ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信)

第14号(2009年2月23日発行)

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☆      □■□ ビジネス・アーカイブズ通信 □■□

☆      No.14 (2009年2月23日発行)

☆   発行:財団法人渋沢栄一記念財団 実業史研究情報センター

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この通信では海外(主として英語圏)のビジネス・アーカイブズに関する情報をお届けします。

今号は文献情報4件です。

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◆ 目次 ◆

[掲載事項の凡例]

■文献情報:アーカイブズと法律 3
  □米国大統領令13489号 2009年1月26日

■文献情報:韓国国家記録研究院(RIKAR)ニュースレター
  □『記録でひらく世の中』27号 2008年12月

■文献情報:アーカイブズとウェブ 2
  □米国アーキビスト協会(SAA)訪中団ブログ

■文献情報:『ビジネス・アーカイブズ 省察と思索』97号 2008年11月

[略称一覧]

☆★ 編集部より:次号予告 ★☆
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[掲載事項の凡例]
・文献情報「韓国国家記録研究院(RIKAR)ニュースレター『記録でひらく世の中』」では目次のテキスト情報の日本語訳を掲載します。
・文献情報『ビジネス・アーカイブズ 省察と思索』には、文献のタイトル、著者名、所属等、ページを掲載します。また編集部による一行解説を付します。タイトル、編著者名、所蔵等には、編集部による日本語訳を付します。日本語で読みやすいものになるように、はじめに日本語訳を、続いて原文を記します。
・文献情報『ビジネス・アーカイブズ 省察と思索』中のワッズワース賞受賞作の情報は、受賞年、著者名、受賞作標題日本語訳、そして(  )内に英文著者名と英文原題を掲載します。複数の著者によるものは、著者名を/(スラッシュ)で区切ります。
・オリジナルが英文の情報に関して、著者名の発音が不明の場合も日本語表記を添えました。便宜的なものですので、検索等を行う場合はかならず原文を用いてください。

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■文献情報:アーカイブズと法律 3

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□米国大統領令13489号 2009年1月21日
"Executive Order 13489 Presidential Records"

前号では「2009年大統領記録法修正条項」(Presidential Records Act Amendments of 2009)が1月7日に米国議会下院を通過したことをお伝えしました。その後オバマ新大統領は就任翌日の1月21日、大統領令13489号(Executive Order 13489 Presidential Records)を発令しました。米国連邦政府の官報Federal Registerに全文が掲載されています。
http://edocket.access.gpo.gov/2009/pdf/E9-1712.pdf

大統領令13489号は1989年にレーガン大統領によって発令された大統領令12667号と同様の内容です。ブッシュ大統領による大統領令13233号では、大統領記録に対する行政特権を行使しうるものとして過去の大統領、あるいは過去の大統領が指名する者、そして副大統領記録に関しては過去の副大統領が特権を行使しうるとしていました。しかし、新しい大統領令13489号では現職の大統領と存命の過去の大統領のみが行政特権を行使しうることとされています。さらに、副大統領記録は大統領記録に含まれると定義し、これに対する特権の行使は現職大統領に限られることが明確にされました。

大統領令13489号は、行政特権の申し立てを独立して裁定する、という合衆国アーキビスト(NARA館長)の機能を再び取り戻しました。

同令の発令を受けて、米国アーキビスト協会(SAA)会長のフランク・ボールズ(Frank Boles)氏はオバマ大統領に宛てて公開書簡を送っています。SAAはこれまで公式に大統領令13233号に反対してきたことから、書簡では今回の新たな大統領令の発令に感謝の意を表明しています。さらに、辞任したワインスタイン前NARA館長後任の人選にあたっては、新政権の掲げるアジェンダ「開かれた政府」と「透明性」を推し進める上でも、アーカイブズ管理において実績ある人物を用いることを提案しています。そのような人選に積極的に関わる準備があることも示しています。

[関連ページ]

フランク・ボールズSAA会長からオバマ大統領への2009年1月22日付書簡
http://www.archivists.org/news/ObamaReEO13233.pdf

「2009年大統領記録法修正条項」
(Presidential Records Act Amendments of 2009)に関する記事
「歴史のための国民連合」(National Coalition for History)サイト
http://historycoalition.org/2009/01/07/presidential-records-reform-act-is-first-bill-passed-by-the-new-house/

1989年の大統領令12667号
http://www.archives.gov/federal-register/codification/executive-order/12667.html

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■文献情報:韓国国家記録研究院(RIKAR)ニュースレター
       『記録でひらく世の中』27号 2008年12月
      
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□『記録でひらく世の中:韓国国家記録研究院ニュースレター』27号 
   2008年12月

韓国におけるアーカイブズと記録管理に関わる研究、教育、運動、政策提言等を推し進めてきた韓国国家記録研究院(Research Institute of Korean Archives and Records: RIKAR)が昨年6月に創立10周年を迎えました。1998年6月13日に設立された韓国国家記録研究院は、ソウル市内にある明知大学校内に本部を置く社団法人です。「記録文化の定着は民主社会の礎石」と題された同研究院設立発起人一同による文章には次のようにあります。

「現在わたしたちは急激な変化の時期に居合わせている。全世界的に地球村が建設されつつあり、後期産業社会の新しい文明、21世紀を目前に控えている。私たちは、開発と経済発展に没頭する間に荒廃してしまった先祖たちの遺産の中に、私たちの未来の指標を探そうと思う。未来に対する対案は、過去に対する正確な認識を通じて作られるものであり、これは結局記録の体系的利用を通して準備することができるのである。このような記録文化の確立は社会の民主的運営に重要な礎石になるとわたしたちは認識している。「国家記録研究院」は記録の研究・保存を通じて民主的社会発展の土台を確立し、これを後世に伝える仕事において先駆的な役割を担おうと思う。もうこれ以上後回しにできない記録管理事業を本格的に確立することによって、私たちの社会のよりよい未来のために努力するつもりである。」

同研究院は創立10周年を記念して昨年6月12日、ソウル市内の世宗文化会館世宗ホールで「韓国国家記録研究院創立10周年記念と情報公開研究所設立のための後援の夕べ」を開催しました。この催しに関する記事を中心に編集された、同研究院のニュースレター『記録でひらく世の中』27号(2008年12月発行)をご紹介します。

http://rikar.org/inx/m3/newsletter/download.jsp?mask=1228896206781

特に目を引くのが表紙にある一節です。

「公共領域の記録管理の成果を土台に、『企業記録情報管理、文化資源管理、デジタル知識資源管理』の新しい課題に挑戦します。」

これは同誌4ページに掲載されているキム・ハッチュン韓国国家記録研究院院長による記事から採られた一節です。キム院長は昨年4月に開館した韓国国家記録院(国立公文書館に相当)の新館「ナラ記録館」に触れながら、10年前に韓国国家記録研究院を立ち上げ、「記録後進国」という汚名を晴らし、新しい記録文化を確立しようと奮闘してきたこの10年間の成果は特に政府記録の分野で達成されたと指摘しています。今後さらに取り組むべき分野としてあげられているのが「企業記録情報管理」「文化資源管理」「デジタル知識情報資源管理」の三つです。

韓国における企業史料管理、企業記録管理の今後の展開を知る上で同研究院の活動を今後も追ってゆきたいと思います。

[表紙のテキスト情報]

発行日:2008年12月1日
発行人:キム・ハクチュン
発行所:社団法人 韓国国家記録研究院
住所:ソウル市西大門区ナムガジァドン明知大学校本館10階
電話:02-300-1845〜6
ファクス:02-300-1837
ホームページ:http://www.rikar.org
Eメール:rikar@rikar.org

韓国国家記録研究院10周年を振り返って
韓国国家記録研究院10周年記念行事成功裏に開かれ...

「公共領域の記録管理の成果を土台に、『企業記録情報管理、文化資源管理、デジタル知識資源管理』の新しい課題に挑戦します。」

〈目次〉
記録の門
研究院10周年を振り返って /p.2
研究院10周年行事報告
「感謝の文章」:理事長/院長 /p.3
研究院10周年記念映像祝詞紙上報告 /p.4

記録の道
企画インタビュー /p.8
麻浦区庁チェ・サンミ記録研究士

記録の窓
国内動向 /p.10
ISO/TC46/SC11活動紹介:チョ・ソンアム
2008韓国国家記録研究院政策研究動向:イ・ヨンスク /p.13
国家記録院ナラ記録館開館行事ならびに記録管理フォーラム報告 /p.15
情報公開研究センター開所式ならびに事業紹介:ジョン・ジニム /p.16
情報公開活動の新しい地平:ハ・スンス /p.17
韓国大学記録館協議会2008秋季コロキアム報告:パク・ミジャ /p.18
海外動向 /p.19
第16回ICA総会セッション案内:ジョン・ウンジン
第16回ICA総会参観記:キム・ハキュ /p.21

記録の場
学会報告 /p.22
記録学会月例発表会ニュース整理
図書案内 /p.23
朝鮮総督府ならびにICA叢書翻訳完刊
研究院10周年寄付者名簿ならびに寄付総額 /p.24

★☆...編集部より...★☆

5ページには各界の方々からのお祝いの言葉が収録されています。韓国記録学会イ・ヨンハク会長、国家記録院記録情報サービス部ソル・ムンウォン部長などアーカイブズ関係者、KBSやハンギョレ新聞の記者といったメディア関係者、統合民主党(現民主党)院内代表、僧侶、司祭、大学関係者、さらに市民運動家として著名なパク・ウォンスン弁護士からの祝辞も紹介されています。

22ページの韓国記録学会の月例発表会の項をみると、毎月3〜4人の方々が発表しています。活発に研究活動が行われているのがうかがわれます。

そして、特筆すべきは23ページの図書案内です。2001年から開始されたICAの叢書シリーズの翻訳が全29巻の刊行をもって完了したということです。韓国国家記録研究院では他にもSAAのアーカイバル・ファンダメンタル・シリーズを5タイトル翻訳出版しています(以上、版元はソウル:真理探究社)。さらに埼玉県市町村史編さん連絡協議会編「地域文書館の設立に向けて」シリーズの5タイトルもパジュにあるハヌル社から刊行されています。韓国におけるアーカイブズ学、記録管理学の成長にはこのような活発な翻訳出版活動も大きく寄与しているのではないでしょうか。これに関連して、同研究院ウェブサイトには現在「記録学翻訳書支援事業案内」が掲示されています。記録学(日本でいうアーカイブズ学と記録管理学)分野における重要図書の韓国語訳に対して、1年間100万ウォン(2009年2月20日現在のレートで約6万円)を支給するというものです。支援金額の多寡とは別に、学術書翻訳出版に対する奨励という意味を持つのではないでしょうか。

なお紙媒体での『記録でひらく世の中:韓国国家記録研究院ニュースレター』はこの27号をもって終了し、次号からは"ウェブジン"(ウェブ上での電子出版形態)として同じタイトルで発行を続けるということです(23ページのお知らせ)。

[関連ページ]

韓国国家記録研究院ホームページ(韓国語)
http://rikar.org/index.jsp

韓国国家記録研究院 展望と目標「記録文化の定着は民主社会の礎石」(韓国語)
http://rikar.org/inx/m1/purpose/view.jsp?bbs=819&pg=0&seq=214

「韓国国家記録研究院 記録学翻訳書支援事業案内」(韓国語)
http://www.rikar.org/inx/m3/notice/view.jsp?bbs=797&pg=0&seq=475

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■文献情報:アーカイブズとウェブ 2

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□米国アーキビスト協会(SAA)訪中団ブログ
  American Archivists in China
http://p2p-aa2c.blogspot.com/

本通信第5号(2008年6月20日発行)の「編集部より:あとがき」で触れたSAA訪中団のブログをご紹介します。フォード社のアーキビストでSAA元会長エリザベス・アドキンス氏を団長とする訪中団のブログです。訪中団は2008年10月10日から20日にかけて、北京、上海を訪問しました。これは、1956年にアイゼンハワー大統領が設立した文化交流プログラムであるピープル・トゥー・ピープル・アンバサダー・プログラム(People to People Ambassador Programs)のなかの、シチズン・アンバサダー・プログラムによるものです。

21人のアーキビストと関係者6名の計27名の中国での様子が写真とともにつづられています。北京市档案館、人民大学、上海市档案館、中国档案学会などの訪問先での交流の様子をうかがうことができます。

[関連ページ]

ピープル・トゥー・ピープル・シチズン・アンバサダー・プログラム
http://www.peopletopeople.com/OurPrograms/CAP/Pages/default.aspx

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■文献情報:『ビジネス・アーカイブズ 省察と思索』97号 2008年11月

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□『ビジネス・アーカイブズ 省察と思索』97号 2008年11月

ロンドンに本部があるビジネス・アーカイブズ・カウンシル(BAC)が発行する定期刊行物『ビジネス・アーカイブズ』の最近号の目次情報をお届けします。『ビジネス・アーカイブズ』は年2回、5月と11月に発行されます。毎年5月に発行される号には『ビジネス・アーカイブズ 理念と実践』(原題:Business Archives Principles and Practice)、11月に発行される号には『ビジネス・アーカイブズ 原資料と歴史』(原題:Business Archives Sources and History)というタイトルが付けられています。『理念と実践』のほうはビジネス・アーカイブズ資料の管理や活用といった側面を、『原資料と歴史』のほうはビジネス・アーカイブズを資料として利用した歴史研究、あるいは資料紹介に関する論説が掲載されています。

今回ご紹介する97号(2008年11月)は通常の『理念と実践』『原資料と歴史』とは異なり『ビジネス・アーカイブズ 省察と思索』(原題:Business Archives Reflections and Speculations)と題されています。これは、BACが毎年表彰してきた「ワッズワース賞」創設30周年記念のための特別号です。ワッズワース賞は、BAC創立初期から40年以上BACに貢献したジョン・ワッズワ―ス(John Wadsworth, -1992)氏の功績をたたえ、英国経営史に際立って貢献した著作の筆者に送られる賞です。賞が創設されたのは1978年です。

97号所収のマイク・アンソン論文によると、ワッズワース氏は経済学を学び、ミッドランド銀行をテーマにした「株式銀行の100年」(原題:A hundred years of joint stock banking)を、ウィルフレッド・クリック(Wilfred Crick)氏との共著で出版しています。この本は1936年から1964年の間に4版を重ねました。後にはミッドランド銀行経済学部門長(Head of the Economics Department of Midland)そして同銀行の経済顧問となりました。1970年代にはロンドンのシティ・ユニバーシティの客員教授も務めています。BACの前身である企業史料保存協議会(Council for the Preservation of Business Archives)の理事に1935年に選出され、その後BACの会計(1949-1962)、研究顧問(1960年代)、副議長(1972-1977)を歴任し1977年にBACの役職から退任しました。このリタイアメントのときに、ワッズワ―ス賞の創設が提起されたのでした。

ワッズワース賞の選考委員は3名です。当初は経営史学者2名、企業関係者1名でしたが、近年は経営史学者1名、企業アーキビスト1名、企業関係者1名の構成ということです。

30年間の受賞作は次のようなものです。
[受賞年、著者名、受賞作標題日本語訳(英文著者名、英文原題 )]

1978 D・K・フィールドハウス、海外のユニリーバ:多国籍企業の解剖
(D. K. Fieldhouse, Unilever overseas: the anatomy of a multinational)

1979 ピーター・ペイン、コルビルズとスコットランドの鉄鋼産業
(Peter Payne, Colvilles and the Scottish steel industry)

1980 D・C・コールマン、コートールズ:ある経済的社会的な歴史
(D. C. Coleman, Courtaulds: an economic and social history)

1981 チャールズ・E・ハーヴェイ、リオ・ティント社:有力なる国際的鉱業企業の経済史
(Charles E. Harvey, The Rio Tinto Company: an economic history of an leading international mining concern)

1982 R・W・フェリアー、英国石油会社の歴史 第1巻:発展の時期(1901-1932)
(R. W. Ferrier, The history of the British Petroleum Company. Vol. 1: the developing years (1901-1932))

1983 D・J・ロウ、英国での鉛製造業:ひとつの歴史
(D. J. Rowe, Lead manufacturing in Britain: a history)

1984 マイケル・W・フリン、英国石炭産業史 第2巻:1700-1830:産業革命
(Michael W. Flinn, The history of the British coal industry. Vol. 2: 1700-1830: the industrial revolution)

1985 リチャード・ダベンポート=ハインズ、ダッドリィ・ドッカー:貿易戦士の生涯と時代
(Richard Davenport-Hines, Dudley Docker: the life and times of a trade warrior)

1986 ロイ・チャーチ、英国石炭産業史 第3巻:ビクトリア時代の卓越
(Roy Church, The history of the British coal industry. Vol. 3: Victorian preeminence)

1987 スティーブン・トリディ、企業、銀行業、そして政治:ブリティッシュ・スティールの場合 1918-1939
(Steven Tolliday, Business, banking and politics: the case of British Steel 1918-1939)

1988 クリスティン・マクロード、産業革命の創造
(Christine MacLeod, Inventing the industrial revolution)

1989 マーティン・キャンベル・ケリー、ICL:ある企業と技術の歴史
(Martin Campbell Kelly, ICL: a business and technical history)

1990 サー・ピーター・トムソン、成功を分かち合う:NFC物語
(Sir Peter Thompson, Sharing the success: the story of NFC)

1991 チャールズ・ハーヴェイ/ジョン・プレス、ウィリアム・モリス:ビクトリア朝英国のデザインと仕事
(Charles Harvey and Jon Press, William Morris: design and enterprise in Victorian England)

1992 オリバー・ウェストール、プロヴィンシャル保険会社 1903-1938:家族的なマーケットと競争的成長
(Oliver Westall, The Provincial Insurance Company, 1903-1938: family markets and competitive growth)

1993 ジョン・ハッチャー、英国石炭産業史 第1巻:1700年以前:石炭の時代に向けて
(John Hatcher, The history of the British coal industry. Vol. 1: Before 1700: towards the age of coal)

1994 T・R・グルビッシュ/R・G・ウィルソン、英国ビール業界 1830-1980
(T.R.Gourvish and R.G.Wilson, The British brewing industry 1830-1980)

1995 ジェフリー・トゥイーデイル、鉄鋼の町:シェフィールドにおける戦略的技術的企業家たち 1743-1993
(Geoffrey Tweedale, Steel city: entrepreneurs of strategy and technology in Sheffield 1743-1993)

1996 リチャード・サヴィル、スコットランド銀行:ひとつの歴史 1695-1995
(Richard Saville, Bank of Scotland: a history 1695-1995)

1997 ユセフ・カシス、大企業:20世紀におけるヨーロッパの経験
(Yousseff Cassis, Big business: the European experience in the twentieth century)

1998 ニーアル・ファーガソン、世界の銀行家:ロスチャイルド一族の歴史
(Niall Ferguson, The world's banker: the history of the house of Rothchild)

1999 ディビッド・キナストン、ロンドンのシティ 第3巻:金の錯覚 1914-1945
(David Kynaston, City of London. Vol. 3: illusions of gold, 1914-45)

2000 ジェフリー・ジョーンズ、多国籍企業への販売代理人:19世紀と20世紀における英国の貿易会社
(Geoffrey Jones, Merchants to multinationals: British trading companies in the nineteenth and twentieth centuries)

2001 マーガレット・アクリル/レズリー・ハンナ、バークレイズ:銀行業
(Margaret Ackrill and Leslie Hannah, Barkleys: the business of banking)

2002 マーティン・フランスマン、インターネット時代の電気通信:急成長から破たん、そして...?
(Martin Fransman, Telecoms in the internet age: from boom to bust to...?)

2003 J・フォーブス・ムンロ、海運会社と帝国:ウィリアム・マッキノン卿とそのビジネス・ネットワーク 1823-1893
(J. Forbes Munro, Maritime enterprise and empire: Sir William Mackinnon and his business network, 1823-1893)

2004 ロビン・ピアソン、産業革命に保険をかける:英国における火災保険 1700-1850
(Robin Pearson, Insuring the industrial revolution: fire insurance in Great Britain, 1700-1850)

2005 ジェフリー・ジョーンズ、ユニリーバを刷新する:変革と伝統
(Geoffrey Jones, Renewing Unilever: transformation and tradition)

2006 テリー・グルビッシュ、英国とチャネル・トンネルに関する正史
(Terry Gourvish, The official history of Britain and the Channel Tunnel)

2007 ピーター・スコット、南部の勝利:20世紀初期における英国の地域経済史
(Peter Scott, Triumph of the south: a regional economic history of Britain during the early twentieth century)

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『ビジネス・アーカイブズ 省察と思索』97号 2008年11月
Busienss Archives Reflections and Speculations
Number 97
November 2008
ISSN 0007-6538

編集者:マイク・アンソン Mike Anson
発行者:ビジネス・アーカイブズ・カウンシル Business Archives Council
慈善団体登録番号:CHARITY NO. 313336

[論説]

◆日本語タイトル:ワッズワース賞30周年
原題:The Wadsworth Prize at 30
著者名:マイク・アンソン
著者名原文:Mike Anson
ページ:1-6
一行解説:ワッズワース賞創設の経緯、ジョン・ワッズワースの略歴、受賞作一覧、受賞作の傾向、本号収録論文の紹介を含む。受賞作の多くは "officially commissioned histories"、すなわち日本でいう「社史」である。社史執筆者たちは企業アーカイブズへのアクセスが容易であり、原資料を豊富に用いることができる。筆者は、このようなアーカイブズの利用が、受賞作を生むひとつの理由であろうという。

◆日本語タイトル:ビジネス・アーカイブズと勝ち残り偏見の克服
原題:Business archives and overcoming survivor bias
著者名:ジェフリー・ジョーンズ
著者名原文:Geoffrey Jones
所属等:ハーバード・ビジネス・スクール
所属等原文:Harvard Business School
ページ:7-12
一行解説:経営史を学問の一分野とみなすことに対して長年にわたって批判が存在する。それは、失敗した企業よりは成功した企業を研究し、また企業の寿命を成功の判断基準としているという偏見によるものである。成功した大企業が社史を制作し、これら社史が経営史関係文献の少なからぬ部分を占めるということが、この批判をさらに強めている。しかし企業内に残される、あるいは企業から移管され図書館や文書館にある企業史料という観点からこの問題を眺めると、事態は違って見える。企業史料はすでに消滅してしまった会社の情報、他社の情報、顧客の情報、そしてイギリスの場合、史料を生み出した会社が関わりを持った非西欧社会に関する情報を豊富に含むものである。経営史研究者が扱う企業史料には多くの潜在的可能性が含まれるのである。

◆日本語タイトル:ビジネス・アーカイブズと経営史家のライフ・サイクル
原題:Business archives and the life cycle of the business historian
著者名:レズリー・ハンナ
著者名原文:Leslie Hannah
所属等:ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス
所属等原文:London School of Economics
ページ:13-18
一行解説:企業の一次資料を最も熱心に読み解くのは、博士論文を執筆中の若手研究者ではなかろうか。中堅、あるいはベテランの経営史研究者はさまざまな理由(激しい競争圧力、教科書執筆、幅広い視点からの研究、学生・院生教育という負荷、学部学科事務、査読要請、最新の研究動向把握など)から、アーカイブズでの一次資料調査に充てる時間を割くのが困難であったりする。このような傾向のひとつの例がアルフレッド・チャンドラー(Alfred D.Chandler, Jr.)である。彼の著作 "Strategy and structure"(日本語訳は三菱経済研究所訳『経営戦略と組織:米国企業の事業部制成立史』、実業之日本社、1967年)はアーカイブズを活用した好著である。その彼が後にまとめた"Scale and scope"(日本語訳は安部悦生他訳『スケールアンドスコープ:経営力発展の国際比較』、有斐閣、1993年)は風雪に耐えないものである。その第一の理由はこの著作ではアーカイブズ、つまり一次資料の利用が十分でないからである。今日コンピュータによるネットワーク化の発展によって、一次資料調査は格段に容易になっている。そうであるからこそ、経営史研究者はそのキャリアの中盤あるいは後半においてもアーカイブズ資料を利用すべきである。

◆日本語タイトル:欠落部分、あるいは経営史の困難
原題:Missing pieces, or the difficulty of business history
著者名:ロビン・ピアソン
著者名原文:Robin Peason
所属等:ハル大学
所属等原文:University of Hull
ページ:19-26
一行解説:2004年度のワッズワース賞受賞者ピアソンが、受賞作の資料となった火災保険に関する企業史料にたどりつくまでを述べる。ピアソンによると、歴史家の仕事は失われた部分を捜索する探偵、あるいは考古学者の仕事に似ている。筆者は「幸運」serendipityも資料探索にはつきものであるという。

◆日本語タイトル:アーカイブズの創造的利用と最近の研究範囲をイギリスにおけるマーケティングと貿易にまで拡大する
原題:Creative use of archives and the widening scope of recent research into the history of marketing and trading in Britain
著者名:ロイ・チャーチ
著者名原文:Roy Church
所属等:イースト・アングリア大学、UCL
所属等原文:University of East Anglia and UCL
ページ:27-38
一行解説:これまで経営史では傍流のテーマであったマーケティング、小売り、流通の分野を研究するにあたり、企業史料は重要な役割を果たしてきた。20世紀後半一世を風靡したチャンドラー流のパラダイム─理論をもとに歴史を説明する─は現実の豊かな歴史を見ていない。今日の経営史は、チャンドラー流のモデル中心主義から脱却すべきである。そのためには歴史的リサーチ、アーカイブズ資料を用いることが肝要である。その観点からもアーキビストは歴史家を支援する重要な役割を担っている。

◆日本語タイトル:ワットではなく「必要」:19世紀イギリス経済の周縁から発明を分析する
原題:'Want' not Watt: analyzing invention from the peripheries of nineteenth-century British economies
著者名:クリスティン・マックロード
著者名原文:Christine MacCleod
所属等:ブリストル大学
所属等原文:University of Bristol
ページ:39-54
一行解説:筆者は1988年のワッズワース賞受賞者。歴史における技術の役割を考えるにあたっては二つのアプローチがある。一つは技術を生み出した個人(例えばジェームズ・ワット)を重視する立場、もうひとつは発明を「必要」という観点からとらえて、いわばひとつの社会的現象とする立場である。筆者は後者のアプローチでもって、産業革命における技術革新と特許制度の重要性を説く。

◆日本語タイトル:「発見」を発見する:裁判アーカイブズの楽しみと危険
原題:Discovering 'discovery': the pleasure and perils of litigation archives
著者名:ジェフリー・トゥイーデイル
著者名原文:Geoffrey Tweedale
所属等:マンチェスター・メトロポリタン大学
所属等原文:Manchester Metropolitan University
ページ:55-68
一行解説:1995年、米国のチェース・マンハッタン銀行は英国のアスベスト・メーカー Turner & Newell (T&N)を提訴した。英国その他の国とはと異なり米国の法律では、裁判における被告側の企業史料はパブリック・ドメイン(だれでもアクセスできる)に置かれる。筆者はこの件に関して、膨大な企業史料の解読に関わり、通常は企業秘密によって秘匿されるような性格の資料を目にすることになった。その結果筆者が政治的、法律的な環境に置かれた経緯を述べる。この経験は、当該企業あるいは当該産業の性格に由来するものである。ここで述べられている事例は、会社が提供するオフィシャルな資料に依存しすぎることと好対照をなす。

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[略称一覧]
ACA: Association of Canadian Archivists(カナダ・アーキビスト協会)
ASA: Australian Society of Archivists(オーストラリア・アーキビスト協会)
BAC: Business Archives Council(ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
BACS: Business Archives Council in Scotland
DCC: Digital Curation Center(英国デジタル・キュレーション・センター)
(スコットランド・ビジネス・アーカイブズ・カウンシル)
ICA: International Council on Archives(国際文書館評議会)
LSE: London School of Economics and Political Science
(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)
MLA: Museums, Libraries and Archives Council
(英国博物館、図書館、アーカイブズ評議会)
NARA: National Archives and Records Administration
(米国国立公文書館記録管理庁)
RIKAR: Research Institute of Korean Archives and Records
(韓国国家記録研究院)
SAA: Society of American Archivists(米国アーキビスト協会)
SBL: Section for Business and Labour Archives
(企業労働アーカイブズ部会、ICA内の部会)
SoA: Society of Archivists(イギリス・アーキビスト協会)
TNA: The National Archives(英国国立公文書館)

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☆★ 編集部より:あとがき、次号予告 ★☆

ワッズワース賞の1991年の受賞作はウィリアム・モリスに関する著作でした。ちょうど上野の東京都美術館では「生活と芸術−アーツ&クラフツ展:ウィリアム・モリスから民芸まで」展が開催中です(4月5日まで)。
http://www.tobikan.jp/
http://museum.guidenet.jp/spresent.php?id=150

今号では韓国国家記録研究院設立10周年、BACワッズワース賞創設30周年記念に関わる文献をご紹介いたしました。本通信も今月創刊1周年を迎えたところです。小さな通信ではありますが、ビジネス・アーカイブズ、アーカイブズに関わる方々への情報提供の一助になっているならば幸いです。

次号では文献情報として最近のSAAのeパブリケーション、贈与証書(deed of gift)パンフレットほかを予定しております。2009年3月中旬配信予定です。どうぞお楽しみに。

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◆◇◆配信停止をご希望の方は次のメールアドレスまでご連絡ください◆◇◆

◆◇◆〈渋沢栄一記念財団からのお知らせ〉◆◇◆

□「企業史料ディレクトリ」:企業アーカイブズと企業史料の所在・概要ガイド

2008年7月22日公開いたしました。日本を代表する企業を中心とした企業アーカイブズと史料保存・学術研究機関合わせて30企業・団体・機関の概要、所蔵資料に関する情報を掲載しております。ぜひご覧ください。
http://www.shibusawa.or.jp/center/dir/index.html

□実業史研究情報センター・ブログ「情報の扉の、そのまた向こう」

「今日の栄一」「栄一情報」「栄一関連文献」「センターニュース」「今日の社史年表」「社史紹介(速報版)」「アーカイブズニュース」「図書館ニュース」をお届けしております。
http://d.hatena.ne.jp/tobira/

「アーカイブズニュース」では政府の「公文書管理の在り方等に関する有識者会議」の動向やアーカイブズのデジタル化、資料の発見・公開に関わるニュースを随時ご紹介しております。

ブログ画面右側の「カテゴリー」にある「アーカイブズニュース」をクリックしてください。「アーカイブズニュース」として掲載した記事をまとめて一覧することができます。

・カテゴリーの紹介
http://d.hatena.ne.jp/tobira/20080203

実業史研究情報センター・ブログ「情報の扉の、そのまた向こう」はほぼ毎日更新しております。どうぞご利用ください。

□「渋沢栄一関連会社社名変遷図」

渋沢栄一がどのような会社に関わったか、それが今にどうつながっているのか、一目でわかるように業種別にまとめて変遷図にしました。先日「海運」を追加し、現在39図を掲載しています。社名索引もありますので、どうぞご覧ください。
http://www.shibusawa.or.jp/eiichi/companyname/index.html

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ビジネス・アーカイブズ通信(BA通信) No.14
2009年2月23日発行 (不定期発行)
【創刊日】2008年2月15日
【発行者】財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター
【編集者】財団法人渋沢栄一記念財団実業史研究情報センター
      「ビジネス・アーカイブズ通信」編集部
【発行地】日本/東京都/北区
【E-Mail】
【サイト】http://www.shibusawa.or.jp/center/ba/index.html

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Copyright (C)
財団法人渋沢栄一記念財団
2007- All Rights Reserved.

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