府の政策文書policy paper「政府デジタル戦略」Government Digital Strategy を発表、これは2013年12月にアップデートされています。

 2013年12月の同文書のアップデート版によると、この当時、政府の国民に対するサービスは、民間セクターに比べて遅れを取っていたと言います。例えば自動車保険への加入はその74%はオンラインで手続きしているのに、自動車税に関してはオンラインでの手続きは51%にとどまっているという例があげられています。同文書は、デジタル、すなわちオンラインの利用によって、政府サービスはより迅速に簡便に提供できる一方、コストも削減できることを強調しています。さらに重要な点として、新しい技術が、アカウンタビリティを増大させ、選択肢を増やし、イノベーションを後押しすると述べて、政府は経済成長と社会の発展のためのオープンデータ革命の最前線に立つことを明言しています。

 「これまで政府はデジタル時代の便益について理解が遅れていた。しかし、わたしたちのサービスは将来、21世紀にふさわしいもの、つまりアジャイルで、フレキシブルで、デジタルがデフォルトなものになるだろう」 'Until now government has been slow to realise the benefits of the digital age. In the future our services will be fit for the 21st Century - agile, flexible and digital by default.'(下線は編訳者による)18


(4)英国デジタル・文化・メディア・スポーツ省 政策文書「英国デジタル戦略」UK Digital Strategy(2017年3月1日)

 (3)で紹介した「政府デジタル戦略」は、今後各省がデジタル政策を策定するであろうと記していました。そして、2017年3月1日、TNA を所管するDCMSが政策文書「英国デジタル戦略」UK Digital Strategyを発表しています。このDCMSの政策文書では次の7つの事項を英国のデジタル戦略の柱とすると定めています。

・英国のために世界一流のデジタルインフラを作り上げる
・あらゆる人にそれぞれが必要とするデジタルスキルへのアクセスを提供する
・英国をデジタル企業の起業と成長の場として最良のところにする
・全ての英国企業がデジタル企業になることを手助けする
・英国をオンラインで生活し働くのに最も安全な場所にする
・英国政府がその市民に対してオンラインでサービスを提供する点で世界のリーダーであることを維持する


(5)TNA 中期戦略「アーカイブズ・インスパイア」(2015年~2019年)

 2015年に TNA の所管が法務省からDCMSに変更されたのと時期を同じくし、TNA は2015年から2019年までを対象にした同館の中期戦略「アーカイブズ・インスパイア」を発表しています。この中期戦略はデジタルへの取り組みを一層加速させることを最大の戦略課題とするもので、TNA のオーディエンスと対応する TNA の機能を次のように確認しています 19

・政府にとって TNA は政府の公記録の管理者、保存者、提供者
・一般の人々にとって TNA は記録資料に対して自由なアクセスを提供し、記録資料コレクションに含まれる何百万というストーリーと人々をつなぐ
・全国の文書館にとって TNA はリーダーであり、援助者としてスキル・能力向上を手助けする
・学術コミュニティにとって TNA は研究において連携協力のための機会を提供する

 この「アーカイブズ・インスパイア」の中で、同館最大の戦略課題であるデジタルに関わり、「わたしたちは計画的意図によってデジタル文書館になる」We will become a digital archive by design. ことを宣言しており、これが今回日本語に訳出した「デジタル戦略」の冒頭で引用されています 20。「デジタル戦略」はこの中期戦略と密接に関係しています。中期戦略文書に書き込まれたデジタルに関わる目標は下の5つです(2018-2019年度、6ページ)。

・作成からプレゼンテーション(見せること)までの、大規模なデジタル記録管理におけるトランスフォーメーションをリードする
・利用者に革新的なオンラインサービスを提供する協力連携関係(商業的提携を含む)を立ち上げる
・「ディスカバリー Discovery」を英国内のアーカイブズ(文書館と記録資料)へのアクセスを望む人すべてがまず最初に検索に利用するものとする
・他の文書館が所蔵コレクションをオンラインで提供するのを手助けするプラットフォームやツールを提供する
・デジタル世界において変化し続ける顧客の期待 customer expectations に応える


(6)デジタル・文化・メディア・スポーツ省 戦略ビジョン「アーカイブズ・アンロックト」 21 (2017年3月29日)

 いっぽう、TNA の役割の一つには、英国国内の2,638に上る(2018年8月21日現在)22 文書館の中で、リーダーシップを果たすことがあります。これらの文書館のまとまりは、伝統的に「アーカイブズセクター」と呼ばれてきました。2017年3月29日に発表されたDCMSの文書「アーカイブズ・アンロックト」23 は、このアーカイブズセクターに関する政府の戦略ビジョンを明らかにしたものです。これは2018年3月にアップデートされています。

 「アーカイブズ・アンロックト」という文書のタイトルは、「アーカイブズ(文書館と記録資料)が持つ潜在的な力を解き放つ」ことを意味しているでしょう。この戦略ビジョンではアーカイブズセクターの目標 ambitions として、「信頼」trust、「充実」enrichment、「開放性」openness の3つをあげています 24

・人々と文書館が、記録の真正性とその保存と提供の仕方に対して「信頼」trustを置く
・文書館は、自分たちの社会を知的、文化的、そして経済的に「充実」enrichmentさせる
・文書館は、知識に対する開かれたアプローチを育て、全ての人にとって利用可能となるような「開放性」openness を持つ

 付属文書「アーカイブズ・アンロックト:ビジョンを実現する」Archives Unlocked: Delivering the Vision 25 によると、このビジョン実現のためにリーダーシップを取るのが TNA、パートナーとしてビジョン実現をともに進める団体として名前を連ねているのが、アーカイブズ・レコード協会(Archives and Records Association: ARA)、アーツ・カウンシル・イングランド(Arts Council England)、図書館情報専門家協会(Chartered Institute of Library and Information Professionals(CILIP)、デジタル保存連合(Digital Preservation Coalition: DPC)、文化遺産宝くじ基金(Heritage Lottery Fund: HLF)、JISC(英国情報システム合同委員会)、地方政府協会(Local Government Association)他です。

 付属文書「アーカイブズ・アンロックト:ビジョンを実現する」によると、3つの目標達成のために、「デジタル能力」digital capacity、「回復力」resilience、「影響力」impact が重視されており、特に、2年目(2018-2019)のバージョン「アーカイブズ・アンロックト ビジョンを実現する」Archives Unlocked Delivering the Vision 2018-2019 では、優先事項の最初に「デジタル能力」をあげています。HLF から72万ポンド(約1億円)の助成を得て、3年にわたってデジタル人材養成のためのプログラム「デジタルギャップに橋を架ける」Bridging the Digital Gap を TNA が実行することになった点も、1年目の成果として同文書に示されています 26。この件に関して、TNA は2018年2月14日、文化遺産宝くじ基金(HLF)より、24人分のデジタル・アーカイブズの専門家養成のために72万600ポンドの助成を受けたと発表し、これは日本でも話題になりました 27

* * *

《2》ポジションペーパー「イギリス国立公文書館におけるデジタル目録作成実務」(2017年3月)概要紹介

The National Archives, Digital Cataloguing Practices at The National Archives, March 2017. 28
(Contains public sector information at licensed under the Open Government Licence v3.0.)

 アーカイブズ(文書館における記録資料)の目録作成(記述)の考え方・方法には、国際アーカイブズ評議会(ICA)が策定し、その策定過程には当の TNA も中心的に関わってきた国際標準(ISAD(G)その他 29 )があります。TNA は自館における実務にこれを採用してきました。しかしながら、扱う記録が紙からボーンデジタルに移行する中で、TNA はこれまで率先して従ってきた目録規則の国際標準に対してはいくつかの点で距離を置き、独自の立場を取るようになっています。それがここで紹介する「TNA におけるデジタル目録作成実務」(の特に4.の諸項目)であり、自らの立場(ポジション)を世界のアーカイブズコミュニティに明らかにしています。この文書の冒頭の要約でも、自館(TNA)のデジタル目録作成実務が英国内外でベンチマークの対象と見られていることを自覚している、と述べています。

 目次は次の通りです 30

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要約 Executive Summary
1. デジタル目録の17年間 Seventeen years of digital catalogues
2. デジタル記録 Digital records
3. TNAのデジタル戦略 The National Archives' Digital Strategy
4. デジタル目録作成実務 Digital Cataloguing Practices
4. 1 レファレンスコードの付与 Referencing
4. 2 記述レベル Levels of description
4. 3 数量 Extent and medium(「ディスカバリー Discovery」では物的記述 labelled Physical description in Discovery)
4. 4 編成 Arrangement
4. 5 タイトル Title
4. 6 資料内容 Scope and content(「ディスカバリー Discovery」では「記述」labelled 'Description' in Discovery)
4. 7 年月日 Dates
4. 8 物的状態 Physical conditions(ISAD(G)では物的特徴 Physical characteristics and technical requirements in ISAD(G))
4. 9 ノート Note
4.10 管理履歴 Custodial History(ISAD(G)では伝来 Archival history)
4.11 公開条件 Conditions governing access
4.12 非公開ステータス Closure Status
4.13 非公開タイプ Closure Type
4.14 非公開コード Closure Code
4.15 記録公開年月日 Record Opening date
4.16 公開制限 Restrictions governing access(「ディスカバリー Discovery」では利用制限 Restrictions on Use in Discovery)
5. シリーズレベルの記述 Series level description
6. デリバリーのオプション Delivery Options
7. 目録作成とデジタル記録インフラストラクチャ(DRI) Cataloguing and the Digital Records Infrastructure (DRI)
8. これからの道 The way ahead
付録:デジタルならびにハイブリッドなレコードシリーズのリスト Appendix: List of digital and hybrid record series

- - -

 目録作成部門のヘッド、ジョーン・ガーメンディア Jone Garmendia 氏は「要約」の部分で概ね次のように述べています。

・このポジションペーパーは、イギリス国立公文書館におけるデジタル記録の目録作成実務の進化と現状を概説している。

・デジタル化された記録とボーンデジタル記録の破壊的な影響力 disruptive impact of digitized and born-digital records が、アーカイブズ記述のための国際標準ISAD(G)の解釈法ならびにその使用法を揺さぶってきた。

・しかし、デジタル目録に関わって過去17年間アーキビストたちは、新しい技術、アクセスとプライバシーの均衡を保つ新しい方法、ユーザーエクスペリエンスのインパクト、ソーシャルメディア、コンテンツの機密性content sensitivityの影響、そしてデジタル移管digital transferという課題とともに歩んできたのであるから、変化は新しいものではない。

・このペーパーでは、いくつかの新しい概念を紹介し、第2世代のボーンデジタル記録について考察する。確率論的、文脈的(コンテクストを含む)、および時間的に認識される記述といった概念(concepts such as probabilistic, contextual and temporally aware description)を定義しつつ、ボーンデジタル記録、デジタルサロゲート、デジタル化(された)記録に関する TNA の理解を示す。TNA においてはかなり新しい考え方であるが、実際にはこれらの「新しい概念」は学際的な提案として相当期間存在してきたものであって、世界中の同僚たちも同じような考え方やアイデアを共有していることを TNA は意識している。

・このポジションペーパーは、TNA の現在の実務をまとめ、技術とアーカイブズ実務の両方が進化し続けることを認識しつつ、できるだけ会話を大きく広げることを目指している。

 本文の1.~8.は大きく3つの部分に分けられます。1.~3.はデジタル記録とその記録情報の整理と提供の方法の変遷、デジタル記録の種類と特性、「デジタル戦略」の基本的な考え方について、4.は TNA におけるデジタル記録目録作成実務の具体的事項で、特に国際標準 ISAD(G) と異なる点とその理由、TNA 独自のデジタル記録目録項目(要素)、21世紀に入ってからのTNAにおける目録作成実務と情報システム、デジタル記録の目録化、5.~8. は目録そのものではなく、デジタル記録の提供や長期保存のためのシステム、今後の目録作成実務改善の考え方を述べています。以下、順次紹介していきます。ただし、「4. デジタル目録作成実務」の内容は目録実務の詳細にわたるものであり、ここでは「4.1 レファレンスコードの付与」、「4.4 編成」、「4.7 年月日」にしぼりました。

1. デジタル目録の17年間 Seventeen years of digital catalogues

 TNA では2000年10月9日に PROCAT(the Public Record Office Catalogue)導入に着手し、これは2001年3月に一般向けにウェブサイトで公開されました。それまで作成・提供してきた冊子リストのオンラインバージョンです。冊子からオンライン目録への移行によって、冊子目録のブラウジングがオンラインによる検索に変わったほか、何種類か存在した検索手段は単一の目録データセットに集約されました。記録のコンテクストは大まかには ISAD(G) に基づいたアーカイブズの階層構造内にリンクを貼ることで提供してきました。

 2001年11月に TNA は頻繁に利用される記録のデジタルコピー集のウェブサイトを別に構築し、これを PRO-Online と名付けました。その後このサイトは DocumentOnline に再ブランド化されています 31

 前述のように PRO と HMC が合同して TNA となり(2003年4月)、これに伴いウェブサイトも再ブランド化が行われた2004年6月に PROCAT は 'the Catalogue' に名称変更されましたが、目録事務管理システム 'PROCAT Editorial' にはそのまま継続利用されました。TNA 内の関連部門(Pubic Services Development)との話し合いを経て2008年に TNA では冊子目録更新を中止しています。新たに移管された記録、補遺、新規公開記録の記述(description)、情報公開請求によって公開された記録は印刷して提供し続け、これが終了したのが2011年3月31日です。

 2008年夏のICAクアラルンプール大会で、TNA の目録担当マネジャーはアーカイブズ(記録資料)記述に関する国際標準サブコミティーにおいて、TNA での目録作成実務が以下の3つの点で ISAD(G) から離れつつある点を報告しています。

(1)階層の上位項目を反復しないルールをもはや尊重していない。
(2)「資料内容」項目(Scope and content)には構造化されたデータタグ(苗字 surname、名前 forename、場所、職業など)を記述することを許容する。
(3)記述の公開に関わるエリア(access area)とウェブでのデリバリーオプションはISAD(G)を大幅に超えたものを開発しつつある。

 一方、2005年から2008年にかけて政府各部門からデジタル記録をデジタルなアーカイブに継ぎ目なく取り込む(seamless ingest)システムと新しいプレゼンテーションインターフェイス開発(「シームレスフロー」プログラム)に取り組んでいます。

 2008年にボーンデジタル記録のためのパイロットサービス「電子レコードオンライン」Electronic Records Online(ERO)を公開しました。この時点ではボーンデジタル記録と紙の記録を一つのシリーズとして扱う能力がないため、別々のシリーズとしました。その後「シームレスフロー」プログラムとEROは大量のデジタルオブジェクトを扱うことができないのが判明し、2011年 Digital Records Infrastructure(DRI)システムの開発に着手したのでした。

 TNA では2009年後半、英国政府ウェブアーカイブへのリンクを提供するウェブサイトの目録作成方法を開発しています。ウェブサイトは ISAD(G) のファイルレベルの記述には役立たないので、シリーズレベルでのみ目録作成することとしました。これは個々に日付がつけられたインスタンス(スナップショット)が表示される「英国政府ウェブアーカイブ」へのリンクを含むものです。シリーズレベルでの目録作成とは、一つのウェブサイト全体をひとまとまりの記録のグループとして一般的に記述するもので、このアプローチは拡張性があり、次の3つの目標をサポートしつつ、英国政府ウェブアーカイブの独自の発展を許容するものです。

・出所(provenance)に基づいた公式の公記録目録内にウェブサイトを含めることができる
・知的コントロールと学問的厳密性に関して妥当なレベル
・各種フォーマットを通じて高いレベルのファインダビリティを提供

 データセットについては、2010年10月まで政府のデータセットは National Digital Archive of Datasets(NDAD)に収められ、TNA の外部で管理されていました。同月から始まった目録作成プロジェクトは、オンライン目録と「ディスカバリー Discovery」に登録するコレクションレベルの情報の作成に取り組みました。the Catalogue は2011年に、新たに構築された「ディスカバリー Discovery」を構成する最初のデータセットになりました。「ディスカバリー Discovery」は the Catalogue のほか、DocumentOnline と Digital Records Infrastructure(DRI)のデータを取り込み、のちにその他のサービス(全国アーカイブズ登録簿、A2A、荘園文書登録簿)のメタデータと目録項目も取り込み、これらのデータを提供する単一のシステムとなったわけです。古い目録の運用は2013年4月に終了しています。一方、団体と個人の名称の典拠データは2015年9月に「ディスカバリー Discovery」にマイグレートされました。

 2000年のPROCATサービス提供開始時、オンライン目録の文書レベルの記述は800万件でした。2017年3月現在、「ディスカバリー Discovery」に登録された、TNA 所蔵記録に関する情報アセットは2,300万件となっています。

2. デジタル記録 Digital records

 TNA では2014年から2015年にかけて、Digital Transfer Project が行われ、ここでデジタル記録へのレファレンスコードの付与、その編成と提供の仕方に関して、従来の実務に対して変更を加えています。Digital Records Infrastructure(DRI)には「第1世代デジタルコンテンツ」として、「ボーンデジタル記録」、「デジタルサロゲート」、そして「デジタル化記録」の3種類のデジタル記録が取り込まれています。それぞれの記録に関して TNA は次のような考え方を取っています。

◎「第1世代デジタルコンテンツ」のデジタル記録資料

・ボーンデジタル記録 born-digital records
 これに対して TNA は「倹約保存」Parsimonious Preservation という考え方で対応しています。作成原局から受け取ったオリジナルは保存用とし、利用提供するためのアクセス用のコピーを作成しています。2014年から2016年にかけて、レファレンスコードの付与と編成、提供に関わる新しい方法が定められました。

・デジタルサロゲート digital surrogates
 アナログ資料(紙、マイクロフィルム、マイクロフィッシュ)をデジタル画像に変換したもので、元の紙の記録はオリジナルな公記録 public record として TNA が管理します。マイクロフィルムも時に公記録として収集されることがありますが、それはサロゲートです。デジタルサロゲートは本質的にはアナログであるため、「イギリス国立公文書館目録作成標準」(The National Archives Cataloguing Standards)が認める伝統的なレファレンスコードの付与と ISAD(G) が適用されます。

・デジタル化された記録 digitized records
 これもアナログ資料をデジタル化したもので、出所に関するメタデータを別にキャプチャしてそれぞれのファイルに埋め込みます。これによって収集された公記録となります。デジタル化されたバージョンが、オリジナルなアナログな情報源の代わりに永久保存のための公的な記録になります。これらも本質的にはアナログ記録であり、上記の「イギリス国立公文書館目録作成標準」が認める伝統的なレファレンスコードの付与と ISAD(G) が適用されます。

 「第1世代デジタルコンテンツ」においては、ボーンデジタル記録とデジタル化された記録の「記録であること、レコード性」recordness が大きな問題となります。つまり、正確さ veracity、アカウンタビリティ、真正性、全体性 integrity に関わる記録プロパティを、デジタルオブジェクト自体には見いだすことができないのです。これらは記録に付随するメタデータに見いだすことができるため、メタデータが記録 record の一部となるのです。

◎「第2世代ボーンデジタルコンテンツ」

 これは政府の各省や他の公記録作成機関内ですでに堆積が始まっているもので、「デジタルワイルドウェスト」とか「デジタルヒープ」と呼ばれています。ボーンデジタルなコンテンツは組織化、構造化されていない悲惨な状況で、次のような特徴のどれかを持っています。これらは無秩序な状態であり、伝統的なオンライン目録にレンダリングするのは難しいものです 32

・不定形な集積
・明確な作成者の欠如もしくは非政府関係者を含んだハイブリッドな作成
・信頼できない出所
・政府機能とデジタルな堆積の間のリンクが一貫しなかったり、つながりが途切れているもの
・複製が疑われるもの
・真正性が怪しいもの
・破損したり埋め込まれたファイルを含むもの
・多様なファイルフォーマットからなるオブジェクトを含むもの
・構造化されていない共有ドライブに保存されているもの
・保存もしくは「アーカイブ」する、「取り除く」、あるいはある時点で共有する必要がある、という点が唯一のプロパティであるような資料

3. TNAのデジタル戦略 The National Archives' Digital Strategy

 「デジタル戦略」が目指すのは「TNA が本能的直感と計画的意図によってデジタル文書館になる」ことです。これは次の3つを実行することによって可能であると考えられています。

・「破壊的デジタル文書館」と物理的文書館のデジタルトランスフォーメーションを受け入れる
・デジタル記録が文書館実務を破壊することを認める
・TNA のデジタル能力とデジタル文化を強める

 第1世代ボーンデジタル記録によって、目録作成と記述に関わるそれまでの実務はすでに破壊(無効なものと)されており、「デジタル戦略」では、第2世代ボーンデジタルコンテンツの記録の記述 record description に対して全くの新しいアプローチを開発して適用することを考えています。つまり、ファイルレベルのメタデータに国際標準である ISAD(G) を用いることをやめ、今後の記述には、確率論的で、コンテクストによる、時間を意識した記述(Probabilistic, contextual and temporally aware description)を採用するとしています。

■「確率論的な記述」とは?
 データは不完全なものであることを認め、不確実性を受け入れます。TNA ではボーンデジタル記録等に関して、将来のメタデータにはコンフィデントレイティングの導入を考えています。それはコンピューターの計算によるスコアと人間の判断によるスコアを組み合わせたものになるのではないかと考えられています。

■「コンテクストによる記述」とは?
 これは次のようなものをカバーするものです。

・レコードキーピングシステムと現在の編成(あるいはその欠如)
・記録作成組織または個人の管理運営の履歴
・(記録)作成組織または個人
・運営管理機能
・記録record、シリーズ、集積accumulationに関する管理およびアーカイブズとしての履歴

 第2世代ボーンデジタルコンテンツにとっては、編成と作成に関わるメタデータはコンピューターによる計算という方法で抽出されます。一方、記録の業務利用に関わる管理運営履歴(administrative history)、機能、管理事項といったものはどちらかというと人間の判断にゆだれられるかもしれません。

 このポジションペーパー作成中の2016年9月に公開された ICA-EGAD による「レコード・イン・コンテクスト標準(RiC-CM):アーカイブズの記述のための概念モデル」は、リンクトオープンデータの技法を使って、記述エンティティを定義するオントロジーと、ICA の既存の4つの記述標準を統合するようデザインされたものです。TNA は RiC-CM の開発を歓迎する、と評価する一方、RiC-CM がアーカイブズ(記録資料)記述を改善し、ISAD(G) を超えて文書館界をさらに前進させるかどうかはまだわからない、としています。

■「時間を意識した記述」とは?

 アナログ記録の場合は、現用、半現用、非現用という、時間と結びついたライフサイクルモデルが記録管理上有効でした。しかしボーンデジタル記録は、時間に固定されないという性質を持つため、記録連続体(レコードコンティニュアム)モデルを適用するのが説得力を持ちます。ボーンデジタル記録の場合、ある時点におけるバリエーション temporal variation が、メタデータとデジタルオブジェクトの両方にとって新しい現実となるのです。TNA の業務の過程で、すでにこれまでとは異なったデータ構造が現れてきているのが認められています。そういったデータ構造は、現在のメタデータスキーマに破壊的なインパクトを持っています。さらに、文書館がすでに管理している公的なボーンデジタル記録は、将来再利用されるかもしれません。その場合、その記録は新しいエンティティに変身することになります。これはアナログ時代のライフサイクルモデルには見られなかった事態で、まさに未知の領域に属します。

4. デジタル目録作成実務 Digital Cataloguing Practices

4.1 レファレンスコードの付与Referencing

 レファレンスコード付与の目的は、記録を一意的に識別しその記録のメタデータへのリンクを提供するためのものです。ボーンデジタル記録へのレファレンスコードは、Digital Records Infrastructure システムへの取り込みの際に自動的に生成されます。Digital Records Infrastructure のレファレンスコード付与機能の基礎としては、RFC4648ベース32アルファベットを用います。

また、アナログ記録とデジタル記録を別々のシリーズに分割する必要はなくなり、ハイブリッドシリーズとして一つのシリーズとして編成できます。

4.3 編成 Arrangement

 「デジタル戦略」ではコンテクストによる記述とコンテクストによる理解の重要性が強調されています。ピース(ファイル)レベルのメタデータにコンテクスト情報を持ち込むことによって、デジタル記録間の文脈上のリンクを強化することができ、同時に情報検索を容易にします。なぜならコンテクストなしのデジタルタイトルの多くは無意味であるからです。検索目的で全て索引化された記述の編成要素は、ボーンデジタル記録にとって必須です。

 コンテクストを提供することは、将来デジタル文書館がどのように価値を提供するかにとって必要不可欠な部分です。デジタル記録についてのコンテクスト情報の強化について TNA では、今後もいろいろな考え方やオントロジーを検討していくつもりです。

4.6 年月日 Dates

 デジタル記録は日付に関して通常複数のメタデータ項目を提供します。Digital Records Infrastructure は移管された年月日メタデータを全て保存することができますが、どれを作成「年月日」として利用者に提供するかは、アーキビストが判断する必要があります。将来的には追加的なデジタル日付を発行したいと考えています。

 同じく今後は目録に、日付とその他のメタデータに関して不確実性のレベルにフラグを立てるため、コンフィデントレイティングを導入したいと考えています。確率論的データ情報は計算される必要があり、一つ一つのデジタルオブジェクトごとに判断することはないでしょう。

5. シリーズレベルの記述 Series level description

 ボーンデジタル記録の目録作成にとってはシリーズレベルの記述が極めて重要な一歩です。

6. デリバリーのオプション Delivery Options

 記録へのアクセスを可能とすることこそ、TNA の目録にとっての第一の目的です。ISAD(G) はアクセスとオンラインによるデリバリー情報を記述して、提供するための粒度の細かなアプローチを与えてくれなかったため、TNA は何年もかけて独自のモデルを開発しました。

7. 目録作成とデジタル記録インフラストラクチャ(DRI) Cataloguing and the Digital Records Infrastructure (DRI)

 DRIは、TNA のデジタル文書館を構成する、モジュール化された広範なネットワークシステムです。DRI のメタデータスキーマはダブリンコアに依拠しつつ、ISAD(G) の記述要素を包含するように拡張されてきました。「ディスカバリー Discovery」を通じ、一般の人々からのデジタル記録へのアクセスが可能になるように、DRI はこれらのメタデータフィールドを「ディスカバリー Discovery」BIAスキーマ(TNA のオンライン目録「ディスカバリー Discovery」のための機械可読メタデータを含むxml ファイル)にマッピングしてエクスポートしてきました。

 3種類のデジタル記録(ボーンデジタル、デジタルサロゲート、デジタル化記録)はシリーズごとにカスタマイズされた特別なワークフローを利用して、DRI に取り込まれます。ボーンデジタル記録のメタデータは、記録を作成した政府各部門によって抽出、付加されて、TNA にCSVファイルとして提出されます。

 デジタル記録各シリーズと付随するメタデータCSVファイルはデジタルリポジトリーに取り込まれる前に一連の処理が行われます。その時利用されるのが DROID(ファイルフォーマット識別ツール)と CSV Validator(これは TNA のCSVスキーマ言語を利用)です。

 さらにアナログとデジタルの両方の目録のメタデータを扱える統合目録管理システムも開発中です。

8. これからの道 The way ahead

 これからのことは正確にはわからないが、TNA の究極的なゴールは本能的直感と計画的意図によってデジタル文書館になることです。

 2017-2018の戦略的優先事項の一つは大規模なデジタル記録の作成からプレゼンテーションまでの管理方法のトランスフォーメーションを進めることです。アーカイブズ(記録資料)の編成と記述(メタデータ管理を含む)がデジタル業務の中核的な要素です。

 TNA では目録作成とは「記録を利用者が利用できるように、記述情報(データ)を編成し、割当て、作成し、あるいは改善するプロセス」と定義されています。TNAの目録が利用者にどのように受け止められているのか、利用者の期待と、現在の「ディスカバリー Discovery」サービスにはどんなギャップがあるのか、を知るためのユーザーエクスペリエンス調査プロジェクトも行っています。

 現在のところ22万のボーンデジタル記録とデジタル化された記録を含む17のシリーズ(デジタル、もしくは紙とデジタルのハイブリッド)をシステムに取り込んで、「ディスカバリー Discovery」を通じて利用者に提供しています。これらの記録の移管、保存、プレゼンテーションのプロセスの完全自動化の開発も目指しているところです。

 TNA は現在、デジタル基盤を強化し、政府各部門からのデジタル移管を通常業務として処理しています。この作業に加えて、TNA が保存できるデジタル記録の種類を広げ、デジタル世界のユーザーの変化する期待に応え、独自のデジタル機能、スキル、文化を開発したいと考えています。

* * *

《3》TNA デジタル部門と「デジタル戦略」キーワード

(1)TNA デジタル部門

 英国政府刊行物には国家著作権が適用されるため、「デジタル戦略」には著作者としての個人名は現れません。しかし、「TNA デジタル目録作成実務」21ページの注19にも明記されているように、「デジタル戦略」は TNA デジタル部門のディレクターであるジョン・シェリダン John Sheridan 氏の執筆によるものです。同氏は2015年12月より現職。それ以前は TNA の立法サービス部門のヘッド。ウェブとデータ標準が専門で数学、情報技術を専攻後、W3C の eガバメント・インタレスト・グループの共同議長も務めました 33

 シェリダン氏は「TNA デジタル戦略 2017-2019」に関するブログ記事や各種インタビューにも頻繁に登場して、この戦略の内容とその意義について語っています。これらの文献を参照しながら、「デジタル戦略」におけるキーワードについて説明します(本解題最後に主要関連文献の一覧を掲載しています)。


(2)Archives:文書館、記録資料 [凡例も参照]

 「デジタル戦略」の凡例にも記したように、archives(名詞)には大きくは2つの意味を持ちます。記録資料と文書館です。文書館における記録資料の最大の特徴は、それが人間の個別的あるいは集団的行為を記録したエビデンスの集積であるところにあります。記録を記録足らしめるものとしてコンテクストに関わる情報が必要です。

 文書館(機関)としての archive(s) は、米国の場合、他の英語圏とは異なり、単数の文書館を指す場合でも、archive(アーカイブ)ではなく、archives(アーカイブズ)とされることが多い点には注意が必要です。米国アーキビスト協会が2005年に出版した用語集には興味深い注意書きがあります。

Some United States archivists deprecate the use of the form 'archive' (without the final s) as a noun, but that form is common in other English-speaking countries. However, the noun 'archive' is commonly used to describe collections of backup data in information technology literature. 34
米国のアーキビストの中には、名詞としての「アーカイブ」(語末にズ(s)がないかたち)の利用に反対するものもいるが、この形は他の英語圏諸国では日常的な使い方である。しかしながら、名詞の「アーカイブ」は普通、情報技術に関する文献中でバックアップデータの集合を記述するために使われる。

 「デジタル戦略」が冒頭で引用している「アーカイブズ・インスパイア」の一節 'We will become a digital archive by instinct and design.' は、米語の場合なら、'We will become a digital archives by instinct and design.' とするのが普通でしょう。

 以上のことも鑑みて、「デジタル戦略」の原文での digital archive または digital archives を「デジタルアーカイブ」と日本語訳するのは誤解を招くでしょう。日本語の「デジタルアーカイブ」は様々な考え方がありますが、基本的には「文書や画像、動画といったアナログ資料をスキャンしてデジタル媒体に転換したものやCADなどでデジタルに作成された資料を集めてデータベース化したもの。また、それらをインターネットを介して誰でも利用できるよう提供するサービス。 'デジタルアーカイブ' の作成主体はさまざまであるが、一過的なデジタル資料の集積やサービスではなく、デジタル長期保存を志向するもの」と言えるでしょう。日本の「デジタルアーカイブ」は今のところ、「資料のデータベース」「サービス」であり、独立した機関や文書館を指す言葉ではありません。

 ここで日本語訳案の変遷を明かせば、最初の段階では 'We will become a digital archive by instinct and design' を「わたしたちは・・・(中略)・・・デジタル・アーカイブになる」と翻訳していたのですが、本文を精査する限り、この文章の主語は「イギリス国立公文書館」であり、「デジタル戦略」で archive(s) とされているのは一部「記録資料」も含まれますが、多くの場合、TNA もしくは英国のアーカイブズセクターを構成する2,500を超える機関(館)、あるいは諸外国の文書館である、という解釈・結論に至りました。


(3)By instinct and design:直感的本能と計画的意図によって

'We will become a digital archive by instinct and design':
「わたしたちは、本能的直感と計画的意図によってデジタル文書館になる」

 これはTNAの中期戦略「アーカイブズ・インスパイア」Archives Inspire(2015年~2019年)からの引用とされていますが、本解題執筆時点(2018年8月)では、すでに述べたように若干の違いがあり、これと全く同じ表現は「イギリス国立公文書館におけるデジタル目録作成実務」(2017年3月)に見られます。内閣府政策文書「政府デジタル戦略」(2012年)が「これまで政府はデジタル時代の便益について理解が遅れていた。しかし、わたしたちのサービスは将来、21世紀にふさわしいもの、つまりアジャイルで、フレキシブルで、デジタルがデフォルトなものになるだろう」35 と述べているように、英国政府はその諸活動において「デジタルがデフォルト」になるという議論を数年前に行なっており、これを TNA として独自に表現したものと言えるでしょう。

 'by default'、'by design'、そして 'by instinct' はいずれも日本語にするのが難しい部分です。'by default' と 'by design' は2018年4月に施行されてた EU の一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)第25条の見出し Data protection by design and by default にも見られます。これは、日本政府の個人情報保護委員会による日本語仮訳では「データ保護バイデザイン及びデータ保護バイデフォルト」36 とされ、日本語への翻訳は行われていません。今回の翻訳では、解釈を含めて上記のように訳出しました。Oxford English Dictionary(OED)で design(名詞)の意味を確認してみると、この言葉は大きくは2つの意味を持ちます。I. A mental plan、II. A plan in art です。日本語の「デザイン」は装飾的考案として理解されることも多く、これはもっぱらIIの意味です。しかし、「デジタル戦略」やGDPRが用いる、by design は I の a mental plan、すなわち人間の意図あるいは計画と言う意味でしょう。また、「デザイン思考」design thinking と言うコンセプトの影響も強く感じますが、紙数の関係もありここでは触れません。

 一方、instinctはdesign とは反対の考え方です。 'by instinct' は 英国の内閣府が2017年10月16日に発表した政策文書「素晴らしき公共サービス:英国で最も開かれた雇い主となる:公共サービスの多様性と受容性戦略」A Brilliant Civil Service: becoming the UK's most inclusive employer: The Civil Service Diversity and Inclusion Strategy 37 の中で次のように使われています。「・・・わたしたちは管理職の人々が '本能的直感によっていろいろな人が参加できる'ようになることを助け、日常の経営に関わる会話の中で多様な人々の参加が話題となるように、たくさんのツールの提供をはじめました」we launched a number of tools to help managers become 'inclusive by instinct' and embed inclusion within routine management conversations. 38 という文章です。

 'We will become a digital archive by instinct and design' は、デジタルスキルを持つ人材が中心になって、デジタル長期保存とコンテクスト化、プレゼンテーションと利用促進のための方策を設計しつつ、ウェブを介して利用する人々(特に一般の人々)にとっては、直感的にデジタルな記録資料を利用できる文書館を目指しているのではないでしょうか。特に、後者に関しては「デジタル戦略」本文の中でも「6. デジタルサービス」で利用者調査の必要性として次のように述べている点と大きく関わっているであろうと解釈しました。

利用できないデジタルサービスは機能しない。直感的なユーザーエクスペリエンスを提供するには、いくつか大きな課題がある。わたしたちのウェブサイトを利用しているほとんどの人は、文書館がどのようにコレクションを組織化しているのか理解しておらず、目録を検索するにあたって途方にくれてしまっている。

 ウェブサイトの利用者の必要性を知り、それに合わせたサービスを提供する必要性、ユーザーエクスペリエンスへの言及は、TNA のブログ記事 39 や英国図書館情報専門家協会(CILIP)のシェリダン氏のインタビュー記事 40 でも繰り返し登場するテーマです。


(4)First generation digital archive, second generation digital archive:第1世代デジタル文書館、第2世代デジタル文書館

 「デジタル戦略」ではデジタル文書館の第1世代と第2世代について述べています。業務のための筆記方法、記録方法が紙からコンピューターを利用したデジタルに移行する最初の段階では、電子的に書かれたものの管理の仕方は、紙や冊子時代のやり方を電子的に置き換えたものであり、このような実務の仕組みを「デジタル戦略」では第1世代デジタル文書館と呼んでいます。紙や冊子時代のやり方を電子的に置き換える例として、紙媒体の会議録がマイクロソフトWord を使って作成されたり、通信方法としての書簡が電子メールで置き換えられたり、ということをあげています。

 これに対して、第2世代デジタル文書館は、そもそも筆記方法とその保存、管理、提供が、コンピューターを利用した、全てデジタルなものとなり、保存、管理、提供する対象が、0と1のビットから成るデータになります。シェリダン氏はブログ記事の中で、第2世代デジタル文書館が扱わねばならない課題として、現在では重要な意思決定に関わるやりとりが行われて、記録(records)が作成される場となっているインスタントメッセージや Trello といったプロジェクトマネジメントシステムをあげています 41 。そしてこのような課題に対処する方法として、デジタルチームを交えたアジャイルな方法が必要であると「デジタル戦略」は強調しています。

 第1世代から第2世代への進化には、デジタル記録には3つの種類がある、という考え方が反映されています。「TNAデジタル目録作成実務」においてすでに述べたように、TNAではデジタル記録には(1)ボーンデジタル記録、(2)デジタルサロゲート(紙・冊子、マイクロフィルム、マイクロフィッシュといったアナログ資料をデジタル転換した記録)、そして(3)デジタル化された記録(出所に関わるメタデータを別にキャプチャしてファイルに埋め込んだ、高品質な記録)があると考え、(2)と(3)は本質的にはアナログであり、デジタル記録と呼べるものは(1)のボーンデジタル記録に限るという認識を持っています。「デジタル戦略」によれば、ボーンデジタル記録を扱う仕組み、機関こそが第2世代デジタル文書館なのです。新しい技術(もちろんデジタル)によって業務の仕方が変わっていくのに合わせて文書館もアーカイブの方法を変えていかねばならない、というのが「デジタル戦略」が主張する考え方です 42


(5)Disruptive:破壊的

 アーカイブズ関係者にとって「デジタル戦略」の中で最も分かりづらい言葉はこの「破壊的」disruptive という単語ではないでしょうか。この言葉が一躍脚光を浴びたのは1995年に当時ハーバード・ビジネス・スクール教授であったジョセフ・L・ボーワー Joseph L. Bower と同スクール助教授であったクレイトン・M・クリステンセン Clayton M. Christensen が『ハーバード・ビジネス・レビュー』に発表した「破壊的技術:波に乗る」Disruptive Technologies: Catching the Wave によってでしょう。1997年、クリステンセンは『イノベーションのジレンマ : 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』(2000年に刊行された日本語訳書籍のタイトル)The Innovator's Dilemma: When New Technologies Cause Great Firms to Fail を発表しています。以来20年にわたり、経営革新・技術革新をめぐる議論において「破壊的技術」による「破壊的イノベーション」disruptive innovation は非常に有力な経営理論として様々な議論を生んできました。クリステンセンらは「破壊的イノベーション」と「持続的イノベーション」には顕著な違いがあると主張します。すなわち、前者は現在の顧客にとって大切とみなされる業績を犠牲にしつつ、既存顧客からは評価されないけれども新しい価値を持つ優れた特徴あるイノベーションを生み出す一方、後者は既存の製品・サービスの改善を着実に生み出すようなイノベーションです 43

 「デジタル戦略」執筆者のシェリダン氏は TNA のブログ(タイトルは「デジタル・アーカイビング:破壊するか、破壊されるか?」Digital archiving: disrupt or be disrupted?) 44 で、技術革新に伴うイノベーションに関してジョセフ・シュンペーターの「創造的破壊」creative destruction に言及しながら、デジタル記録ならびに技術革新に対し文書館の実務はどうあるべきか、どのように変わるべきか、という議論を行なっています。結論として、絶え間ない技術革新に適応していくために、TNA は自分自身が変化し続け、破壊的であり続けることが必要、と言います45

 シェリダン氏はまた、図書館情報専門家協会(CILIP)による「秩序を探し求めることによって革命を作り出せ」と題したインタビュー記事の中で、「わたしたちの戦略は、イギリス国立公文書館が破壊的デジタル文書館になることについての話なのですが、それが何を意味するかというと、文書館実務を破壊し、わたしたちが今、目にしている課題に対処することができる新しい実務を開発するということなのです」46 とも述べています。

 クリステンセンらは1995年の論文で、「成功した既存の大きな組織は図体が大きいために、外部の破壊的技術によって開拓されつつあるマーケットに機敏に対抗するのが難しい。むしろ自社が出資したり、自社とは全く関係のないスタートアップに新規市場に挑戦させるのが良い。小さな企業はプロダクトや市場戦略をアジャイルに変えていくのが得意だ」47 、と述べている点は「アジャイル」との関連で注目されます 48


(6)Digital skills, digital research:デジタルスキル、デジタルリサーチ

 破壊的デジタル文書館に求められるスタッフとして「デジタル戦略」がフォーカスしているのはデジタルスキルを持った人材です。図書館情報専門家協会(CILIP)のインタビューの中でシェリダン氏は、ソフトウェア開発とデータベース技術を持った人材が必要であるといっています 49 。大量のデータを扱えるという点は現在TNAが用いているデータベースの選択にも関係しています。TNAが現在利用している3つのデータベース(legislation.co.ukはNative XML、Digital Records Infrastructure のメタデータには RDF Triple Store、「ディスカバリー Discovery」には Mongo DB)はいずれも大量のデータを扱うに適したNoSQLが利用されており、このようなデータベースに関する知識やスキルもTNAが求めるデジタルスキルとして重要でしょう 50

 さらに、ボーンデジタル記録に十全に対応できる第2世代デジタル文書館構想を支えるTNAの研究プロジェクトがいくつかあります。「5.デジタル文書館 5.3コンテクスト化する」では、記録に関するデータの不確実性への対応とリスク管理のための手法として、統計的因果推論に関わるモデルであるベイジアンネットワークの利用に言及しています。ブログ記事やインタビュー記事では、分散型台帳に関する研究プロジェクト Project Archangel や、NoSQL、確率論 Probabilities といった考え方や仕組みの文書館実務への適用可能性について研究が進められていることがわかります。

 政府の記録管理の中で問題とされているのが、「デジタルヒープ」 'Digital heap'、「デジタルワイルドウェスト」'Digital Wild West' といった、構造化されていないデジタルデータが政府の各所(共有フォルダーや個人のフォルダー)に大量に蓄積されつつある状況です。大量のボーンデジタル記録の適切な評価選別には機械学習の利用が必要であろう、といった説明もされています 51

 「デジタル戦略」ではアーキビストに関する言及はあまりありません。しかし、デジタルスキルを持ったスタッフだけでは、破壊的デジタル文書館のチームとしては充分ではなく、伝統的なアーカイブズに関する知識を持った専門家と、ユーザーエクスペリエンススキルの専門家の三者が協力して、最高のサービスを作り出すことを構想しています 52。CILIP のインタビューでのシェリダン氏の説明によると、「アーキビストはまとめ役・仲介者 mediator として極めて重要な役目を担い続けます。その役割のある部分はアーカイブズ(文書館・記録資料)に関する伝統的な知識と、仲介者[アーキビスト]のアーカイブズにおける伝統的な役割を取り込んで、新しいデジタルプロダクトとデジタルサービスに埋め込むこと」と言っています 53

 とはいえ、「デジタル戦略」全体としてみるならば、TNA がこれからますます必要性が高まると考えているデジタルアーキビストとは、コンピューター科学分野からのリクルート人材と思われます。


(7)Agile:アジャイルな

 「デジタル戦略」の注12で述べたように、「機動的で柔軟な」といった意味です。もともとはソフトウェア開発のための業務の手法でしたが、さまざまな領域での業務にも活用されるようになってきています。現代の業務改善は、それを支える情報システムやソフトウェアの開発と密接不可分の関係にあります。アジャイルの他にもスクラム、ウォーターフォール、リーン、カイゼンといったソフトウェア開発手法、業務改善手法が知られています。「デジタル戦略」に即して説明すると、デジタル記録の目録作成やWebサービスを通じた記録の提供といった業務は、もはやアーキビストが独占的に携わるものではなく、アジャイルなシステム、ソフトウェア開発や業務改善に携わる、デジタルスキルを持ったスタッフとの協働が基本、ということになるでしょう 54。「デジタル戦略」本文に「壁ツアー」の話が出てきましたが、アジャイル開発手法にとってホワイトボードや付箋といったツール、ホワイトボード前でのミーティングといった仕事の仕方も、伝統的な文書館の業務風景には見られなかったものです。

 そして、このようなアジャイルな業務の進め方を取り入れて、アーカイブズ(文書館)が技術革新に歩調を合わせて意義あるものであり続けるために必要なのが、デジタルスキルを持った人材の雇用であり、デジタルな文化をTNAの文化とすることなのです。

* * *

《4》日本におけるデジタル文書館について

 TNA「デジタル戦略」からくみ取ることが大切と思われる点が3つあります。

 1つは文書館のデジタルへの対応は、政府全体の取り組みがあってこそ、より充実したものになるであろう、ということです。

 2つめは、(名称はどのようなものでもいいですし、博物館や図書館との複合施設であってももちろん良いのですが、)アーカイブズ(文書館)の仕組みを広めることが望まれます。英国と日本の文書館に関わる基本的な数字を確認しましょう。人口は日本が英国の約1.9倍です。参考のために公共図書館の数値もあげておきます。

日本 英国
人口 1億2,649万人(2016年)55 6,565万人(2016年)56
文書館数 112(2018年)57 2,638(2018年)58
(英国の人口比と同割合の文書館数) (5,012) ---
公共図書館数 3,292(2017年)59 3,765(2016年)60
(英国の人口比と同割合の図書館数) (7,153) ---

 英国の人口に対する文書館数の割合を日本に当てはめると、その数は約5,000館となります。しかし、上にあげたように日本の文書館数は112館、人口比ベースで比較すると文書館数は英国の2.23%程度(図書館数は約7,000館となり46.02%)です。文書館、特に政府・自治体の文書館(公文書館)はアカウンタビリティを担保し、ガバナンスを強化するための情報基盤です。上にあげた数の少なさは、「健全な民主主義の根幹を支える」(公文書管理法第1条)61 には心許ないと感じられます。また、「112」という数は日本の国立公文書館ウェブサイトに掲載されているリンク先で、実際にはもっと多数の文書館(名称は様々であれ)が存在するでしょう。そういった文書館・記録資料についての情報がワンストップで提供されることも必要です 62

 3つめは、どこにリソースを振り向けることが必要か考えた場合、それは「人」であろう、という点です。「デジタル戦略」の一つの目玉は、デジタルスキルを持つ人材を雇用して、既存の職員の間でもデジタル文化を普及することでした。ボーンデジタル記録管理に関わる文書館業務は今後ますますデジタル人材を必要とします。文書館と記録資料を現在と未来の利用者に提供すること、とりわけその仕組みづくりにおけるイノベーションに携わるデジタル人材が、これからさらに重要になるのは日本においても同様です。ただし「デジタルスキルは高価なもの」(「デジタル戦略」2.デジタルの挑戦>2-5)です。一方、記録資料管理の専門家とされるアーキビストの養成と雇用は未来のデジタル文書館を考えるにあたっても基本的な要件であることに変わりはありません。デジタルスキル、例えばコーディングができる、だけでは文書館業務は成り立たちません。アーカイブズ(文書館・記録資料)の固有の価値と、その価値を利用者に提供するために必要な要件を理解した専門的な人材が必要でしょう。先にあげた「112」という数字を見ると、この点は引き続き強調すべき点です。

 本解題の最初に述べたように、世界の主要な国立公文書館では中期的な政策文書を発行してデジタル記録管理を重視した取り組みを進めています。米国国立公文書館(The National Archives and Records Administration)が2018年2月に発表した「戦略プラン」(Strategic Plan 2018-2022)によると、同館では2022年12月31日をもって、紙媒体による記録の移管、受け入れを停止することを計画しています。日本における公文書管理制度は、2019年に公文書管理法制定10年を迎えます 63。ボーンデジタル記録の移管や評価選別への機械学習や人工知能導入の初期開発コストの負担を免れる、後発性の利益に与るためにも、先進的なデジタル・アーカイビングの考え方と技術動向のベンチマーキング、ICA が2012年以来検討を進めている新しい記述標準 Records in Contexts(RiC)の研究にさらに取り組むことを期待します。

 TNA「デジタル戦略」は、文書館業務が、ボーンデジタル記録の再利用によるメタデータの更新、これによる新たなエンティティへの変容、デジタル長期保存、デジタル記録のコンテクスト化、ウェブサービスとしての提供、さらなる再利用化の促進・・・といった未知の領域に移行しつつあることを伝えてくれます。

 この日本語訳がみなさまの参考となるならば、幸いです。

* * *

《5》主要関連文献一覧(オリジナル記事へのリンク。タイトル日本語訳は解題執筆者による)

「イギリス国立公文書館 デジタル戦略 2017-2019」(2017年3月) (PDF)

「イギリス国立公文書館におけるデジタル目録作成実務」(2017年3月) (PDF)

「イギリス国立公文書館 デジタルリサーチ行程表」(2017年6月) (PDF)

イギリス国立公文書館 ブログ記事「世代ゲーム:デジタル記録とともに進化する」(2017年9月21日)

イギリス国立公文書館 ブログ記事「デジタル・アーカイビング:破壊するか、破壊されるか?」(2017年11月16日)

イギリス国立公文書館 ブログ記事「デジタル・アーカイビング: 'コンテクストがすべてである'」(2018年4月19日)

レコードキーピングラウンドテーブル(オーストラリア・シドニー)「レコードキーピング・ラウンドキャスト・エピソード1:スケールと複雑性、ジョン・シェリダンとともに」(2018年8月1日)

レコードキーピングラウンドテーブル(オーストラリア・シドニー)「レコードキーピング・ラウンドキャスト・エピソード2:プロジェクト・アークエンジェルと分散型台帳実験」(2018年8月9日)

レコードキーピングラウンドテーブル(オーストラリア・シドニー)「レコードキーピング・ラウンドキャスト・エピソード3:機械学習」(2018年8月19日)

英国図書館情報専門家協会(CILIP)情報専門職ウェブサイト インタビュー「イギリス国立公文書館が秩序を求めて革命を作り出す」(2018年2月13日)

J. Sheridan, A. Green, M. Bell(イギリス国立公文書館)他「アークエンジェル:信頼できるデジタル公文書のアーカイブズ」(2018年4月23日)



【注】

1 National Archives and Records Administration, Strategic Plan 2018-2022, February 2018
https://www.archives.gov/about/plans-reports/strategic-plan/strategic-plan-2018-2022
National Archives and Records Administration Strategy for Preserving Digital Archival Materials, Document Published: June 8, 2017
https://www.archives.gov/preservation/electronic-records.html

2 The National Archives, Archives Inspire: 2015~2019
http://www.nationalarchives.gov.uk/about/our-role/plans-policies-performance-and-projects/our-plans/archives-inspire/
The National Archives, Digital Strategy, March 2017
http://www.nationalarchives.gov.uk/documents/the-national-archives-digital-strategy-2017-19.pdf (PDF)

3 National Archives of Australia, Corporate Plan 2017-18 to 2020-21
http://www.naa.gov.au/about-us/organisation/accountability/corporate-plan/2018-19-to-2021-22.aspx
National Archives of Australia, Digital Preservation Policy, February 2018
http://www.naa.gov.au/about-us/organisation/accountability/operations-and-preservation/digital-preservation-policy.aspx
National Archives of Australia, Digital Continuity 2020, October 2015
http://www.naa.gov.au/information-management/digital-transition-and-digital-continuity/digital-continuity-2020/index.aspx

4 Library and Archives Canada, 2016-2019 Three-Year Plan
https://www.bac-lac.gc.ca/eng/about-us/three-year-plan/Pages/three-year-plan-2016-2019.aspx
Library and Archives Canada, Strategy for a Digital Preservation Program, November 2017
https://www.bac-lac.gc.ca/eng/about-us/publications/Documents/LAC-Strategy-Digital-Preservation-Program.pdf (PDF)

5 Swiss Federal Archives, Digital Archiving Policy
https://www.bar.admin.ch/dam/bar/en/dokumente/konzepte_und_weisungen/policy_digitale_archivierung.pdf.download.pdf/digital_archivingpolicy.pdf (PDF)

6 「해외 내셔널 아카이브즈 전자 기록 관리 전략 자료집 : 국가 기록원 연구 개발 사업 자료집」2018年6月
http://www.archives.go.kr/next/news/viewPublicationList.do?bg_no=439

7 アーカイブズ・インフォメーション研究会編訳『記録史料記述の国際標準』2001年、北海道大学図書刊行会、4ページ。

8 ポジションペーパー「イギリス国立公文書館におけるデジタル目録作成実務」2017年3月、6ページ。

9 「デジタル戦略」「4. 破壊的デジタル文書館のためのビジョン」から。

10 本解題《3》の(5)を参照のこと。

11 「破壊的イノベーション理論:発展の軌跡」『Diamond ハーバード・ビジネス・レビュー』2016年9月号、27ページ。

12 「デジタル戦略」は「破壊的イノベーション論」との関係に全く言及していません。以上の点は編訳者の解釈です。

13 「デジタル戦略」1.要旨。

14 中島康比古「イギリス国立公文書館の近年の取組:電子情報・記録の管理を中心に」国立公文書館『北の丸』第43号、2011年2月、178 ページ。
http://www.archives.go.jp/publication/kita/pdf/kita43_p170.pdf (PDF)

15 渡辺悦子「電子記録管理の現在:イギリス国立公文書館の場合」国立公文書館『アーカイブズ』第61号、2016年8月。
http://www.archives.go.jp/publication/archives/no061/4940
https://www.gov.uk/government/news/change-of-name-for-dcms

16 TNAのボードミーティングの議事録は全てTNAのウェブサイトで公開されています。
http://www.nationalarchives.gov.uk/about/our-role/executive-team/meeting-summaries/
過去分は「英国政府ウェブアーカイブ」にて参照できます。2015年10月末でグレッドヒル氏が退任し、その後「デジタル戦略」の著者であるジョン・シェリダン氏が後を継いでいます。
http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20151204111823/http://www.nationalarchives.gov.uk/documents/executive-team-meeting-october-2015.pdf (PDF)
次のサイトも参照しました。https://www.linkedin.com/in/johnlsheridan/

17 http://www.archives.go.jp/news/pdf/151106gledhill_ja.pdf (PDF)
http://www.archives.go.jp/news/20151106.html

18 https://www.gov.uk/government/publications/government-digital-strategy/government-digital-strategy

19 複数年度にまたがるTNAの政策やプログラムに関わる文書に関しては注意が必要です。TNA のウェブサイトに掲載されているのは、常に最新バージョンです。古いバージョンのものは「英国政府ウェブアーカイブ」(TNA が運営)http://www.nationalarchives.gov.uk/webarchive/ を検索する必要があります。現在「アーカイブズ・インスパイア」のページ http://www.nationalarchives.gov.uk/about/our-role/plans-policies-performance-and-projects/our-plans/archives-inspire/ に掲載されているものは最新の2018-2019年版です。
http://www.nationalarchives.gov.uk/documents/archives-inspire-2015-19.pdf (PDF)
過去のバージョンはアーカイブされた過去のページからリンクされているPDF(右側の薄緑色のサムネイル)をご覧ください。
2015-2016年版:http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20151203162641/https://www.nationalarchives.gov.uk/about/our-role/plans-policies-performance-and-projects/our-plans/archives-inspire/
2016-2017年版:http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20161007063634/http://nationalarchives.gov.uk/about/our-role/plans-policies-performance-and-projects/our-plans/archives-inspire/
2017-2018年版:http://webarchive.nationalarchives.gov.uk/20170720215256/http://www.nationalarchives.gov.uk/about/our-role/plans-policies-performance-and-projects/our-plans/archives-inspire/
各年度版とも表題は同じですが、内容、ページ数は異なります。版の違いを確認する一番簡単な方法は、最終ページにある国家著作権(Crown copyright)表記の西暦年を比較することです。

20 「デジタル戦略」の冒頭は正確には、'We will become a digital archive by instinct and design', Archives Inspire とあり、「アーカイブズ・インスパイア」の表現とは若干異なります。'We will become a digital archive by instinct and design' と全く同じ表現は、後述する「イギリス国立公文書館におけるデジタル目録作成実務2017年3月」の中に現れます。「デジタル戦略」における 'a digital archive by instinct and design' の意味を理解するには、「イギリス国立公文書館におけるデジタル目録作成実務」を併せて読む必要があります。(この項は3.のキーワードでも説明)

21 http://www.nationalarchives.gov.uk/archives-sector/projects-and-programmes/strategic-vision-for-archives/

22 TNAのオンラインサービス「ディスカバリー Discovery」の次のページで、イングランド、北アイルランド、スコットランド、ウェールズの各アーカイブズ機関を検索してみると、それぞれ2,268、29、278、93です。これを合計した2,668機関がアーカイブズセクターを構成しているといえます。http://discovery.nationalarchives.gov.uk/find-an-archive (2018年8月20日アクセス)

23 http://www.nationalarchives.gov.uk/documents/archives/Archives-Unlocked-Brochure.pdf (PDF)

24 http://www.nationalarchives.gov.uk/documents/archives/Archives-Unlocked-Brochure.pdf (PDF)
http://www.nationalarchives.gov.uk/documents/archives/Archives-Unlocked-Accessibility-Version.pdf (PDF)(ファイルサイズが小さいバージョン)

25 http://www.nationalarchives.gov.uk/documents/archives/Action-Plan-Brochure.pdf (PDF)
http://www.nationalarchives.gov.uk/documents/archives/Action-Plan-Accessibility-Version.pdf (PDF)(ファイルサイズが小さいバージョン)

26 https://blog.nationalarchives.gov.uk/blog/archives-unlocked-one-year/

27 http://current.ndl.go.jp/node/35510

28 The National Archives, Digital Cataloguing Practices at The National Archives, March 2017.
http://www.nationalarchives.gov.uk/documents/digital-cataloguing-practices-march-2017.pdf (PDF)

29 全部で4つの国際標準があります。ISAD(G)、ISAAR-CPF、ISDIAH、そしてISDFです。

30 The National Archives, Digital Cataloguing Practices at The National Archives, March 2017. (c) Crown copyright Licensed under the Open Government Licence v3.0.
「4. デジタル目録作成実務」の各項目で、ISAD(G) に関わる用語の日本語訳は国立公文書館「目録データについて」『アーカイブズ』第21号、2005年9月、26ページを参照しました。http://www.archives.go.jp/publication/archives/wp-content/uploads/2015/03/acv_21_p22.pdf 4.12から4.17までは「ISAD(G)には存在しないイギリス国立公文書館の記述プロパティである」と原文に注記されています。

31 原文は It was called PRO-Online and later rebranded as DocumentOnline.

32 原文は It may well be very difficult to render these accumulations within a traditional online catalogue.

33 http://www.nationalarchives.gov.uk/about/our-role/executive-team/john-sheridan/
https://www.linkedin.com/in/johnlsheridan/

34 http://files.archivists.org/pubs/free/SAA-Glossary-2005.pdf (PDF)31ページ。

35 注18参照。

36 https://www.ppc.go.jp/files/pdf/gdpr-provisions-ja.pdf (PDF)
https://www.ppc.go.jp/enforcement/cooperation/cooperation/GDPR/

37 https://www.gov.uk/government/publications/a-brilliant-civil-service-becoming-the-uks-most-inclusive-employer

38 https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/658488/Strategy_v10_FINAL_WEB6_TEST_021117.pdf (PDF)

39 https://blog.nationalarchives.gov.uk/blog/digital-archiving-disrupt-or-be-disrupted/
https://blog.nationalarchives.gov.uk/blog/digital-archiving-context-everything/

40 https://www.cilip.org.uk/page/TNSNoSQL

41 https://blog.nationalarchives.gov.uk/blog/generation-game-evolving-cope-digital-record/

42 同上。

43 Bower, J. L., and C. M. Christensen. "Disruptive Technologies: Catching the Wave." Harvard Business Review 73, no. 1 (January-February 1995): 43-53.

44 Christensen, Clayton M., Michael Raynor, and Rory McDonald. "What Is Disruptive Innovation?" Harvard Business Review 93, no. 12 (December 2015): 44-53.

45 https://blog.nationalarchives.gov.uk/blog/digital-archiving-disrupt-or-be-disrupted/ シュンペーターの「創造的破壊」とクリステンセンの「破壊的イノベーション」の関係については多数の論考が存在します。しかし「デジタル戦略」は両者がともに言わんとしている、既存のものを破壊するほどの大きな変革という意味で、特に両者を区別していることはないようです。

46 注40。'Create a revolution by seeking order' 原文は 'Our strategy talks about The National Archives becoming a disruptive digital archive and what we mean by that is disrupting archival practice, developing new archival practice that is capable of dealing with the challenges that we see.'

47 リプリント版10ページ。

48 リプリント版8ページ

49 https://rkroundtable.org/2018/08/19/recordkeeping-roundcasts-episode-3-machine-learning/#more-84403

50 注40。

51 TNAのブログその他では、政府における記録管理と公文書館制度の定着(パブリック・レコード・オフィス法から数えると150年以上、公記録法成立から数えると60年)によるデータの積み重ねが、自動化が可能である根拠/前提として強調されています。日本における電子公文書管理への AI の導入に関する議論の参考になるでしょう。
https://blog.nationalarchives.gov.uk/blog/digital-archiving-disrupt-or-be-disrupted/

52 注40。

53 同上。

54 同上。

55 日本国総務省ウェブサイトより。http://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html (2018年9月7日アクセス)

56 日本国外務省ウェブサイトより。https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/uk/data.html#section1 (2018年9月7日アクセス)

57 独立行政法人国立公文書館ウェブサイトより。リンク集のページに掲載されている「国立公文書館に類する施設」「国の保存利用機関」「類縁機関・大学アーカイブズ等」「全国公文書館等」の数を合計したもの。http://www.archives.go.jp/links/ (2018年9月7日アクセス)

58 注22参照。

59 日本図書館協会ウェブサイトより。
http://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai/%E5%9B%B3%E6%9B%B8%E9%A4%A8%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A/toukei/%E5%85%AC%E5%85%B1%E9%9B%86%E8%A8%88%202017.pdf (PDF)

60 BBCの2016年3月29日付の記事Libraries lose a quarter of staff as hundreds close中に上げられている数字。BBCが情報公開請求して取得した情報。
https://www.bbc.com/news/uk-england-35707956

61 公文書管理法は政府における行政文書の管理について定めたものです。しかし、その理念は、民主主義国家であるためには、地方自治体も共有する価値でしょう。

62 前掲の国立公文書館ウェブサイトの「報告書・資料等」のセクション内の「調査研究報告書 歴史公文書等の所在情報」では記録資料の所在情報の調査が集約されています。文書館・記録資料へのアクセスへの手がかりになります。http://www.archives.go.jp/about/report/ 例えば「平成29年度「歴史公文書等の所在把握を目的とした調査・検討」報告書(平成30年3月)」
本文(PDF)http://www.archives.go.jp/about/report/pdf/tyousa06.pdf
資料(PDF)http://www.archives.go.jp/about/report/pdf/tyousa07.pdf

63 冒頭で言及した韓国では、公文書(・公記録)の管理に関わる法律(名称は「公共機関の記録物管理に関する法律」)が1999年に制定されており、日本より約10年先行しています。


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